№27 那奈とキス!?してしまった!
高校二年の歴オタ主人公・田島錠は幕末にタイムスリップし、「未来から派遣されたターミネーターによる歴史改変の阻止」という途方もない任務を背負わされてしまう。
どんな素人でも剣の達人になれるオートマチック・オペレーション・ソードを手に、新撰組の剣客・沖田総司から気に入られて何かと手助けを受けるようになった錠は、仲間になったツンデレの女剣士・那奈、爆乳の岡っ引き・お涼、クールな密偵・マキと力を合わせ、幕末の京都に潜む凶悪な敵を探し出し、地球を救わなければならない!
意識が朦朧となったままの状態が次の日も、そのまた次の日も続いている。
恐れていた感染症にかかってしまったんだ。
もし細菌が血管やリンパ管なんかに入れば、さらに重篤な敗血症やショック死を引き起こしかねない。
現代医学なら適切な治療法もあるだろうけれど、細菌学という概念さえまだ存在しない幕末での治療は不可能だ。
後々、長州藩の村医から倒幕軍総司令官に大抜擢され、日本陸軍の礎を創った大村益次郎は、テロで受けた刀傷が元で敗血症を起こし……死んだ。
俺の看病を、那奈がろくに休みもせず懸命にしてくれる。
窓一つない真夏の物置部屋は、蒸し風呂のように暑い。板戸は開けっ放しになっていて、俺の寝所には蚊帳が吊されている。
那奈は汗を吸った着物の帯を解き、この当時の男性下着であるふんどしじゃなく、トランクス一枚になった俺の体を水で絞った手ぬぐいで丁寧に拭いていく。
首筋、胸、肩、腕、手のひら……手ぬぐいが温もってきたら、その都度水に浸して冷たくし……足の付け根、膝の裏、スネ、といった具合に。
箱形の台の上に小さなくくり枕を付けた箱枕の上部には、首の後ろを冷やすため、水で冷やした別の手ぬぐいを乗せ……こういった世話を日に何度も繰り返し、朝夕には食欲のない俺の上半身を起こし、粥を食べさせる。
彼女のかいがいしさは、体を自由に動かせない俺としては、何にも増してありがたく、感謝してもしきれないくらいだ。もし俺が元気になったら、那奈にはもう頭が上がらないんじゃないか……そんな風に思えてしまう。
マキ、お涼、エマもあれから何度か見舞いに来て、茂平夫婦も何かと気に掛けて必要な物はないか那奈に尋ねてくれてるようだ。
けれど、一日中寝てるか、目覚めていても背中の痛みに耐えながら、熱のせいで頭の中がぼんやりした状態だから、よく覚えていない。
発熱して三日目。熱は下がるどころかさらに高くなり、体を起こせず、食欲すらなくなった。喉はとてつもなく渇いてるんだけど、水を飲む気力もない。
精養軒は毎日伊予屋まで診察に来て、傷口の綿布を貼り替えてくれており、この時那奈に告げた言葉だけは何故だかはっきりと記憶に刻まれた。
「今宵が峠かもしれんな。傷口は化膿もしてへんし、熱さえ下がってくれたら、どうにかなるんやが。とにかく、物を食べられんでも、水は摂らさんとあかんで」
その後一旦眠りについた俺は、超至近距離に人の気配を感じて目を開けた。
眼前に那奈の顔があり、俺は息を呑んだ。
その距離、十五センチ未満!こんなに近くで彼女の顔を見るのは初めてだった。
可憐な容貌……ではあるけれど、今のつぶらな瞳は愁いを帯びている。
その瞳がゆっくりとさらに接近してきた。
え!えっ?ええっ!?
長いまつげが微妙に揺れ、まぶたが閉じる。
那奈の顔が少し斜めに傾いて……俺のくちびるにものすごく柔らかな物が触れた。
マシュマロ?ふわふわ厚焼き卵?いやいやこれは、那奈のくちびるだ!
そのくちびるの中から俺の口の中へと、液体が流し込まれる。
くちびるを塞がれている俺は、口内に溜まっていく液体をごく自然の成り行きで飲み込んだ。
水だ!
那奈は、口移しで水を飲ませてくれている。
水がなくなると、那奈は茶碗に入れた水を口に含み、再び俺に口づけした。
これは魔法の水だろうか……水が体全体に浸透し、すっかり萎えていた気力が湧きだしてくるような心持ちになっていく。
温かな幸福感に包まれながら、何度目かの口づけで喉の渇きを癒した俺は、抗えない睡魔に襲われ、そのまま眠りに落ちてしまった。




