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№20 新撰組に容疑をかけられてしまった!

高校二年の歴オタ主人公・田島錠は幕末にタイムスリップし、「未来から派遣されたターミネーターによる歴史改変の阻止」という途方もない任務を背負わされてしまう。

どんな素人でも剣の達人になれるオートマチック・オペレーション・ソードを手に、新撰組の剣客・沖田総司から気に入られて何かと手助けを受けるようになった錠は、仲間になったツンデレの女剣士・那奈、爆乳の岡っ引き・お涼、クールな密偵・マキと力を合わせ、幕末の京都に潜む凶悪な敵を探し出し、地球を救わなければならない!

 大石の遺体と捕縛した六人を六角の大番屋に引き渡し、そこの詰め所で一息ついた頃にはもう夜が明けていた。


 東山五条の行流寺では、斬り合いの物音に驚いて起きてきた和尚と寺男に頼み、負傷した浪人の手当を手伝ってもらった。

 この寺は、狐火の組織と無関係のようでもあった。寺の近くで野宿していた大石と知り合い、憐れに思った和尚が、使っていない塔頭を寝場所に提供しただけだったらしい。


 その後、境内にあった大八車に大石の遺体を乗せて俺と那奈が引き、捕まえた六人を縄で数珠つなぎにしてお涼と亀吉が引っ立てていったんだ。

 当初の思惑通りにいかなかったとは言え、死体や取り押さえた浪人たちをこの場に放置もできない。となれば、連れて行く場所はこの時代の〝警察〟しかないだろう。


 被疑者を取り調べ、拘留し、罪状が明らかになれば牢屋敷へと送る施設が大番屋である。

 この日、月番の東御役所で宿直を務めていたのがお涼の上役にあたる西村数馬という若い同心で、大番屋からの知らせを受けて同僚を引き連れ大急ぎで駆け付けてきた。

 俺たちからの事情聴取やら、大石の遺体検分やら、浪人たちの取り調べやらで、大番屋の中はてんてこ舞いだ。


 しばらくして、俺たちが休憩している詰め所に戻ってきた西村は、憔悴した顔でお涼をにらみ付ける。


「全く、出しゃばったことをしてくれたもんやな。東山五条は新撰組の割当地やないか」

「西村様、そやけど御役所は寛文の昔から洛中全体の安寧を守ってきたんやないですか。新参の新撰組に、何でそないに遠慮せなあかんのです?」

「あのなお涼、今の都を牛耳ってるのは禁裏御守衛総督の一橋様、京都守護職の会津様、京都所司代の桑名様の三者や。新撰組は、その会津藩お預かりの組織なうえに、池田屋事件での功績が朝廷や幕府からも賞賛されて、わしらよりすっかり上の立場になってしもとる。しかも、不逞浪士の探索と捕縛は、あいつらが受け持つと御役所にも言うてきとるんや。厄介ごとになっても知らんぞ」


 腕組みしてため息をつく西村に俺が釈明しようとした時、詰め所の扉を乱暴に開けて三人の侍が入ってきた。


 三人とも同じ黒の羽織袴……新撰組だ!


「おい、我らへの一報も寄越さず、勝手に浪士どもを引っ捕えたそうだな。どういうつもりだ?」

「は、は、はい、それが……」


 恫喝されておろおろする西村を見ていられず、俺は腰を上げた。

 同じように那奈も俺の隣に立つ。


「御役所が先導したんじゃありません。俺たちを手助けしてくれただけなんです」

「何者だ、お主は?」

「俺は相模の浪人、棟田万太郎。隣にいるのは、上州の剣客、三好那奈。見知らぬ浪人に良い話があると路上で誘われ、ついて行けば都の治安を乱そうと画策する不逞浪士の集まりだった。企ての詳細を聞く前に、考えの異なる俺たちと争いになり、たまたま付近を巡察で通りかかったお涼さんたちの助けも得て、ここへ連れてきたという次第です」


 西村にしたのと同じ説明を聞いた隊士たちは、顔を見合わせる。


「棟田万太郎……どこかで聞いた名だぞ」

「……あ、鴨川の河原で不逞浪士三人を峰打ちで倒し、その場から立ち去った男では」

「おお、そうだ。相違ない」


 一人が、俺に向き直る。


「以前といい此度といい、札付きの浪士どもとたまたま居合わせ、たまたま争いになったというのはどうも腑に落ちん。そもそもお主は無法の輩の一味で、仲間割れを起こして斯様な振る舞いをしているのではないのか?」

「何をバカなことを!先生はそのような人間ではない!」


 思わず那奈が口を挟む。


「されば、そこのところを我らが納得できるよう、もう少し詳しく話してもらえぬか?屯所までご同道願いたい」

「屯所にだって?」


 つまり、俺を被疑者として取り調べるってことだ。新撰組の屯所なんて連れて行かれたら、下手をすれば拘束とか、拷問だってされかねない。


「お断りします。疑われる覚えなんて、俺にはありませんからね」


 即答する俺に、那奈も同調する。


「当然です。あなたたち、少し横暴すぎますよ!」

「嫌というなら、腕づくでも来てもらうことになるが……」


 一人が刀の鯉口に手をやったのとほぼ同時に、残りの二人も身構える。

 反射的に刀を抜く構えに入った那奈を、俺は手で留めた。

 こんな場所で新撰組と立ち回りを始めたら、大変なことになってしまう。


 緊迫した空気を、「おいおい、何を熱くなってんだ」という明るい声が一変させた。

 詰め所に入ってきた侍、それは沖田総司だった。今日はダンダラ羽織ではなく、黒の羽織袴を身に着けている。


 三人の隊士は一斉に刀から手を離し、威儀を正す。


「よおっ、棟田君。昨夜から屯所の泊まり番でね。多数の浪人を奉行所が捕らえたと聞いて飛んで来たんだが、またまた君のお手柄だったとは」

「沖田さん、俺は不逞浪士の仲間なんかじゃ……」


 いつものにこやかな顔で向き合う沖田にろくな挨拶もせず、俺は濡れギヌを訴えようとした。


「まあまあ、落ち着け棟田君。わかってるさ」

「されど沖田組長、この者は東山の人知れぬぼろ寺で不逞浪士たちと密会していたのは間違いないのですよ」

「だから、その寺へは誘われて初めて行ったんだって!」


 横から口を出した隊士に、俺は思わず反論する。

 興奮する俺をなだめ、沖田は隊士たちを見回した。


「君たちがそんな風に疑うのは、いささか浅慮です。もしも彼が一味だとして仲間割れしたのなら、その場で相手を殺すのが普通でしょう。わざわざ峰打ちか、手傷を負わせるだけに留めて、ご公儀が詮議ができるようこの大番屋まで連れてきてくれたんですよ。彼らに後ろめたいことがあれば、そんなマネはできません。僕たちは棟田君に礼こそ言わねばならないのに、下手人扱いなどもってのほか」


 沖田から静かに叱責された隊士たちは、「はっ」と直立不動の姿勢をとる。


「ところで、矢で射殺されていた男、大石清之進ですね?」


 穏やかに尋ねる沖田に対し、俺は「ええ、そうです」と正直に答える。


「実は僕らも追っていた男なんです。弓を扱う奴にやられてるようだから、君たちの仕業じゃない」

「口封じされたんです。斬り合いの最中に現れた一味の新手に。取り逃がしてしまいましたが」

「そいつは、ひょっとして狐の面を被っていたのでは?」

「ええ、白い狐面の侍でした」

「やはり……」


 新撰組も、狐火と謎の組織についてはある程度の情報を得ているんだから、このくらいは話しても差し支えないだろう。


「で、殺された男、君に何か言い残しませんでしたか?どんな些細なことでも良いのですが」

「……それは、何も」


 ここだけは正直に言う訳にいかない。誰よりも先に狐火の隠れ家を見つけ出し、分子破壊砲を奪わなければならないんだから。


 沖田は「そうか……なら仕方ない」とつぶやいてから、西村を見た。


「捕縛した六人は、後ほど新撰組の屯所まで連れてきてください。詮議はこちらでやらせてもらいます」

「は、はい、承知いたしました!」


 隊士三人を先に詰め所から出し、沖田は帰り際に俺の元に戻って耳打ちした。


「君が敵ではなく、都の安寧を第一に考えていることは、十分に理解しているつもりです。ただ、僕らの完全なる味方とも言えないようだ。会津藩や幕府とは違う、もちろん長州などの過激派とは全く異なる有力者の密命を受けているのではありませんか?しかし、狐面が率いる連中は、一人や二人で立ち向かえるような相手ではないでしょう。共に行動できない理由があるにしても、困った折には頼ってください。個人的に力を貸しますから」


 当たらずとも遠からずという俺の正体を何とはなしに見透かし、それを黙認してくれている沖田に、俺は言葉で感謝を言い表せず、黙って頭を下げた。

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