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トウアの悩み相談

お久しぶりです。

「トウア、あたしがどれだけあたなの事を大切に思っているかわかってる?」

「うん。すごく感謝しているし一番の親友よ。でもそれとこれとは、ね?」

「大丈夫よ。きっとお願いをきいてもらえるわ。じゃ、忙しいからもう行くわ。いい返事を待ってるからね」

「え? だ、だからそんな無茶なことは……もう、素早いんだから!」


 すでに走り去った後の親友を思い浮かべて頭を抱える。

 彼女は昔から、『こう』と決めたらなかなか引かない性格であることはよく知っている。ふぅ、とひとつため息を吐いてトウアは自分の家に戻った。







 こんにちは、セシルです。

 トウアさんが教育実習生として貴族学園に来てから三日が過ぎた。エドワード先生の指導のもと、トウアさんも先生として授業をしている。

 ぼくのクラスも今日はじめてのトウア先生の授業だ。クラスメイト達は騒ぐこともなく大人しく(中には見惚れている生徒もちらほらいるが)授業を受けている。

 平民だからと反発する生徒もいるかと心配したけれど、杞憂だったようだ。

 教室後方からのエドワード先生の睨みが効いているのかもしれないが。


 トウアさんの声は心地よくてとても癒される。

 なのでぼくはリラックスしすぎてしまい、かえって授業に身が入らなくなりそうになるというよくわからない状況になっている。気を引き締めて受けねば。


「──では、今日の授業はこれで終了します」


 資料を揃え教室を出て行くトウア先生を慌てて追いかける。少しだけ授業で確認したい所があった。癒されすぎてほうけていたわけではない、はず。


「トウア先生、すみません──」


 廊下でエドワード先生と合流し準備室に向かうトウアさんを呼び止める。途端に不安そうな表情になるトウアさん。


「はい! な、何かわかりにくい部分がありましたか?」

「いえ、少し確認したい部分があっただけです。授業はとてもわかりやすかったです」


 軽く首を振りながら答えると、エドワード先生からの指導が入る。


「大丈夫だからしっかり自信を持て。不安そうに授業をされたら生徒が戸惑ってしまうだろう。……馬鹿な奴らには侮られるしな」

「はい! ありがとうございます。気をつけます」


 背筋を伸ばして答えるトウアさん。最後の小声聞こえてました? 

 ぼくの見方が変わったのか、接する機会が増えたからなのか、エドワード先生の案外大人気ないところに気付いてしまった。隙のない貴公子のような方だとご令嬢たちが噂をしていたけれど……

 あ、やばいちょっと睨まれている。聞こえてないです、すみません。


「あの、ここの部分なんですが……トウアさん? じゃなくてトウア先生? どうかされました?」


 どこか上の空で教科書を開いたぼくの手元を見ているように感じて声をかける。何か別の事を考えているみたいだ。


「ご、ごめんなさい、質問ですよね。ここは〜」


 流石トウア先生、的確に説明をしてくれる。


「ありがとうございます。よくわかりました」

「…………あの、セシル様。か……いえ、わかりにくい所があったらまた教えてくださいね。次の授業での参考にします」


 トウアさんは何かを言いたそうで、でも躊躇っているようだ。

 チラリとエドワード先生に目線でお伺いをたてると頷いてくれたので、にっこりと笑顔をつくって断れないお誘いをしてみた。


「放課後、生徒会室に来ていただけますか? 相談したいことがありまして。エドワード先生の許可はいただいていますので」






 ぼくも無事に生徒会入りをはたした。

 ほぼ姫さまのゴリ押しだけれど、ぼくもがんばったのです。


 とにかく一緒に活動する他のメンバーに認めてもらうことが大事なので、良く言えば姫さまの右腕……現実的にはパシリとして有用であるとアピールするためがんばった。


 ある時、姫さまの信頼する学友であり従姉妹でもある副会長に「セシルの一番の仕事は会長のお世話よ。よろしくね」と言ってもらえた。仲間として認めてもらえたんだと実感できて嬉しかった。


 そうして現在は庶務として生徒会役員の一員だ。


 というわけで、生徒会室を使わせてもらっても大丈夫なのです。えっへん。エドワード先生が担当教諭だしね。






「お時間をいただきありがとうございます。こちらにおかけください」


 放課後、生徒会室を訪ねてきたトウアをソファに案内して三人分のお茶の用意をする。

 エドワード先生は仕事がありこの場にはいない。


「ユーリスさま、会長のお仕事があるんじゃないんですか?」


 先程ぼくが生徒会室にやって来ると、すでに姫さまが机に向かっていた。今日は会議はないはずなので急ぎの仕事が入ったのかと尋ねると、ちょっとやっておきたいことがあって、とのことだった。

 でも今はソファに座っている。トウアの向かい、ぼくが座る予定の場所に。


「キリがついたから大丈夫よ。あ、そこの棚にお茶請けがあるから出してちょうだいね」

「……はい、わかりました」


 反論を許さない素敵な笑顔。いつものことだ、諦めよう。

 トウアさんが話にくくなることがなければいいんだけど。

 は! 王太子様のことだったら聞かれたくなかったりするかな。いや、逆に姫さまの方が話しやすいか……


 紅茶を蒸らしながらひと通り考えるが、結局答えは出ない。そもそも内容知らないしね、なんとかなるか。

 お茶を注ぎクッキーと共にテーブルに出す。


「トウア様、先生としてとてもよい授業をしてくださると評判を聞いていますわ。わたくしのクラスは予定にないなんて残念です」

「ありがとうございます。エドワード先生に助けていただいてばかりで。考えていた以上に緊張してしまって毎回ドキドキなんです」


 女子会の様な二人を眺めてほっこりしていると、さっさと座れとばかりに姫さまの横をポンポンとされる。

 ソファの隣に座ることに、うれしはずかしいなんて思うのはどうせぼくだけですよね。立って横にいるのは近くても平気なんだけど、どうしてか座るとなると緊張する……あぁ、はいさっさと座ります。


「それで、ご相談ということでしたけど?」

「はい。何かぼくにお話がありそうだったので、気になってしまいまして」

「それでわざわざ……ふふっ、お気遣いありがとうございます。なんだかカイル様を思い出しました。いつもまわりに気を配ってくださっていて」


 学生時代を思い出したのか、笑顔が少し幼く可愛く見える。リラックスできたかな? とうかがっていると、横から頬をつねられた。弾けるように姫さまに顔を向けると手が外れた。


「いたっ、どうしたんですか。何で急に」

「顔がゆるんでたからよ!」


 はーもう、いつもと同じだと思うんだけどな。頬をさすりながらトウアに視線を戻すと、クスクス笑っている。ちょっと恥ずかしい。


「すみません、お二人が可愛くて。実は、セシル様にお願いがございます。図々しいとわかっていますので、断っていただいてもかまいません」


 トウアさんによると、幼馴染の親友がもうすぐ結婚して王都を離れるらしい。それで一度会ってみたかった兄様に会わせてほしいと言われたという。


「私がカイル様をきっかけに、貴族学園を目指して勉強していた頃から応援してくれていたんです。まわりは反対する人の方が多くて、とても心の支えになりました。彼女のためなので叶えてあげたいのですが、貴族であるカイル様を私なんかがお誘いするなんて非常識すぎて……今は王都を離れていらっしゃるのですし」

「そういうことだったのですね。わかりました、兄様に聞いてみます。今月もこちらに来る予定があったはずなのでその時にでも。都合が合えば喜んで会うと思いますよ。トウアさんの実習の話をした時も会いたがっていましたし」

「本当ですか? ありがとうございます。彼女が王都を離れるのが四ヶ月後なので、もしご都合が合いましたらぜひお願いします」


 ほっとした表情を見せるトウアさん。きっと悩んでしまっていたんですね。よかったよかった。

 ある種の満足感にひたっていると、姫さまが一言。


「お兄様も誘っておくわね」

「は?」

「へ?」


 思わず変な声が出てしまう。トウアさんも驚いて口をおさえている。そりゃ声出ちゃいますよね。


「いやいや、王太子様は無理でしょう? さすがに子爵家ごときがお誘いできませんよ」

「あら、セシルもトウア様と同じようなことを言うのね」


 コロコロと可愛らしく笑う。可愛い! 可愛いけども。


「じゃあいっそのこと王宮にわたくしが招待しましょうか?」

「それだとなんだか主旨が変わってしまいますよ」


 ねぇ、トウアさん。とトウアを見れば、青い顔をして無理無理無理無理とふるふる頭を振っている。たしかに、お友達も困るでしょうね。


 うーん、ま、ぼくが考えても答は出なさそうなので兄様に考えてもらおう。そうしよう。


「まずは兄様に急いで連絡をしますので、トウアさんと姫さまはそのままでお願いします。特に姫さま! 勝手に王太子様に話したりしないでくださいね。影響が大きすぎますからね!」

「はい、よろしくお願いします」

「…………」

「姫さま?」

「……わかったわ」


 ふぅ、今日のところはこれで終わりだ。

 連絡がついたらまた知らせるということでトウアには帰ってもらった。

 しばらくソファに座ったまま考えていると、視線を感じる。横を見ると思いの外近くに姫さまの顔があった。ドキリと胸が鳴る。目を逸らせずにいると、ふっと瞳が不安げに潤んだ。


「邪魔だった?」


 小さく呟く姫さまに先程とは少し違う鼓動が、ドクンと胸を突く。まったくもう姫さまはぼくをどうしたいのか。


「トウア様と二人きりの方がよかったかしら」


 これいいかな、抱き締めちゃっても許されるかな。


「もしかして、心配してくれました? 邪魔なはずはないですよ。話しやすくしていただいて助かりました」

「セシル……」


 よし! ここは男としていくしかな──


 コンコン、ガチャリ


「遅れて悪かったな、何の話だったんだ?」


 エドワード先生がノックもそこそこに入ってきた。

 急いでやって来た様子を見て、先生もトウアさんを心配したのだろうと気付く。相談内容ではなく、ぼくと二人きりにしたくないという意味で。


 先程のやり取りをまとめて説明する。


 多少話し方が冷たくなってしまったのは許してほしい。


「そうか、何か決まったら教えてくれ」




 こりゃ先生も参加だな。









エドワードが姫さまに放課後のことを知らせています。

生徒会室の使用についてという体で、実際は……



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