犬の雑貨屋さん
ものすごくお久しぶりです。ずっと中途半端だったものをやっとまとめました。
澄み切った青空に誓いの言葉が響き渡る。
『幸せな時も困難な時もお互いに助け合い、明るい家庭を築くとともに商会を強く大きくしていくことを皆様の前で誓います!』
王都からひとつの村とふたつの町を越えた先にある街リトレナ。領主館を中心にした商業の盛んな街で、リーナの嫁ぎ先である商会はここを起点にしている。
広場を借りて整えられたパーティー会場には親族や友人、商店街の人々が集まっていた。
結婚おめでとう!
お幸せに! 頑張れよ!
皆笑顔で祝福の言葉を口にしながら二人の頭上に白やピンクの小花をふりかける。新郎新婦も喜色満面で参加者に手を振りそれにこたえている。
「トウア! 来てくれたんだね。遠いのにありがとう」
「当然だよ! おめでとう。本当に素敵な結婚式だね。旦那さまも頼りがいありそうな方で安心したよ」
軽くハグを交わし喜びを伝え合う。話したいことはたくさんあるけれど主役をあまり引き留める訳にはいかない。
「これ、お祝いなんだけど受け取ってくれる?」
「トウアには前にもうもらってるよね? いいの?」
「うん、これは私からじゃなくて」
あなたの初恋の彼らからだよ。耳元にこっそり告げるとリーナはドキリと一瞬硬直した後、焦ったように伸ばした手を引っ込めた。その反応にトウアは首を傾げる。
「あれ? もっと喜ぶかと思ったんだけど?」
「……いや、だって、それはこの間まではトウアの恩人の方とは別人だと思ってたし」
「ふふふ、大丈夫だよ。ここ見て」
『犬の雑貨屋さんの女の子へ ご結婚おめでとうございます』
トウアの恩人の貴族さまではなく、昔知り合った少年たちとしてお祝いしてくれているということだろうか。気遣いがうれしくて頬が緩んだ。
「ね、だから受け取って」
少し強引に手渡される。お礼を伝えそっと箱を開けた。「これって……」呟くと忘れかけていたあの時の二人の顔が浮かんだ。
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「おーいリーナ! ちょっと配達行ってくるから店番頼むな」
「はーい。いってらっしゃい」
王都の平民街にある雑貨屋。
私ももう9歳になったから時々店番をしている。いつもなら母さんと一緒にやるんだけど、今はお腹が大きくて大変だからアタシが任されている。もうすぐ弟か妹が出来るんだ。お姉ちゃんとしてしっかりしないとね。
いらっしゃいませ。
ありがとうございました。
もともとそんなに賑わっている店でもない。近所のおじちゃんおばちゃんとか顔見知りのお客がほとんど。
店の場所は中央通りから二本東側に入った噴水のあるの小さな広場の近く。この辺りは平民が買い物に来るエリアでお隣は衣料品店とお花屋さん。広場の反対側は食堂やカフェがある。
お店の入口には犬の置物。番犬代わりだとか父さんは言ってたけど多分売れ残りなんだと思う。
売れた商品と個数、金額をノートに書いておく。後で父さんに伝えなければいけない。まだ店の台帳に直接記入はできないから。それからは売れたものを補充したりちょっと苦手な文字の練習をしたりして過ごしている。実は少し前に友達のトウアがどこかのお兄さんに勉強を教えてもらっていると聞いて、心配になってついて行ったらなぜか一緒に授業を受けることになった。だいたいで覚えていた計算や文字をきちんと教えてもらうと案外間違いも多くて驚いた。勉強するのって商売するのに必要だと感じた瞬間だ。
カランカラン
「いらっしゃいませ」
ドアの上部に取り付けられたベルがお客さんが来たことを教えてくれる。声をかけながら顔を上げると見慣れない少年二人組だった。近所の子ではなさそうだ。ちょっと余所行きなキチンとした服を着ている。焦茶の髪の子と帽子を被った子。
「ほら! ここになら売ってるだろ? 見たことあったんだよな」
「本当だね。じゃあコレとコレと……」
小さめのカバンにマッチと携帯ランプ、手袋二組を棚から取りカウンターに乗せる。森にでも探検に行くのかな。
「はい、これでいくらでしょう?」
「えっと…銀貨が24…いや25」
焦茶髪の男の子が帽子の子に問いかける。
「銀貨25枚と銅貨7枚」
「正解!」
「うわー負けたー」
先に答えてよかったかと心配したが、笑顔で褒められてちょっと気分がいい。
「アメもあるんだね。一ついくら?」
「銅貨1枚だよ」
「じゃあ三つください」
そう言って銀貨を26枚置いた。数えて受け取るとカウンター後ろの棚からアメの瓶をおろし、中から色のついたアメを三つスプーンで白紙の上に取り出した。ありがとうと焦茶髪の子が言うと同時に帽子の子がアメを口に入れた。
「あま〜」
「もう、行儀悪いよ。はい、一つは君に。計算早いんだね」
「え?」
驚いている間に二人は出て行ってしまった。ありがとうございましたの声かけも出来なかった。同じくらいの子供に褒められてお駄賃をもらうことがあるなんてはじめてのことだったから。
もらったアメは父さんにもらった時より美味しく感じた。
それから一週間くらい経った日、また私が一人で店番している時に二人はやってきた。
「今日は余所行きの服じゃないんだね」
「やっぱりこの間の服は普段着じゃなかったよね」
「だから言っただろ。あれじゃダメだって」
焦茶髪の子はおっとりして灰色髪(今日は帽子じゃなかった)の子は気が強そうだ。
二人はこの辺りの事に詳しくないらしく私は先生気取りで教えてあげた。商店街の順番やえらそうなおじさんに気をつけないといけない店、子供が通っちゃいけない道も。
店番で暇な時間の話し相手になってくれる二人が楽しくて待ち遠しく思うようにもなった。毎回アメもくれるしね。
「あ、ちょっと長居しすぎちゃったね。もう帰らないと」
「そんなにいたか?」
「ほらもうこんな時間だよ」
焦茶髪の子が袋から時計を取り出した。
「すごい! 時計持ってるの?」
「え? ……えっと親から借りてきたんだ。時間を気にしないといけない日だから」
「そうなんだ。あ、今度時計の読み方教えてくれる?」
「店番してるのに知らないのかよ」
「そこまで必要ないもの。鐘が鳴るでしょ」
王都では一刻(二時間)ごとに鐘が鳴るのでそれを目安に生活をしている。0時は一回、2時は二回と増えていき10時に六回そして12時はまた一回から。
「必要ないのに知りたいの?」
「私ね、ここの店を継ぐかはわからないけど大きくなっても商売をしていきたいの。他の土地に買い付けに行ったりもしてみたいわ。そうしたら時計読めないとなめられそうじゃない? それに読めたらカッコいいわ!」
「確かに王都を出たら鐘が鳴るかはわからないね。必要かもしれない」
「でしょー!」
偉そうに胸を張るリーナを眩しそうに見守る焦茶髪と呆れた顔で見る灰色髪。そして三人で笑い合った。
期間としては二月くらいで四回ほどの来店だったと思う。でもその印象はすごく強くてあれは私の初恋だった。だからしばらくは店番をすすんでやって、いつ来るかと待っていたし街を歩くときは無意識に探していた。
今では懐かしい思い出だ。大人になった二人を見てもすぐには気付けないくらいには仕舞い込まれていた。ま、貴族さまだとは思ってなかったから気付くわけないんだけど。
箱を開けると、『夢を叶えたんだね』のカードと懐中時計が入っていた。覚えていてくれたんだ!
あの頃の憧れだった自分の時計。大人になって持つようにはなったけれど最低限時間のわかるもので父からのお古だ。そう、可愛くない。
でもこれはとても綺麗で女性用であるとわかる。宝石などは付いていないシンプルな造りだけれど、ペンダント部分のデザインが華やかだ。これを堂々と使いこなせる商人になってみせる。仕入れて店に並べることが出来たらきっと素敵だろう。
感動に震えながらふと浮かんだ疑問をトウアに問いかける。
「そういえば私どっちが初恋の君だって言ってた? 実は覚えてなくて」
「ふふ、どっちもじゃない? 日によって変わってたもの」
「そ、そうなの?」
「旦那さんの髪色もグレーがかった濃い茶色だしね」
言われるまで気付かなかった。確かに二人の色を合わせたような……なんなら瞳の色も焦茶だわ。顔は全然違うんだけど。
なんだかすごく恥ずかしいわ!
カイルとフリッツは何かしらの調べ物があって街へでていました。でもリーナはそれに関わるべきではないなと、ただお店に買い物に来た(情報収集された)だけにしました。
銅貨 10円
銀貨 100円 くらいのつもりで。
カバン銀貨8枚、ランプ銀貨15枚、マッチ銅貨7枚、手袋銅貨10枚×2 です。だいたいで考えてます。
読んでいただきありがとうございます!
これで完結にさせていただきます