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№33 敵の罠にまんまと引っかかってしまった!

高校二年の歴オタ主人公・田島錠は幕末にタイムスリップし、「未来から派遣されたターミネーターによる歴史改変の阻止」という途方もない任務を背負わされてしまう。

どんな素人でも剣の達人になれるオートマチック・オペレーション・ソードを手に、新撰組の剣客・沖田総司から気に入られて何かと手助けを受けるようになった錠は、仲間になったツンデレの女剣士・那奈、爆乳の岡っ引き・お涼、クールな密偵・マキと力を合わせ、幕末の京都に潜む凶悪な敵を探し出し、地球を救わなければならない!

 夜の潜入に備え、お涼の家にあった縄梯子、ロウソク、火種を入れた竹筒など、役立ちそうな物は風呂敷に包んで持ってきている。


 夜が明けてから俺たちは、それらが問題なく使えるか入念にチェックし、木の上の定位置についた。


 午前中は異常なし。

 動きがあったのは、俺たちが昼の握り飯を食い終わった直後だ。


 裏門の扉が開き、三人の侍が出てきた。

 二人を引き連れるようにして前を進む一人は……あの顔、あの背格好、忘れるはずがない……道端瑞雲!

 お涼たちのにらんだ通り、奴は夷川家の雑掌・司義太夫というもう一つの顔を持っているんだろう。


 俺と那奈は急いで木から下り、三人の後を付けた。

 瑞雲たちは町人地を北へと歩いていく。


 賀茂川と高野側の合流地点には、現代なら賀茂大橋という立派な橋が架かっているんだけど、幕末にそんな物はなかった。

 あるのは、河川合流点の三角州突端に板を渡して作った幅二メートル強の仮橋で、今出川口橋と呼ばれている。

 見るからに貧弱な外観ではあるものの、当時としては数少ない鴨川の橋の一つであり、福井から伸びている若狭街道の終着点ということもあって、多くの人と物が行き来する重要な交通路だったらしい。


 その今出川口橋の西詰めには、何軒もの茶店が軒を連ねており、瑞雲らはその中の一軒に入った。

 団子や茶を注文して食っており、随分のんびり居座っている。この辺りは人の往来が激しいので、俺と那奈が建物の陰で休んでいるふりをしてたって誰も気に留めない。


「明日は戦というのに、あやつら妙にのんきではありませぬか?どういうつもりなのでしょう」

「何かを……または誰かを待ってるんだろうか」


 俺と那奈がそんな会話を交わした直後、茶店の前を一人の若い女性が通った。

 町人でも百姓でもない。薄い緑色の小袖を身に着け、頭から薄紫地に様々な花模様を散りばめた華麗な衣を被っている。被衣姿と呼ばれ、公家女性が徒歩で外出する際のスタイルだ。


 その女の姿を見た途端、瑞雲らは急に席を立って後ろをついていく。

 もちろん俺たちも後を追う。


 女は何者なのか。瑞雲たちは何故彼女を追っているのか。皆目見当もつかない。


 尾行されている女は、町人地を通って西へと進んでいく。


「このまま西へ行けば、相国寺の広い藪地に入ってしまいますが……」


 那奈が怪訝そうに告げる。

 それでも女は方向を変えることなく、鬱蒼とした藪の中へ入っていった。

 そうと見るなり、瑞雲ら三人はいきなり抜刀して女へ突進する。


「きゃーーーーーーーーーーっ!誰か!誰かーーーーーーーーー!!!」


 女の叫びを耳にするなり、俺と那奈も刀を抜いて駆けた。

 こうなれば、女を助けるだけでなく、この場で瑞雲を倒しておかなければ!


 被衣を脱いで逃げようとする女を、三人はすでに取り囲んでいる。


 俺たちの接近に気付いた三人は、囲みを説いてこちらに向き直った。

 その隙に、女は瑞雲らをすり抜け、追いついた俺に抱きついてきた。


「どこのお方かは存じまへんけど、どうかお助けを!」


 顔を上げて懇願する女を見て、俺はドキッとなった。

 年齢は二十代前半、長い髪の色こそ黒でありながら、顔立ちが日本人離れしてて、西洋の白人とのハーフのようにも見える美人だ。


 瑞雲以外の二人がこちらににじり寄ってくる。そのせいか、刀はまだ発光しない。


「危ないから、後ろに下がっててください」


 俺は剣尖を三人に向けたまま、刀の柄から左手を離し、なかなか離れようとしない彼女の手を取って後方へ導こうとした。

 その時、奇妙な違和感が肉体を通して伝わってきた。

 俺が触れた女の左手……その親指の付け根や小指の下に大きなタコができている。左手のこんな場所にタコができるなんて、まるで弓道をやってる人のような……。


 と、感じ取った時点で、俺の背中に冷たいものが走った。

 女性としては平均的な身長だろうが、男性としてみれば小柄……この背格好を侍姿にすれば……それにあいつの中性的な声、中性的なんじゃなくて、声音を変えた女性そのものだったんじゃ……なら、まさか、この女は……。


 俺が彼女の顔に再び目をやった時、ついさっきまでの怯えた表情は一変していた。

 うすら笑いを浮かべ、刺すような視線で俺を見上げている。

 隣に並んで剣を構えている那奈が、ようやくこっちの異変に気付いた。


「先生、いかがされたのですか!」

「こいつは……」


 言いかけた直後、女の強烈な正拳が俺のみぞおちに入り、続け様に右手で持つ刀がはたき落とされていた。


「先生!」


 女に斬り掛かろうとした那奈が、背後から瑞雲に羽交い締めされたのが視界に入り……俺は意識を失った。

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