011
アジトにしていた街から徒歩で二時間くらい歩き、最初の攻略地点であるべニアに着いた。
すでにアジトを引き払い、全て持参しての戦仕度である。
なので、俺はリシェールとともに荷馬車の荷台で揺られていた。
「着いたようですな。さて、ではここからはマリーダ様と『エルウィン傭兵団』のお力拝見とさせてもらいましょうか。事前の偵察によればべニア領主は領地におり、警備態勢は緩んでいるそうです。一気に領主の首を挙げれば組織的抵抗はなくなるでしょう」
「おう、任せるのじゃ。田舎の城程度、この鮮血鬼マリーダが打ち壊してくれるのじゃ!」
ちょっとマリーダさん、大切な魔王陛下への献上品だぞ。打ち壊したらマズいってと突っ込みたかった。
荷馬車の隣で真っ白な白馬に乗るマリーダが得意気に得物である大剣を振り回していた。
「マリーダ様、三城は魔王陛下への献上品だと申したはずですが。打ち壊された城を受け取って魔王陛下に喜んでもらえると思えますか?」
「むぅ、では住民も皆殺しにせぬともよいのか?」
はい。バイオレンス臭が大量に発散されました。マリーダの価値観は戦場で培われているため、俺とは発想が違うようだ。
「皆殺しなどしたら、周辺領主が殺到しますよ。領主とその取り巻きだけ討てば敵は自然に崩壊します。というか私がさせますから。次、皆殺し発言したら夜のお仕事は致しませんよ?」
「それは嫌だ。アルベルトとの夜の営みを楽しみにしておる妾にしたら、それは生殺しなのじゃ。分かった、絶対に皆殺しはしない。あと、気を付けることはあるかの?」
夜のお仕事停止が効いたのか、マリーダはその他の注意事項を自ら聞いてきた。
どうせなので、周囲の脳筋戦士たちにも守らせるよう、最上位者であるマリーダに言って聞かせることにした。
「分かりました。注意点は三つ。一つ、抵抗しない民百姓は斬らない。二つ、財宝は勝手に略奪しないで全部集め分配する。三つ、婦女に乱暴をしない。これらを守れない者はマリーダ様の剣で切り捨ててください。どんな忠臣であってもです。これらが守れなければ、すべてをマリーダ様の責任として一件の違反でも夜のお仕事を一切停止とさせてもらう上に、私はこの軍を抜けさせてもらいます。よろしいか?」
「厳しすぎるのじゃ。略奪と暴行は戦のたしなーー」
「仮にもエランシア帝国に復帰を目指す者がやるべきことですか? 貴方は山賊の頭領か? いや、違うだろう! エランシア帝国の帰参するための策に泥を塗るのか? そうしたければそうすればいいですよ! 私は三つの約束が守られねば去るだけだ!」
俺が激高した様子で三つの約束を守らねば軍を去ると言うと、マリーダがガクガクと震えだし、喘ぐように配下たちに宣言した。
「皆の者! 今、アルベルトが申した三つの注意点を守らなかった者は、妾が叩き斬るからのっ! 命を懸けて守れ! 分かったか!」
「「「こ、心得ました!」」」
体育会系の組織の楽のところは、上意下達の精神が叩き込まれていることだ。
上がやれと言えば、下の答えは『はい』、『承知』、『YES』、『心得ました』しかない。
そこの君、全部、同じだとか言わない。
変態級の忠誠心を持つ脳筋戦士たちは、最上位者のマリーダの意志を汲み取り、俺が科した三つの注意点を犬のように従順に護るはずだ。
それでも万が一、悪さをする奴がいれば、残念だが死んでもらうしかない。
規則のタガが緩めば軍の強さなど形骸化していく。
転生して兵書を読み漁った知識と、前世時代の知見が俺にそう囁いていた。
できれば殺したくないがな。だが、俺が生きているこの世界は、そんな甘っちょろい幻想が通じる世界ではないことを知っている。
殺れる時に殺さなければ、次の瞬間には自分の命が終わっている可能性もあるのだ。
「よろしい。では、私は皆の奮闘を見ておりますぞ。エルウィン傭兵団の武勲を轟かせようぞ」
「我らが力、見せてくれようぞ!!」
「「「おおぅ!!」」」
脳筋戦士たちの顔がいくさ人のものに変化した。
戦うことを至上としたいくさ人たち。俺はまだ彼らの本気を知らなかった。







