して欲しいこと
サミュエルとカイルの話です。
ちょっとイチャイチャしているので苦手な方はお気をつけください。
短めですが楽しんでいただけたら嬉しいです。
「ほら、こっち。ここに座って」
「はい、ありがとうございます」
学園を卒業してから三ヶ月、今はまだカイルは王都で勉強しながら子爵家の仕事も徐々に覚えている最中だ。しかしそれも後数ヶ月のこと。嫡男であるカイルは領地に戻ることになっている。
サミュエルも当然王宮にて王太子付きの補佐として仕事をしているが、月に数回はカイルと会えるように調整は欠かさない。今日も侯爵家にカイルを招待し食事などを楽しんだ後に、サミュエルの部屋にてソファに並んで座りお茶を飲んでいる。もちろん二人きりだ。使用人や護衛は部屋の外で待機させている。
「あーあ、これから僕たちがこうして頻繁に会うことは難しくなってしまうのかな。王都で仕事ができるように僕から子爵にお願いしようかな」
「ありがとうございます。大丈夫ですよ、なるべくこちらに来られるように自分でなんとかします」
僕だって会いたいんですよ? と言ってくれるのはものすごくうれしい。でもきっと自分ほどではないだろうとサミュエルは感じている。
それは前々から感じていたこと。学園に通っていた頃もずっと自分の片想いだと、卒業したらきっと関係など切れてしまうのだろうと考えていた。だから最後の最後で少しだけ気持ちが返ってきたことに舞い上がった。もしかしたら彼にとっての特別になれるのではないかと。
それからは距離を縮められるよう努力をした。警戒されないように少しずつ、ゆっくりでも確実に。暴走しそうになる自分を抑えて紳士的に振る舞ってきたつもりだ。
カイルも以前より心を許してくれるようになったとは思う。でも、やはり完全に信用されていないような、一線を引かれているようなそんな不安が拭えない。
「……カイルはどうして僕を頼ってはくれないんだ? 学園の頃からずっと」
言われてカイルはとても驚いた表情をした。
「どういうことですか? ものすごく頼っていましたけど?」
「君から何かを頼まれたことがないんだ。僕が勝手に押しつけていただけで。本当は鬱陶しがられているんじゃないかと思ったけれどやめられなくて……」
シュン、と音が聞こえそうなほど寂しそうに答えるサミュエルが愛おしくて、その少し俯いた頭に手を伸ばした。撫でられたサミュエルは嬉しそうに瞳を細め、されるがままにしている。なんなら手に擦り付けるように頭を傾けている。
カイルは思わずふっと微笑むと、ゆっくり撫でながら話を続ける。
「学園にいた頃は基本的にフリッツとトウアさんと行動を共にしていたんですけど、一人にならないわけではないので時々呼び止められることがありました」
ピタリとサミュエルが固まる。そういう状況になるであろうことがわかっていながらカイルに近づいた自覚があるから。
そしていつも一緒にいられるフリッツやトウアにはものすごく嫉妬していた。
「でもそんなことの後には大抵サミュエルさまが僕を癒やしてくれました。ふふふ、可愛かったなぁ。こんななんでもない僕に構ってくれてすごく嬉しかったんですよ? 頼まなかったんじゃなくてお願いする前にしてくださっていただけです」
頭に乗る手を離れないように自分の手で押さえながら、サミュエルは顔を上げた。目が「本当に?」と聞いている。カイルは視線をしっかりと合わせて軽く頷く。
「本当ですよ。試験勉強の時も、生徒会の時も、毎日の挨拶だって僕からではきっとできませんでした。いつも僕を見つけてくれたのはサミュエルさまなんです。助けて欲しい時にさっと来てくださるから、もしかしたら心を読まれているのかと焦ったこともあるくらいですよ」
綺麗な笑顔で真っ直ぐに伝えられた言葉に泣きそうになる。握っていたカイルの右手を引き寄せて腕の中に閉じ込めた。小柄なカイルはすっぽりと収まってしまう。頭に頬を擦り寄せ堪能していると、クスリと笑い声が聞こえる。どうしたの? と問いかけるようにきゅっと軽く力を入れる。
「ほら、今もして欲しいことしてくれました」
そう言うと背中に手を回してぎゅっと抱きついて、胸に額が押しつけられた。
あ、これは……マズイ。どくどくと鼓動が早くなる。おさまれおさまれ! 余裕がないのがバレてしまう。
そんなサミュエルをよそにカイルは言葉を続ける。カイルからすれば顔を隠せているので伝えやすいのかもしれない。
「あの………すごく我儘なお願いなら、あるんです」
「な、なに? 何でも言って」
「……………サミュエルさまの頭を撫でるのは……僕だけがいいんで……うわぁ! へ? んっ……」
恥ずかしそうにポソリと呟いたカイルの両肩を掴んで引き剥がすと、驚いて見上げたその唇をふさいだ。ビクッと身体が震え一瞬目を見開いたカイルは、そのまま静かに目を閉じた。
どっどっどっどっ
心臓なのか頭の中なのか、とにかく色んなところが脈打っている。耳の中もドクンドクンとうるさくて落ち着けない。それなのに妙に唇の感触だけが鮮明でどうにかなりそうだった。
初めてなのにこんな無理矢理は嫌われてしまうと、なんとか理性をふりしぼり唇を離すと、目の前には目元を赤らめ驚きつつもどこか嬉しそうな表情をしたカイル。もう、我慢なんて出来なかった。左手を肩から頭の後へ、右手を肩から腰へ移動しもう一度唇を重ねる。
二度三度と角度を変え触れるだけのキスを繰り返す。
「……ね、抵抗してくれないと調子に乗ってしまうよ? ふっ……それとも、これもして欲しいことだった?」
合間に唇を離すことなく問いかける。それが喰まれるような動きになり、カイルはゾクリと震えてしまう。力の入らない両手でサミュエルの胸を押す。
「も、ダメ……です。……ん、限界で……す」
その言葉にさらに煽られてしまうサミュエルは、どこか冷静な部分で、この先もうカイルを離すことは出来なくなるだろうと改めて自分自身を分析していた。
カイルを落ち着かせるために両頬を包み親指で目尻をそっと撫でる。
「あーかわいい、好き、大好きだよカイル。ね、君もそうだって言って? 好きすぎておかしくなりそうなんだ」
「……はじめて……はじめてちゃんと好きって言ってくれましたね」
「そ、そんなはずは……あれ? もう何十回も言っているはずで……」
「それでけっこう悩んだんですから、絶対言ってないです!」
むーっと口を尖らせて潤んだ瞳で睨まれる。サミュエルは口元が緩むのが抑えられない。ちゅっと尖らせた唇に軽く触れると、腰を引き寄せ耳元で囁いた。
「ごめんね、もう悩ませたりしないように何度でも伝えるから許して? 好きだよ。好き、カイルが好き、大好き」
「…………………わわわ、わかりましたから! もう大丈夫です!」
カイルは真っ赤になって数秒固まると、耳を押さえてのけぞった。しかし腰をガッチリとおさえられて逃げることができない。
「は、離してくださいいぃぃぃ。無理、むりぃ〜〜〜」
逃げられないカイルは顔を両手で覆って必死に背けようとする。
「ふふ、何が無理なの? ほらほらカイルも言って。ね、お願い」
手が外された耳にさらに甘えた声で囁く。カイルが小さく震えるのがまたかわいい。やっぱり耳が弱いんだよね、在学中から攻めたかいがあった。
さて、どうやって好きだと言わせようか。
今日という日を記念日にしたくなるほどサミュエルは幸せを感じていた。
「あ、兄様おかえりなさい。楽しかったですか?」
「たた、ただいま。う、うん、うれしか……た楽しかったよ!」
帰宅した兄を出迎え軽く挨拶をした弟は、何やらいつもと違う兄の態度に首をかしげる。
「食事もされてきたんですよね。美味しかったですか?」
「と、とっても美味しかっ、た……? お、おいし……」
『……ん、ちゅ。ふふ、おいし。食べてしまいたいくらい』
「──うわぁ! ご、ごめんねちょっと疲れたから部屋で休むねっ」
顔を真っ赤にしわたわたと慌てて部屋に向かう兄を見て、これは何か進展あったなと確信に近い推察をする弟であった。
たぶん弟が考えているほどの進展はないです 笑
きちんと気持ちを確かめ合うことをさせてあげたかったのですが、こんなことになってしまいました(^^;)
※ そういえば一話冒頭で言ってますね。すみません、あれはノーカンでお願いします。
読んでいただきありがとうございました。