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№22 遺言の謎を解き明かしてしまった!

高校二年の歴オタ主人公・田島錠は幕末にタイムスリップし、「未来から派遣されたターミネーターによる歴史改変の阻止」という途方もない任務を背負わされてしまう。

どんな素人でも剣の達人になれるオートマチック・オペレーション・ソードを手に、新撰組の剣客・沖田総司から気に入られて何かと手助けを受けるようになった錠は、仲間になったツンデレの女剣士・那奈、爆乳の岡っ引き・お涼、クールな密偵・マキと力を合わせ、幕末の京都に潜む凶悪な敵を探し出し、地球を救わなければならない!

 マキを連れていった伊予屋の離れには、すでに探索を終えた那奈とお涼が待っていた。亀吉はお涼が先に帰らせている。


 驚く二人に事の成り行きを説明し、マキには俺たちが狐火の陰謀を打ち砕くため協力することになった経緯を話した。次は、マキの番だった。


「うちゃ………肥前・佐賀藩から派遣された密偵ばい」


「「「密偵!!!」」」


 那奈とお涼は目をパチクリさせて俺を見る。


 そうか、尊王攘夷派でも、公武合体派でも、佐幕派でもないこの藩があった!


「そもそも佐賀藩は、他藩との交流ば禁じとう。ばってん、あーたたちは藩に属した人間じゃなかし、命ば助けてもらわんやったら、大殿の閑叟様から命じられた使命も果たせず、不忠の誹りば受けるところやった。だけん正直に話す」


 正座し、膝にハヤタを乗せたマキは、俺たちを見据えた。


 肥前国とは、現在の長崎県と佐賀県。そのうち佐賀県全域と長崎県の一部を領地とした佐賀藩は、恐らくこの当時、日本最強の軍事力を持つ藩だったろう。

 代々鍋島家が治める三十五万七千石の大藩ではあるけど、開明的な十代藩主・直正は独自に西洋の最新軍事技術の導入を進め、雄藩の中でも一目置かれる薩摩や長州をしのぐ軍事力を整えていた。


 元々この藩は、鎖国下にある江戸時代の日本で唯一海外との窓口になっていた長崎の警備を担当し、世界の情勢をいち早く知りうる立場にあった。

 俺がやってきたこの時代から二年後には、世界最新鋭兵器であるアームストロング砲まで自力で製造したと言われている。

 軍事面だけでなく、種痘の実施による天然痘予防、製鉄・蒸気機関・ガラス、電信などの研究を推進し、藩の近代化を主導した直正はすでに隠居し、閑叟と名乗ってはいるが、藩の実権は今も握り続けているはずだ。


「大殿様はこん日本と朝廷ばお守りすっとに、幕府も、薩摩や長州などの雄藩も任せるには心許なかと考えといでなんや。今のままでは内戦になる恐れもある。隙あらば日本ば属国にしようと企む列強諸国に付け入らさんようにすっためにも、佐賀一藩だけはどの派閥にも属さず、いざちゅう時に外国と対峙し、武力で打ち払う覚悟まで決めとーばい」


 確かに、幕末の佐賀藩の方針は「大攘夷論」を前提にした極力中立だった。

 大攘夷論は、外国を打ち払うのは、開国・交易によって富国強兵を図り、諸外国と対等の軍事力を備えてからのことであるとする思想。

 明治維新後の新政府は倒幕に功績のあった「薩長土肥」、つまり薩摩、長州、土佐、肥前(佐賀)の四藩から主に人材を登用したんだけど、佐賀藩は幕末のぎりぎりの段階、新政府軍と旧幕府勢力が激突する戊辰戦争が起こる直前まで、態度を明確にしなかったんだ。


「そんため、京の情勢ばいち早う大殿様にお知らせすっのが、うちの役目ばい」


 マキは、懐からさっきの戦闘で使った拳銃を出して、自慢気に俺たちへ見せた。


「アメリカでスミス・アンド・ウェッソンちゅう銃器製造者が開発した回転式三十二口径六連発ピストールばい。こりゃあうちが大殿様から直々に拝領した珍しか打ち物。佐賀藩では、幕府も他の雄藩も持っとらんような、世界で最も新しかいろんな武器ば密かに輸入しとーし、それらば領内でようけ作る工房まで整備されよー」


 この拳銃、マキが言った名前の通りなら、長州の大物志士・高杉晋作が中国の上海で手に入れ、坂本龍馬に贈ったのと同じ物。龍馬は伏見の旅籠・寺田屋で役人に踏み込まれた時、この拳銃で身を守ったんだった。


「都ば内偵すっうちに、狐火の存在ば知った。奴はこれまでの急進派志士とは異なり、全く別の組織ば指揮して都ば混乱させようとしとーこともわかった。仲間が集まって談合しとー場所の一つが、二条新地の料亭・金襴楼ばい。ここ数日見張りば続け、出入りすっ連中で唯一まともな格好ばしとー侍こそが首領か首領挌やないかと判断した。今日、振り売り姿でそいつの後ば付けたんやが、不覚やった………」

「そこを助けに入ったのが、先生という訳ですね。どうです、マキさん、先日四条通りでは先生に対して小馬鹿にしたような態度をとっておいででしたが、少しは反省しておいでですか?」

「うん、あん時は都で一旗揚げようと田舎から出てきた年若の志士崩れじゃろうて思い込んどったばってん、うちの大きな勘違いやった」


 肩をすぼめるマキに、那奈はまるで自分のことのように「そうでしょう、そうでしょう」と胸を張る。


「そんで、マキはんは、これから狐火の隠れ家を探すためにあたしらと一緒に行動しても、藩から怒られたりはせえへんの?」

「隠れ家探しは、内偵の任務に含まれとる。それに大殿様の朝廷ば敬うお気持ちは誰にも負けん。天子様ばかどわかし、都の安寧ば乱そうなどちゅう悪だくみ、知りながら放置したら、うちが罰ば受ける。例え連中との太刀打ちに至ったとしても、大目に見てくださるじゃろう。それに、佐賀藩から密偵として都に差し向けられたんは、うち一人。そこはどうとでもなる」


 マキはいたずらっぽく表情を緩めた。


「よし!じゃあ、明日からは亀吉さんを含めて俺たち五人で頑張ろう!」


 景気付けようと声を張り上げたんだけど、那奈とお涼の顔色は冴えない。


「頑張るのは良いのですが、この五日間足を棒にして歩き回ったにも関わらず、いまだ何の手がかりも得られませぬ」

「人の名前だけやのうて、町名、村名、寺社仏閣の名前まで調べてんのに、かすりもせえへん。亀吉なんか歳も考えんと無理したもんやさかい、膝痛めてしもたのよ」

「探す対象が間違ってるってことなのかな。じゃあ、人名でも土地建物の名前でもないものって………」

「されば、京菓子には様々な名前が付けられております。季節にちなんだ名や、色形にちなんだ名など」

「それを言うたら、茶道で使われる茶碗や茶杓、釜、棗なんかも茶人らが好き勝手に名前付けるえ。紅とか白粉とかの新しい化粧道具の名前かもしれんし、酒の名前とか、薬の名前とか」

「こうなると収集つかなくなるなぁ。名前だけでなく、それに続く〝すがる〟って言葉も何を意味するのか併せて考えないといけないし。う〜〜〜〜〜ん………」


 眉間にしわを寄せる俺に、那奈が「まさか」と不安げに問い掛ける。


「あの大石という男、私たちに偽りを述べたのでは?」

「そやけど、狐火に口封じで矢を射られて、そのいまわの際やで。そこまでされて、まだ狐火をかばおうとするやろか」


 お涼の言葉に納得し、俺も那奈も思案顔のまま黙り込んでしまう。

 そんな俺たちを見て、マキが身を乗り出した。


「あーたたちは、何ば探しよーと?さっきから名前がどうとか、すがるがどうとか」

「御親兵の名目で勧誘に携わっていた大石という浪人が、死ぬ前に遺した言葉だよ。〝やえがきひめのすがるばしょ〟。そこが狐火の居所らしい」

「されど、洛中に左様な名のおなごはおらず……」

「まるで判じ物や。さっぱりわからへん」


 そう聞いたマキは「やえがきひめ?………どっかで聞いたような」とつぶやいて、宙を見つめた。


「マキさん、もしかして何か思い当たるのかい?」

「うん………ばってん、それって、浄瑠璃じゃなかと?」

「「「浄瑠璃?」」」


 俺たち三人にとって、予想外の答えである。


「浄瑠璃って、三味線の伴奏でいろんな物語を語る芸能の一種だよね………」

「歌舞音曲の類は剣の修業の妨げになると、幼い頃より父に厳しく禁じられていました故、その方面についてはさっぱり」

「あたしは祇園町の小屋で何度か観たことあるけど、そんなお姫さんの出てくるような浄瑠璃て、あったやろか………」


 要領を得ない俺たちに、マキが「そりゃあ」と噛んで含めるように続ける。


「近松門左衛門作の浄瑠璃『信州川中島合戦』を元に、弟子たちが作り直した『本朝二十四孝』の第四段、武田勝頼と八重垣姫の恋物語しか考えられん」

「それってホントかい?浄瑠璃の内容までえらく詳しいんだね」

「内偵ちゅう役目につくには、世の中のあらゆる見聞ば広う身に付けとかんばならんのさ。それにうちゃ、表の仕事が辻芸人だけん。芸能に関する知識は、上役から相当厳しゅう叩き込まれたんばい」


 マキの説明によると、物語はこうだった。


 時は戦国時代。互いに争っていた二人の有力武将、甲斐(山梨県)の武田信玄と越後(新潟県)の上杉謙信は、信玄の息子・勝頼と謙信の娘・八重垣姫を婚約させ和睦していたが、都で征夷大将軍・足利義晴を暗殺した犯人の捜索を命じられ、三年以内に捕らえられなければそれぞれの息子の首を差し出すと誓ってしまう。

 三年経っても犯人は見つからず、死を命じられた勝頼は身代わりのお陰で生き延びたものの、秘密を知る追っ手が迫っていた。危険を知らせようとする八重垣姫だったが、勝頼のいる諏訪湖は氷が張っていて船も出せない。そこで諏訪明神の加護を求めたところ、八重垣姫に神の使いである白狐の霊が乗り移り、狐火が周囲を照らす中、湖を渡る奇跡が起こる、という筋だ。

 もちろん純然たるフィクションである。


 俺も、那奈も、お涼も、固唾をのんで聞き入った。この物語の主役を導くのは、まさしく〝狐火〟。目的を達するための先導役にかけて、未来から来たターミネーターは自らをそう名乗ったのかもしれない。


「つまり、八重垣姫が願をかけた、すがったのは、諏訪明神?」


 つぶやくように言う那奈に、マキがうなずく。


「ねえ、お涼さん、都に諏訪明神が祀られてる場所ってあるの?」

「それやったら、下京には平安の昔に建立されたと伝わる諏訪神社があるわ」

「それだ!」


 謎は解けた。そこが、狐火のアジトに違いない。


 であれば、分子破壊砲もきっとそこに!俺たちは、地球を救うための足がかりをようやくつかんだのかもしれない。

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