パーティーにて新事実発見?
前話からの流れでパーティーします。
「本日はお集まりいただきましてありがとうございます。卒業以来こうして集まるのははじめてのことで、本当に嬉しいです。少しの時間ですが楽しんでくださいね。今回のきっかけを下さったリーナさんも近々ご結婚されるそうです。ぜひみんなで祝福しましょう!」
兄様が始まりの挨拶をする。
とても気持ちよく晴れた今日、ポート子爵家自慢の庭園にてガーデンパーティーが開かれた。人数はごくごく少数なのでこじんまりとしたお茶会? 同窓会? という感じだが、集まっているメンバーが豪華すぎるのでものすごくキラキラした空間になっている。ここはポート子爵家で間違いないはず。雰囲気は王宮のパーティーのようだけれど。
なんと結局当時の生徒会メンバー勢揃いとなったのだ。さらにやっぱりエドワード先生も参加している。
もともとの発起人というか言い出しっぺのトウアさんの親友リーナさんは、顔にアリアリと『こんなはずじゃなかった!』という表情を浮かべてトウアさんの後ろに隠れている。
トウアさんはというと、そんな親友のことよりも久しぶりに会えた皆との再会に喜びを隠しきれない様子だ。ウキウキと心弾んでいるのがわかる。
対照的な二人に思わず笑ってしまう。
「何を楽しそうに見ているのよ」
ぼくの横にはユーリス姫さまがいる。直接はこの会に関係はないが、企画段階から巻き込まれ……口を出し……こんなに大事にしてしまった犯人でもある。
いや、でも最終的に姫さまが何かしなくてもこうなっていた気もするから、姫さまが悪いわけではない。うん。
「姫さまのおかげて無事に開催できたなぁ、と喜んでいたんです。ありがとうございます。今日も来ていただけて嬉しいです。ドレスもお似合いですよ」
姫さまの顔を覗き込むようにして答えると、少し照れたように目線をそらしながら「ありがとう。セシルも素敵よ」と小さな声でポソリと呟いた。可愛いすぎて顔がニマニマしてしまう。
「ぼくは今日おまけでお手伝いですからね。あまり華やかな服装は出来なかったんですが、褒めていただけたのでやる気が出てきました」
ぼくの仕事はただ主催者側として兄様の補助をするだけだ。
だからぼくたちがいるのも一番端の位置。
はっきり言って、この方達なら観察しているだけで価値があるし、ただ単に興味もあったりする。
兄様に詳しく聞いたことはないけれど、時々会話に出てくる内容をぼくなりに分析すると、フリッツさんはアイリーン様の領地に乗り込んで婚約の申込みをしているようだ。王太子様はサミュエル様と王宮で執務をされていて、トウアさんは学園で実習中。
この場合、トウアさんに対してはエドワード先生が有力候補なのだろうか。その割にはエドワード先生に余裕がないように見える。
ふむ。
「お兄様! がんばって!」
姫さまが胸の前で手を握り小声で応援している。不思議に思って目線をたどると、王太子様がトウアさんとリーナさんに話しかける所だった。
え? もしかして王太子様ってそうなの?
「トウア嬢、久しぶりだね。今日もとても美しいな」
「あ、ありがとうございます。先日は王宮でお声かけいただきありがとうございました」
「偶然会えて嬉しかったよ。本当は毎日でも会いたいのだけれどね」
キラりんとした笑顔をむける王太子様。
あー、そうだったんだ。それは余裕なくなりますね。
「姫さま? 王太子様は在学中からもしかして?」
「そうなのよ! 伝えてはいるらしいんだけど、その時はダメだったみたいだわ」
「そ、そうだったんですね」
爆弾発言だよ……ぼく聞いてよかったのかな。
あ、エドワード先生が突撃した。
「王太子様、お久しぶりでございます。ご活躍されていると噂で聞いておりますよ。トウアも学園での実習をがんばっています」
「はい。エドワード先生にとても丁寧にご指導いただいています」
二人で目を合わせ微笑み合う。
王太子様の眉がピクリと上がった気がする。ここからじゃはっきり見えないから雰囲気だけれど。
エドワード先生、頑張ってるなぁー。
「学園での実習が終わったら、次は文官見習いに入るのだったな。指導できる者に声はかけてあるから安心してくれ。また連絡するよ、実習がんばって、応援している」
「ありがとうございます。色々お気遣いいただき感謝しています」
おっと今度は王太子様からの攻撃(?)だ。
エドワード先生、ちょっとひるんでいるか⁈
「リーナ嬢、結婚おめでとう。トウアのことは我々がいるから安心してほしい。では楽しんで」
「は、は、はいぃぃぃ」
リーナさんは恐縮しまくってしまっている。一番すごい人が最初に来ちゃいましたからねぇ。
トウアさんが背中をさすって落ち着かせている。
エドワード先生がリーナさんをしばらく見つめて、ひとつ頷く。
「やはり君は昔トウアと一緒に勉強したリーナか? すぐに気づかなくてすまないな」
「わぁ覚えていてくれたんですか? うれしいです。そうです、数日だけトウアと一緒に教えてもらいました。エドワード先生は昔からカッコよかったけど、大人になっても素敵ですね!」
「はは、ありがとう。十年以上前だからな、リーナもすっかり大人の女性だな。結婚おめでとう、幸せにな」
「はい! エドワード先生も早く奥様を見つけてくださいね!」
「……がんばるよ」
チラとトウアさんに視線をやったのを、ぼくは見逃しませんでしたよ。
リーナさんも少し緊張が解けたかな?
「トウアさん、リーナさん、エドワード先生も来ていただいてありがとうございます。お楽しみいただけてますか?」
兄様が声をかける。
「カイル久しぶりだな。招待ありがとう。リーナにも会えて懐かしかったよ」
「お知り合いだったんですか? それは良かったです。セシルも学園でお世話になっているようで、これからもよろしくお願いします」
「カイル様、お会いできてうれしいです。こんな素敵なパーティーを開いてくださってありがとうございます。感激です」
「トウアさんもご連絡ありがとうございました。セシルにトウア先生の授業を自慢されてうらやましく思っていたんですよ。制服着て忍び込んでみましょうかね?」
「ふふっ、カイル様なら平気かもしれないですね」
くすくす笑い合う二人を、エドワード先生が呆れた様に見る。
「やめておけよ。本当にやりそうで怖いんだお前は。実習中は無理だが、もしトウアが教師になったら見学できるようにしてやるよ。……だから、絶対やるなよ」
「はーい、先生」
兄様はやらないと言い切れないからなぁ。制服を隠しておくように言っておかなきゃ。
「リーナさん、僕はポート子爵家カイルと申します。僕に会いたいと言ってくださったんですよね」
「お招きありがとうございます。リーナと申します。私のわがままでまさかこんなことに……こんなスゴイ場所で皆様に挨拶できるなんて! 夢でも見ているみたいです」
「はじめは僕だけのつもりだったんですけれど、久しぶりに会いたいと思っていたのは皆同じだったようで。リーナさんに便乗した形で集まってしまって、気分を悪くさせたのではないかと心配していました。この場にいる限りは、皆さん気軽にお話できますのでぜひ楽しんでくださいね」
リーナはしっかりカイルに正面をむけて、腰を直角に曲げ頭を下げる。
「カイル様、あらためて子供の頃トウアを助けてくれてありがとうございました。あの頃から、トウアは目標を見つけて人一倍がんばっていたし、その姿を見て私もがんばらなければと背中を押されました。どうせ平民だから、なんて勉強する気もなかった私までその気にさせたんです」
「リーナ……」
「私の家は商売をしているので計算くらいは親から教えられていましたが、きちんと学びたいと平民はなかなか言えないんですよ。それに、貴族学園に通っている時もトウアの面倒をみてくれていたんですよね。すごく心配していたので楽しそうに通っているトウアが……ぐすっ……うれしくてっ……」
「ありがとうリーナ」
トウアさんとリーナさんは感極まった様子で涙ぐんでいる。
美しき友情ですね。お招きできてよかったです。
そんな二人を微笑ましく見守っていた兄様が、ふと顎に手をやり視線を落とす。そして何かをひらめいたのか、リーナさんをじっと見つめる。
「お家が御商売をされているということですが、もしかして噴水広場の近くの雑貨屋さんですか? 犬の置物が目印の」
「は? えっと、そうですけど? 知ってるんですか?」
「すみません、ちょっとこちらに」
戸惑うリーナさんの手を取り、エスコートして向かった先は、アイリーン様とフリッツさんの所だ。
二人は以前よりすごく自然に、一緒にいることが当たり前な空気を作っている。馴染んでいるんだな。
「失礼します、アイリーン様、フリッツ。こちらトウアさんのお友達のリーナさんです」
リーナさんは訳もわからずペコリと会釈する。
「レイルズ伯爵家アイリーンと申します。ご結婚おめでとうございます。こうして集まるきっかけを作ってくださってありがとうございます。トウアとはなかなか会うことができませんでしたの」
「俺はフリッツ。アイリーン嬢の婚約者だ。よろしく」
「婚約者候補ですわ。まだ認めておりません」
もうほぼ婚約者だろー、まだです、と軽口をたたきあっている。気にせず話しかける兄様。
「ねぇ、フリッツ。リーナさんのお家は『犬の雑貨屋さん』なんだって。覚えてない?」
「市街のだろう? 子供の頃にカイルと買い物に行って……あ! 店番してた女の子か? あの頃色々街のこと教えてもらったよな」
「そうそう。何度か会っていたのに名前聞いてなかったよね」
「へ? え? はぁ? いや、でも、もしかしてあの時の二人組なの? けっこう悪ガキだったわよね? 貴族様だなんて思いもしなかったんだけど……本当に?」
「あの頃まだフリッツはガラ悪かったから」
「しょうがねぇだろ。貴族になりたくなかったんだから」
「やだ、ホントなの? こんな偶然あるのね? 驚いてばかりなんだけど。ね、トウアには話したことがあるばずよ。面白い二人組が買い物に来たって」
「うんうん。その時どっちが好みか聞いたの思い出した」
「ちょっ! ヤメテ絶対言わないでよ!」
トウアさんに飛びついて口を塞ぐリーナさん。
色々新事実が判明しています。でも楽しそうでとてもいい雰囲気です。
ぼくが観察に没頭している間に、姫さまはアイリーン様と王太子様、サミュエル様とお話しされている。
ぼくはエドワード先生の所に移動する。
「先生、ぼくは先生を応援しますね」
にっこり笑って言うと、無言で微妙な顔をされた。
その後も学生の頃のように和気あいあいとした時間が流れていた。気取っていないこんなパーティーもとても素敵だ。
「きゃ」
横にいる姫さまが小さな悲鳴をあげ口元に手をやる。嬉しそうに目元がゆるんでいる。
何事かと視線を追うと、兄様とサミュエル様だ。あの二人に関してはノーコメントでお願いしたいです。弟としてなかなかフクザツなのです。
あぁ、サミュエル様が『あーん』をせがんでいる。兄様がまわりをうかがってから、スプーンを口元に持っていく。嬉しそうにパクリと食べ、お返しに兄様に『あーん』している。そこは二人の世界……。
兄様! 見えてますよ! こちらからは丸見えですからね! 少し離れているので声は聞こえないですけど!
はぁー、とため息をつきそうになるぼくと違って、姫さまはとても楽しそうだ。なんだかちょっと面白くないぞ。
ぼくは給仕に声をかけ、飲み物をもらう。
「姫さま、どうぞ」
果実のジュースを渡すと、お皿から小さなクッキーを手に取って姫さまの目の前へ。
「はい、あーん」
「へっ!? な、なに?」
「羨ましそうに見ていたので」
「う、うらやましくなんか!」
「イヤですか?」
「そんなしゅんとした顔しないでっ! い、イヤなわけではないけど……」
「では、どうぞ。あーん」
小さな口を開けてパクリと食べると、みるみる真っ赤になっていく。ぼくはうれしくてにっこにこだ。
「もう! なんでそんなにうれしそうなのよ。恥ずかしいわ」
「姫さまが可愛くって」
そんなぼくらを王太子様が怖い顔で見ているとは知りませんでした。
後から兄様に聞いて震え上がったのは格好悪いからナイショです。
リーナに結婚祝のプレゼントをあげたりするところも考えたんですが、長くなりすぎたので断念しました。
上手くまとめられる技術が欲しいです。
読んでいただきありがとうございました。
良いお年をお迎えください。