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№24 狐火のアジトは戦場と化してしまった!

高校二年の歴オタ主人公・田島錠は幕末にタイムスリップし、「未来から派遣されたターミネーターによる歴史改変の阻止」という途方もない任務を背負わされてしまう。

どんな素人でも剣の達人になれるオートマチック・オペレーション・ソードを手に、新撰組の剣客・沖田総司から気に入られて何かと手助けを受けるようになった錠は、仲間になったツンデレの女剣士・那奈、爆乳の岡っ引き・お涼、クールな密偵・マキと力を合わせ、幕末の京都に潜む凶悪な敵を探し出し、地球を救わなければならない!

 これまでか………左隣にいる那奈は悔しそうにくちびるを噛んでいるのに対して、右隣のマキは落ち着きはらっている。


 こんな瀬戸際で、どうしてこんなに冷静でいられるのか。まじろぎもしない彼女の視線の先を追うと………狐火たちのさらに向こう。部屋の隅で、小さな何かが動いている。


 ムササビのハヤタだ!


 知らぬ間にマキの風呂敷包みから抜け出していたハヤタは、床柱をするすると上がり、天井に達する。


 狐火が「やれ」と口走るその寸前、ハヤタはパッと跳び上がった。前足と後ろ足の間にある飛膜を広げ、まるで薄い座布団みたいになって、弦を引き絞る狐火の右腕に飛び移るなり、右手の甲にかじりつく。


「うっ!」


 ピシューーーーー!


 嚼まれた痛みで腕を動かし、弦から離れた矢が天井板に突き刺さる。ハヤタはすかさず畳へ下り、部屋の隅に身を隠す。


 俺たちに刀を突き付けている三人は、何事かと後ろを向く。その刹那、苦無を手に取ったマキが目の前にいる浪人の内懐に飛び込み、柄の先で額を強打した。


 相手は昏倒し、その後ろで慌てて刀を抜いた瑞雲に突っかかる。

 その一方で、刀を取った那奈が脇を狙った抜き打ちで眼前の浪人を倒し、俺に刃を向けていた陣羽織の男へ刀を振り下ろした。


 その間、俺は急いで部屋の隅へ移動し、立て掛けていた刀を取る。


 屋内は戦場と化していた。


 マキは瑞雲ともつれ合うようにして台所の方へと移り、暗闇の中から刀と苦無がぶつかり合う音が聞こえてくる。


 那奈の斬撃を刀で防いだ陣羽織の男は、部屋の端まで後退して態勢を整える。そこへ、狐火が弓を突き出してきた。

 普段は鞘が被せてあったらしい弓の上端には、銃剣のような弭槍はずやりが仕込まれている。突きを避けた那奈が狐火に向き直ったのを見逃さず、陣羽織の男が横合いから斬り掛かろうとした。


 危ない!


 俺は迷わず足を速め、陣羽織の男に向かって刀を抜いた。水平に舞った初太刀を、相手は大きく跳び退いてかわす。


「先生、かたじけのうございます!」


 叫ぶように言った那奈は、そのまま狐火との太刀打ちに突入した。


 自動操作刀は、向かってくる敵の攻撃に対して自動的に防御の行動を取らせるが、こちらから向かっていく場合は、意識を攻撃対象に向けることで相手を自動追尾し、最適な戦い方を脳が命じてくれる。

 だから今は、この陣羽織野郎に意識を集中させ、体を少しでもスムーズに動かさなければ。

 奴を倒してから、那奈に助太刀を!

 「おのれ!」と俺の顔に剣尖を向けた相手に、俺も同じように中段の構えで対する。


 何度か実戦を経験し、これまで通りの気構えで戦いに臨もうとしていた俺に、前触れもなく尋常でない動揺が走った。

 両手で握る刀の刀身部分が、いつの間にか青白く発光している!

 つまり、これは………刃がプラズマ化してる?………とすると、すぐ真向かいにいる陣羽織野郎に刀が反応してるってことで………こいつも未来から来た人間!!!


「それは普通の日本刀ではないのか………」


 顔をしかめた相手は、刀を右脇に構え、剣尖を後ろに向ける。

 このまま戦って、刃が奴に触れればどうなる?広川は、硬い金属で覆われていても溶断できると言ってた。


 今までの調子で打ち込めば………人を殺してしまう!


 そんなの………ごめんだ。嫌だ………嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ!!!


 俺の心の乱れを見透したのか、相手は目にもとまらぬ速さで刀を繰り出してきた。

 しかも、俺の足を狙って、左右に斬り付けてくる。


 室内では刀を上段に構えると、天井につっかえて戦いにくい。だから刀を水平もしくは下に向け、足さえ傷付けて動けなくすれば、後はどうにでも始末できる。

 屋内における戦いに限らず、実戦経験のある剣の達人は、まず足を狙ってくる場合が多いというのは、座学で剣術を少しでも学んでいる人間なら大抵知っている。


 殺到する斬撃を、俺の刀はその都度確実に受け止める。

 相手が一旦刀を引いた時、攻勢に出ようと体が勝手に前へ出て行こうとした。


 ダメだ!人を斬り殺すなんて、俺にはできないよ!


 体を止めようとする強い思いが、一歩踏み出した右足をそのまま固定する。

 この刀は、本来脳波から指示を出させて体の筋肉を強制的に動かすのだけれど、自己が強い意志を介入させれば別の動きをさせられる。

 それは以前、初めて那奈と会い、斬り合いになった時、彼女の首筋を直撃しようとした刀をすんでの所で止めた経験からもわかっている。


 頭や胴じゃなく、せめて腕か足だけに狙いを定めて戦えないのか!?

 しかし、刀が進めようとする戦い方と、俺の考えが合致しないからか、体全体が重くなり、身動きがままならない。

 奥座敷と縁側の間にいる俺に対して、那奈は部屋の反対側で狐火と互角の戦いを繰り広げている。


 そんな中、陣羽織野郎は自分の刀が何か所も大きく刃こぼれしているのに気付き、さらなる怒気をにじませていた。プラズマ化した俺の刀と打ち合ったせいで、刃が簡単に欠けてしまったんだろう。


 刃こぼれした刀は、斬るダメージが激減する。相手は戦い方を変え、今度は突きを仕掛けて来た。突きなら、刃こぼれはそれほど問題にならない。


 胸や腹を狙ってくる切っ先を、俺は刀で払い、体さばきで避ける。防御の局面に入り、刀と俺の意志がリンクして、再び体は動くようになっていた。


 でも、防御ばかりでは戦いに決着をつけられない。

 どうにかしなくちゃ………そのどうにかに考えが及ばない。


 焦る俺は、突きを防いで後ずさりしているうち、自然と裏庭に面した縁側の端まで追い詰められていた。

 出し抜けに、退いた右足が着地すべき床板が消えた!


「わわっ!」


 縁側を踏み外した俺は、体をひねり、うつ伏せになる格好で地面に倒れ込む。


「死ねっ!」


 奴は縁側の上から俺を串刺しにしようと刀を引いた。

 その動きに俺の体は即座に反応し、左手で上半身を支え、右手に持つ刀を背後に向けて横一文字に旋回させようとした。

 相手は俺を刺貫くため、すぐそばまで接近している。俺の刀がそのまま円運動を起こせば、胴体を真っ二つにするだろう。


 やめろ!やめろ、やめろ、やめろ、やめろーーーーーーーーー!!!


 疾風のように宙を滑る刀は、相手の胴を薙ぐわずか手前で失速し、避ける余裕を与えた。


 この不利な体勢から一時脱し、距離を取って刀を構え直さなければ!そんな考えから、敵に背中を見せたまま裏庭の端まで駆けようとした。それがいけなかった。


 立ち上がった俺の背中に、熱く、痺れるような衝撃を斜めに受けた。

 その直後、激烈な痛みが広がり、俺は刀を落としてつんのめる。


 裏庭に灯りはないが、雲一つない夜空に半月が輝き、辺りの様子はほんのりと視認できた。

 背中から、生暖かい物が腕を伝って地面に落ちる。血だ!


 背中を斬られたのか!?


 後ろを向くと、縁台から降りた陣羽織野郎が冷ややかな笑みを浮かべ、近寄ってきた。


「ここまでだ………アーフィーダーズィン・アイン・ヤパンシャ・アゲンツ」


 そんな風に聞こえた意味不明の外国語を俺に投げかけ、刀を上段に振り上げる。

 あまりの痛みで、体をぴくりとも動かせない。


 頭上に刃が落ちてこようとする間際、屋内から大きな足音を立てて那奈が飛び出してきた。俺のピンチに気付き、戦っている狐火を放置してこっちに向かってきてくれたんだ。


「させぬぞーーーーーー!」


 大音声を発して斬り付けてくる那奈に、奴は舌打ちをして応じる。

 これまで見てきた中でも最も凄まじい那奈の太刀風に押され、男は俺のいる場所から数メートルは遠ざけられた。


「先生、大事ありませぬか?」


 相手に注意を向けながら、俺に寄り添って背中を見た那奈の表情が凍りつく。俺はその傷を直に見られないものの、相当ひどいことになってるんだろう。

 那奈が二の句を継ぐ暇もなく、中庭に下りてきた狐火も戦闘に加わった。


 一対二。那奈にとって圧倒的に分が悪い。


 それでも彼女は、見事な太刀ゆきで狐火と陣羽織野郎の攻めをしのいだ。しかしそれにも限界があり、那奈の剣は明らかにスタミナ切れを起こしつつあった。

 手槍のようにして繰り返し突き出される狐火の弭槍を、巧みに受ける那奈の顔が険しくなっている。


 すると、彼女の背後に素早く回り込んだ陣羽織野郎が、サッと刀を振り上げる。

 那奈は狐火の鋭い突きを受け止めるのに精一杯で、もう一方からの斬り込みに対応できる余地などない。


 放っておけば、那奈が斬られる!


 その一瞬だけ、俺の頭の中は那奈のことしか考えられず、激しい痛みすら消えた。

 俺は四つんばいになって落ちていた刀を取り、腰を曲げた低い姿勢のまま両足で立つと同時に跳躍した。


 俺の動きに気付いた陣羽織野郎が、那奈への打ち込みを止め、こちらをにらむ。


「やあーーーーーーーーーーーーーーーっ!」


 那奈を救う!その一念が脳波に作用し、自衛目的以外の攻撃行動を刀に取らせた。

 雄叫びを発した俺は、片手のまま刀を斜めに斬り上げていたんだ。


 青白く発光した刀が、男の右腰から左肩へ何の抵抗もなく縦断する。


 即死だっただろう。

 血しぶきも飛ばさず斜めに分断された男の体は、ドサッと地面に崩れ落ちる。

 切断面から大量の血が流れ出したと見るや、死体は半透明に薄れていき、ついには血液と一緒に消滅した。


 信じられない光景を目にした那奈はぼう然と立ち尽くし、狐火ですら体を硬直させている。


 人を斬った………恐怖なのか、悔恨なのか、俺の体は急に震えだし、背中の痛みも加わって右手から自然と刀が滑り落ちた。俺はガクンと膝をつき、地面に横たわる。


 ここで我に返った狐火が弭槍を構え直し、那奈もやむなく視線を敵に転じて刃を向ける。その時、表玄関の方が妙に騒がしくなった。


 屋内でマキと戦っていた瑞雲が、目を血走らせて裏庭に飛び込んでくる。


「新撰組の連中だ!」


 それを聞いた狐火は直ぐさま身を翻して奥へと逃げ、側にあった石灯籠を踏み台にして軽業師のように板塀を乗り越えた。


 後に続こうとする瑞雲の背中に向け、追いかけてきたマキが「待ちんしゃい!」と苦無を投げつける。

 瑞雲は背後に振り上げた刀で苦無を簡単に弾き、狐火と同じようにして塀の向こう側に姿を消した。


 マキが後を追おうとしたが、瑞雲が踏みつけた振動で石灯籠が横倒しになり、行く手を阻んだ。


 ここに至ってようやくマキが、那奈にしがみつかれている俺の異変に気付いた。


「万太郎、どがんしたばい!斬られたんか?」


 マキが那奈を押しのけるようにして俺の背中をまさぐる。


「ウググッ………」


 さらなる激痛に襲われ、俺は思わずうめき声を出す。


「ばっさりやられとーな。出血もひどかぞ」

「私が先生をお守りしなければならないのに………こんな傷を受けながらも、先生が私を守ってくださり………私は………私は………」

「今はそがんことば言いよー場合じゃなかぞ。早う医者に診せねばならん」


 泣きべそをかく那奈にマキが諭す。


 そこへ、障子や引き戸を蹴り倒し、道具類をはね除け、壊すけたたましい音をさせながら、黒一色の武士団が裏庭にも押し入ってきた。

 一団の中から悠然と一歩前に出てきたのは、沖田だ。


「狐火は裏から逃げたのか!全員すぐに追ってください!諏訪神社の脇には小舟が往来できる掘割もあります。高瀬川まで出られてしまうと面倒だ」


 沖田の命令を受け、隊士らは急いで取って返し、玄関から出て行く。


「全く君たちは無鉄砲だなぁ。屋内で気を失っている二人の浪人は狐火の手下ですね?新式の小銃まであんなに隠し持ってたなんて。奴らは都で何をしでかそうと……」


 おぼろげな月光に照らされる裏庭に目を凝らしていた沖田は、ようやく俺が地面に伏しているのを見て取り、顔色を変えた。


「まさか、君ほどの手練れが傷を負ったのか?」

「沖田様、先生をすぐお医者さまに!お願いいたします!」


 那奈の涙ながらの訴えで事態の深刻さを知った沖田は、縁側にひょいと上がるなり、戸板を一枚外した。


「これに彼を乗せよう!五条橋にある精養軒先生の所まで、僕が道案内します」


 ようやく目を覚ましたお涼と亀吉に失神している浪人たちの見張りを任せ、那奈、マキ、沖田の担ぐ戸板に乗せられた俺は、真っ暗な都大路を進む。


 荒々しい振動で体が揺さぶられ、これまで体験したことのない凄まじい痛みが断続的に、波状的に打ち寄せるのを必死で耐える。時々失いそうになる意識を、この激痛で何度も覚まされながら………。

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