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№30 奴らに襲撃されてしまった!

高校二年の歴オタ主人公・田島錠は幕末にタイムスリップし、「未来から派遣されたターミネーターによる歴史改変の阻止」という途方もない任務を背負わされてしまう。

どんな素人でも剣の達人になれるオートマチック・オペレーション・ソードを手に、新撰組の剣客・沖田総司から気に入られて何かと手助けを受けるようになった錠は、仲間になったツンデレの女剣士・那奈、爆乳の岡っ引き・お涼、クールな密偵・マキと力を合わせ、幕末の京都に潜む凶悪な敵を探し出し、地球を救わなければならない!

「まん兄さま、まん兄さま、起きて!」


 鶴坊の押し殺した声と、強い揺さぶりで、俺はまどろみから目覚めた。


「どうした、鶴坊?」

「何か、家の中が変や」

「変?」

「表の戸を強う叩く音が聞こえて……女中の誰かが戸を開けに行ったと思うんやけど、その後、何人かが家の奥の方へどんどん入ってくる足音が」

「まさか、盗賊なんてことは?」


 俺が渡り廊下に出ようと蚊帳をまくり上げた時、開けっ放しにしている板戸の出入り口に手燭がかざされた。


「ふふふ、こんな場所に隠れていたとは。随分探したぞ」


 手燭を持って戸口に立ったのは、覆面をした大柄な侍。聞き覚えのあるこの声は……まさか道端瑞雲?

 隣にいるもう一人の覆面侍が、刀を左右に振って蚊帳を引き裂く。

 俺と鶴坊は、刀に威嚇されて中腰のまま動けなくなった。


「お前は……道端瑞雲なのか?」

「ああ、察しがいいな」


 俺の問い掛けに、侍は覆面を空いている手で下にずらして顔を露わにした。


「どういうつもりだ!」

「どういうつもりも何も、お前の息の根を止め、厄介な刀を貰い受けに来たまでのこと。初めのうちは日本のエージェントとやらの助手か雑用係程度の若造と思っていたが、これほどまで我らの邪魔をしてくれるとは、見くびりすぎていた。今夜はお前の付き人らしき女剣士も不在のようだから、一層仕事もやりやすい」


 やがて、渡り廊下を駆けて新たに合流した別の覆面侍が、瑞雲に耳打ちする。


「宿の主人夫婦と女中どもは縛り上げました。忠三郎は表の見張りに、政五郎は階段下に張り付かせて、二階の客が降りてこぬようにしております」

「うむ、それでよい」


 怒りがふつふつと湧いてくる。


「何の罪もない宿の人たちまで巻き込むなんて!」


 腰を上げようとした俺に、蚊帳を斬り落とした覆面侍が刀を突き付ける。

 瑞雲はおかしそうに肩を揺らした。


「巻き込んだのはお前ではないか。この宿に逃げ込み、かくまってもらったのだろう?であれば、巻き込まれて当然だ。しかし安心しろ。宿の連中まで命は奪わん」

「ぐっ……」


 悔しさに拳を握り締める俺に構わず、瑞雲は手燭をさらに高く掲げる。


「刀はどこにある?」


 瑞雲に尋ねられ、後から来た覆面侍が部屋の一隅を指差した。


「あの積み上げられた箱の上に。あれですな」


 侍がそちらへ向かおうとしたその刹那、刀を向けられている俺をチラッと見た鶴坊が弾かれたように立ち上がった。

 勢いよく箱の下まで移動して、大きくジャンプすると、箱の上部からはみ出ていた鞘尻をどうにかつかみ、着地するなり抱きかかえる。


 抜刀したまま部屋の隅に鶴坊を追い詰めた侍が、片手を出す。


「こら坊主、その刀をよこせ。さもないと痛い目を見るぞ」

「渡すか!これはまん兄さまが悪い奴らを懲らしめるために使う大事な刀なんや!」

「生意気を抜かしおって!」


 刀を床に置いた侍が左手で鶴坊の顔を押しやり、右手で刀の鞘を持って引き離そうとするが、なかなか取り上げられない。鶴坊は必死の思いで刀にしがみついている。


「熊次郎、もたもたするな!言うことを聞かぬ者は斬るまでだ」


 鶴坊ともみ合っていた侍は、瑞雲から叱責されてやむなく手を離し、刀を取った。


「鶴坊、刀を奴らに渡せ!渡すんだ!」


 思わず叫んだ俺に、鶴坊が半泣きになって首を振る。


「そやかて、これは正義のために使う刀なんとちゃうの?悪党に渡したら、悪いことするための刀になってしまうやんか!」

「そんなこと言ってる場合じゃない!刀なんて単なる道具なんだ!そんな物より、人の命の方がずっとずっと貴重で大事なんだぞ!」


 前に出ようとする俺の喉元に、もう一人の侍の剣尖がピタリと押し付けられる。


「そやかて……そやかて……」


 踏ん切りのつかない鶴坊の胸を、刀が刺し貫こうとした。


 それよりも早く、渡り廊下から飛び込んできた人影が、熊次郎と呼ばれた侍の右肩を斬り下ろした。


「ぐわっ!」


 その人影とは……那奈だ!


 俺に刀を向けていた侍が、那奈に斬り掛かる。


 この時俺の体は、それまでの葛藤がまるでウソみたいに、そうすることが当たり前のように動き出した。

 かけらほどの抵抗も感じず鶴坊の元に駆け寄り、受け取った自動操作刀をごく自然に抜いていたんだ。


 久しぶりに握る柄の感触。背中に尋常じゃないほどの激痛が生じる。でも、そんな痛みなんかに構ってはいられなかった。

 自分は弱い存在……だからこそ、この刀がなければ、大切な人たちを救うことすらできない。

 周りにいる全ての仲間を、恩人を守る!その一心が、俺の体を突き動かした。


 俺は大きく一歩を踏み出す。刀は舞うように動き、那奈と鍔迫り合いを演じている侍の左脇に強烈な一撃を見舞う。侍はうなり声を発して倒れ伏した。


「鶴坊、部屋の隅で決して動くな!」


 そう呼ばわって那奈と横に並んだ俺は、一人になった瑞雲に刀を向ける。

 瑞雲に向けた俺の刀が青白く発光している。それでも俺は刀を持っている。柄を握り続けている。


 瑞雲は手燭を傍らの大きな壺の上に置き、腰の脇差しを抜いていた。狭い室内では、俺たちの持つ大刀よりも、脇差しのような小刀の方が立ち回りやすい。一対二となって不利なはずなのに逃げないのは、剣に自信があるからだろう。


「那奈さん、まさか来てくれるとは」

「れくちゃあの途中だったのですが、先生が心配で、しかも何故だか胸騒ぎが収まらず、残りは後日講義していただくことにして珠殿の置屋を飛び出してきたのです。すると案の定、伊予屋の表に怪しい覆面の侍が立っており、そやつと屋内の階段下にいたもう一人を矢継ぎ早に斬り伏せ、一直線にこの物置部屋まで」

「ありがとう。助かったよ!」

「先生をお守りするのは、私の役目。それよりも、刀……お取りになったのですね」

「ああ、俺はもう迷わない……逃げない!」


 俺は前ににじり寄り、攻勢の構えを見せる。自動操作刀の人工知能は俺の感情も読み取り、その意志に沿った最適な戦い方を組み立ててくれるということも、これまでの実戦で何とはなしに体得している。


 瑞雲は戸板を背にしている。その向こう側は渡り廊下、そしてさらに向こうが裏庭。

 戦場を室内ではなく、裏庭に移動させれば、俺たちの刀は一層振るいやすくなるだろう。そのために、瑞雲を裏庭へと追いやらなければ。


 俺の刀は瑞雲の胸を狙って突きを繰り出した。奴が避けるために勢いよく後退すれば、戸板が押し破られ、自ずと裏庭に移らなければならなくなるはずだ。


 ところが、瑞雲は後退するどころか、横に避けると同時に身を沈め、俺たちの足を狙って刀を右に左にと旋回させる。

 不意を突かれ、後退したのは俺たちの方だった。那奈に至っては、大きく飛び退きすぎて背後の箱の山に激突し、仰向けにひっくり返ってしまった。いくつもの箱が那奈の体に崩れ落ちていく。


 那奈の元へ行こうとする俺に、瑞雲は両膝を屈めた態勢のまま接近し、息もつかせぬ早技で足、腰、腕を狙ってくる。

 斬撃を刀で受ける度に火花が飛ぶ。

 瑞雲が鋭い打ち込みを繰り出した後、刀を一旦水平に後ろへ引いた瞬時につけ込み、俺は刀を振り上げた。


 それがまずかった。


 勢いよく持ち上がった剣尖が、たまたま天井の板と板の間にすっぽりと挟まり、抜けなくなった。


 それを見た瑞雲は、猛然と襲いかかってくる。

 どうしようもなく、天井から下がる刀の柄から手を離した俺は後ずさる……が、数歩下がってすぐ背中が板壁に突き当たってしまった。


 瑞雲が俺の胸に照準を定めて剣尖を突き入れようとした時、ようやく起き上がった那奈が「やめぬかーーーー!」と雄叫びを発して後ろから打ちかかる。


 瑞雲は体をひねって那奈の斬撃をかわし、俺たちとわずかに距離を取る。

 こちらへつうっと足を運んだ那奈は、俺をかばうように瑞雲と相対した。


「先生、お怪我は?」

「うん、大丈夫」


 その時、渡り廊下からドタバタと足音が聞こえ、二人の影が戸板を打ち破った。


「押し入った賊はこいつやったんか!」


 壺の上に置かれた手燭のほのかな灯りが照らす声の主は、お涼!その横には亀吉もいる。


「亀吉、呼子や!この近辺には夜回りのお役人や木戸番の番太もいてるはず!」

「へい!」


 間を置かずに懐から取り出した小さな笛を、亀吉が口に当てる。


 ピイィーーーーーーーーーーーーーーー!!!


 甲高い音が鳴り響く。


「忌々しい奴らめ!」


 ここにおいて不利を悟った瑞雲は、お涼と亀吉に向かって真横に刀を振り抜く。

 左右に分かれて飛び退く二人。その間を突破した瑞雲は、中庭に降りて逃げる。

 お涼、亀吉、さらには那奈もその後に続き、追いかけた。


 しかし、中庭を駆ける瑞雲は、途中に植わっていた大きな松の木の枝を通り抜けざまに刀で一閃。

 切り落とされた枝葉は人の体ほどの長さがあり、すぐ後を追うお涼たちにのし掛かってきた。


「うわっ、何ちゅうことをしよるんや!」

「お嬢さん、危ない!」

「瑞雲、待ちなさい!」


 松の枝をはね除け、三人が再び追おうとした時には、瑞雲は表戸から外へ逃げ去っていた。

 それでもお涼と亀吉は、瑞雲を追って外へ出て行く。


 この間、俺はやっとのことで刀を天井から引き抜いていた。

 極度の緊張から解放され、部屋の端にいた鶴坊は俺に抱きついてきて、わんわん泣き出した。


「鶴坊、ごめんな。恐い思いをさせて、悪かった。ごめん、許してくれよな」


 俺は鶴坊の頭をなで、何度も謝る。


 自室で縛られていた茂平夫婦は那奈に縄を解いてもらうなり、物置部屋に駆け込んできた。


「「鶴坊!!!」」


 両親に呼びかけられ、鶴坊は泣きべそをかきつつ俺からよたよたと離れていく。鶴坊をしっかりと抱きしめた茂平とお文は、息子の無事を喜び、そのまま泣き崩れた。


 戻ってきた那奈が、親子三人の姿にもらい泣きしながら、ゆっくりと俺の隣に並ぶ。


「女中たちにもケガをした者はおりませぬ。まことにもって、不幸中の幸いでございました」

「俺のせいだ……俺は何にもわかってなかった。逃げてれば、何もしなければ、誰も傷つかない……そんな勘違いをしてたんだよ」

「先生……」

「今俺が置かれた状況でそれは許されない。戦わなければ、俺が死ぬだけでじゃなく、この時代で俺の周りにいる人たちにも災難が降りかかってしまう。苦しいけれど、辛いけれど、守りたい誰かの命を守るために、別の命を奪わなければならない。そして、それに堪えなくちゃいけない。俺……やるよ……瑞雲や狐火の陰謀を打ち砕いて、この星を滅亡から救うために」


 那奈に、そして自分に言い聞かせるように、俺は努めて低く穏やかな声に出した。


 決意を新たにした俺に、那奈が頼もしそうに眼を細めて見せた。

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