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四番目の勇者は服わない

作者: シブ

気分転換にちょこちょこ書いた物で、続ける予定皆無です。コーヒーブレイクのお供にでも。

 世界には、三人の勇者が現れる。災厄の訪れを予感させる彼らは、時代の節目に生まれ、世襲させる事無くこの世を去っていく。

 一般的に与えられるのは様々な神様からの《加護》で、勇者には《守護》と《奇蹟》が授けられる。《加護》は複数人に同じ物が与えられても、《守護》と《奇蹟》はその世代に一人しかいない。そして《奇蹟》の所有者は、災厄の終焉まで死ぬ事を許されないという。《守護》によって災厄へ立ち向かう事を強制され、《奇蹟》によって死に至る事はない。ある意味では、世界の奴隷だ。他人事だと思っていた僕がまさか、それに巻き込まれるなんて、考えた事も無かった。


 十五歳になると、その時に所属する町や村で、『聖別の儀』という物を受ける事になる。《秘蹟の加護》を持つ神官にしか出来ない儀式で、小さな村なら大体一人で行う場合がほとんどだとか。小さな村の場合、近隣の都市から派遣されてきた人が、十五歳になる子供がいる時期だけしかいないらしい。

 これを受ける事で、それぞれが与えられた《加護》がどういった物なのかが判明する。大抵は一人一つで、とにかく種類が多いから望んだ物が与えられるとも限らないのだとか。鍛冶師志望の人が、《商人の加護》を与えられる事もあるようだし。

「こ、これは・・・?」

 儀式で使われるのは、水晶玉と『自動書記』が付与された紙だけだ。水晶玉にあるスキルを使うと、投影された内容が自動的に紙へ転写される。そこに書かれたのは、《騎士の守護》ただ一つ。僕が読んだ事のある伝説には一切の記述が無く、記録にある限りでは確認されていないらしい。

「《守護》のみで《奇蹟》が無いのはどういう訳じゃ・・・?」

「それだけじゃありません。スキルに剣術や大剣術と槍術、更に重鎧装備と騎乗術まで付いています。まるで伝説や御伽噺に聞く竜騎士です!」

 神官と役人が騒いでいる。僕としては正直、勘弁して欲しいとかやめてくれとかしか、思い浮かばないんだけれど。


 そんな事があってから三年、町から程近い地域で魔物や山賊、盗賊団を討伐して過ごしていた。《守護》があるからというのもあるけど、ここは僕が生まれ育った場所で、大切な人がいるから。ただ守りたい、そう思ったんだ。

 幸い、武器の扱いは手に取るだけで理解出来た。長剣や両手剣、片手両手問わない槍も。短剣が使えなかったのは、竜騎士の装備に含まれないからだろう。・・・短剣を装備する竜騎士なんて、御伽噺にだっていやしない。

 そんな生活を続けていたら、大陸各地から魔獣の出現が発表された。小型のものから、町を飲み込む程に巨大なものまで様々で、数匹単位の小規模な集団や、数百に届く群れまで。同時に剣と癒の勇者が旅立ち、元凶と推測された地域の偵察が決定されたらしい。他にも大陸有数の魔法使いや拳法家、何処ぞの王国騎士団長が付いていくそうだ。

 剣と癒の勇者には《奇蹟》がついている為に、本人の意思とは無関係に旅立ちが強制される。神様とやらが災厄と戦う為に授ける物だからだ。しかも災厄を鎮めない限り、死ぬ事さえ許されないのだとか。そんなものを与える位なら、神様がそれを鎮めればいいだろうに。

「んー、僕はどうしようかなー」

 誰もいない家で、一人呟く。父さんも母さんも遠出していて、二日程留守にするという。最近は町の周辺も静かなものだから、街道警備の必要もない。自警団とかの、狩りで生計を立てている人に任せても大丈夫な程度には。


 悩みに悩み抜いた挙句、旅に出る事にした。極力勇者一行とは遭遇しない方向へ行き、地域で問題となっている事を片付ける。報酬は精々が数日間の宿泊だけで、資金は道中の魔物狩りで稼いでいる。いや、魔物に襲われて壊滅寸前の村から、お金なんて貰えないって・・・。

 主武器は長剣でも、僕は槍もそれなりに使える。いや、本来なら主武器が槍なんだけど。森なんかだと、槍は使い勝手が悪いからそうしているだけだ。《加護》の影響でどちらも達人の域にあるらしいし。

「ありがとうございました!これで安心して冬を迎えられます・・・」

 今日は盗賊に襲われ、貯蓄物資を殆ど奪われた村にいた。冬支度の為に貯めていた食料や資産のほぼ全部を、近隣に住みついた賊に奪われたんだとか。家を焼かれ、女子供を攫われ、働き手であった男性も数人が殺されたという。幸い拠点に着いた時はまだ乱暴を受ける前だったから、ほぼ無傷で解放出来た。食料は少し減っているようだけれど、それは森に入って乾果や干し肉の材料集めで間に合う程度なんだとか。

「これ、もしかしたらお節介かもしれないですが・・・」

 救出した人の護衛も兼ねて、後方を使役した騎竜に歩かせていた。背中には、大量の木材を背負わせて。全壊した家屋や、壁も無い藁葺き屋根の下で一夜を過ごす姿を見たら、手を出さずにはいられない。そんなの勇者じゃなくても見逃さないだろうし。


 引き留めようとしてくる村人達を何とか振り払い、次の町へ向かって行く。何故か同い年位の女の子が、顔を真っ赤にして向かい合って来たけど。隣にいたおじさんの、にんまりとした笑顔も気になったけど。・・・万一居座っていたら、何をされていたんだろうか。

 街道を反対方向へ行くと、この国の首都に行き着くらしい。少なくとも、前に見た地図の通りであるなら。勇者達が旅立ってから半年以上経っているし、遭遇する可能性は低いと思う。神殿に寄って鑑定を頼まない限り、ステータスが読み取られる事も無いはずだけど、念の為だ。《守護》の存在がバレたらどうなるかなんて、想像する必要もないし。


 僕の旅は、まだまだ続く。少なくとも、確認された『魔王』とかいうのが討伐されるまでは。それ以降どうなるかなんて、今は分からない。いや、そんなの分かる必要なんてないのかもしれない。神様とやらが何を考えているか分からないけど、未来はどこまでも続いているはずだから。

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