№18 口問い・お涼の恥ずかしい〝秘密〟を知ってしまった!
高校二年の歴オタ主人公・田島錠は幕末にタイムスリップし、「未来から派遣されたターミネーターによる歴史改変の阻止」という途方もない任務を背負わされてしまう。
どんな素人でも剣の達人になれるオートマチック・オペレーション・ソードを手に、新撰組の剣客・沖田総司から気に入られて何かと手助けを受けるようになった錠は、仲間になったツンデレの女剣士・那奈、爆乳の岡っ引き・お涼、クールな密偵・マキと力を合わせ、幕末の京都に潜む凶悪な敵を探し出し、地球を救わなければならない!
茂みの中から、俺とお涼と亀吉は、寺の門を潜っていく那奈を見送る。
門の脇にある小屋から寺男が出てきて、那奈が声をかけると黙って通した。
その少し前……四条通りで争っていた俺と那奈がいつのまにか師弟となって行動を共にしている状況に、お涼も亀吉も信じられないという風だった。
そんな彼らに、俺は那奈に話したのと同じ説明をした。
お涼はどうやら町奉行の命に従わず、新撰組とも歩調を合わせず、独自に不逞浪士の摘発を進めようとしている。それなら、俺たちの仲間に引き入れられるんじゃないかと思ったからだ。
敵は相当に手強い。信頼できる協力者は、多いに越したことはない。
俺の考えに、那奈も渋々同調した。剣士としての自負を持っている彼女にすれば、下級役人とはいえ、町人身分の二人に助力を請うのはあまり気が進まないのかもしれない。
「その話……乗った」
即断したお涼に、亀吉が「ちょ、ちょ、ちょっと、お嬢さん」と待ったをかける。
「棟田はんは、町奉行にも、新撰組にも属さんと、都に巣くう悪者を退治しようとしてはるんやで。そやったら、あたしらと同類みたいなもんや。それにこのお方は剣の達人なんやから、こっちも心強いわ。あたしは、棟田はんと手を組む!」
「はぁ〜〜〜。お嬢さんがそない言わはるんやったら、わても付いていくしかありまへんがな」
お涼と亀吉は、大石のねぐらを今日すぐに急襲せず、狐火の根城を突き止めてから行動に移す、という俺たちの計画にも賛成してくれた。
那奈が境内に入った後、俺たちは裏手に回り、築地塀を乗り越える。俺とお涼は屈んだ亀吉の背中を踏み台にして屋根にまたがり、今度は二人で亀吉を引っ張り上げた。
日はとっぷりと暮れていて、誰かに見とがめられる心配はもうない。
境内には質素な本堂と庫裏らしき建物があり、和尚はそこで寝起きしているんだろう。
草むらに潜みつつ、そのさらに奥へ進むと、古びた小さなお堂がぽつんと建っていた。
長年使われていなかった建物らしく、朽ちかけた板壁のあちこちに隙間や穴が開いており、内部の灯りが漏れて見える。
俺たちはお堂の板壁に取り付き、中の様子を窺った。
二十畳近くある板間にいくつかの燭台が灯され、大石を含めて六人の浪人が車座になって酒を飲んでいる。那奈はその輪に加わらず、板壁を背にじっと正座していた。
狐火は……まだ来ていない。
俺たちは、いざという時にすぐ中へ飛び込めるよう、蹴飛ばせば簡単に踏み破れそうなぼろぼろの板壁を見つけ、そこに陣取った。那奈が背にする壁の反対側で、大きな穴から堂内もはっきり見渡せる。
「おい大石、そこのおなごは、侍のなりこそしておるが、ものの役に立つのか?よう見れば、眉目良き娘ではないか。刀の代わりにこの徳利を持って、酌でもしてもらいたいもんじゃが」
一人が、いやらしい目つきで那奈をからかう。
明らかにカチンときた那奈が、床に置いた刀を取ろうとして、思い留まる。その挙動を敏感に悟った浪人は、酒の入った椀を置き、彼女をにらみ付けた。座に緊張が走る。
那奈はホントに怒りっぽいからな〜。短気を起こして計画をぶち壊しにしないよう、祈るしかない。
「おいおい、そう目に角を立てるなご同輩、那奈殿の居合の腕は相当なものらしいぞ。四条通りで実際に見たわしの仲間が感心しておったくらいだ。まあその折には、さらに剣の腕が立つ夷狄かぶれに惜しくも後れを取ったようではあるが」
「ふ〜〜〜ん、左様か。それは失礼した」
大石にやんわりと諭され、からかった浪人は再び手酌を始めた。
酒盛りが続く。狐火がやってくるまで、俺たちも外で待つしかない。
俺の両側には、お涼と亀吉がピタッとくっついて同じ穴から覗いている。
中年男の亀吉は気にならないんだけれど、若くて可愛い女性にこうも密着されているとどうも落ち着かない。
ちらっと横目で見ると、着流しの襟元から、やはり今日も白いサラシを胸まで巻いている。
「あの……前から聞いてみたいと思ってたんだけど……」
「なんどす?」
お涼は、くりんとした瞳を上に向ける。
「どうして、サラシなんか巻いてるの?今日は六月十六日だし、祇園御霊会の山鉾巡行って、もう二日前に終わってるよね」
江戸時代の祇園祭は、六月七日から六月十四日までで、鉾や長刀に装飾を付けた山鉾の巡行は初日と最終日の二回行われてたはず。
尋ねられたお涼は、途端に顔を紅潮させて目をそらし、サラシが見えないよう襟元をギュッと合わせる。
「それは……その……」
まるで要領を得ないお涼を見かねて、亀吉がそっと耳打ちする。
「お嬢さんはこう見えて、ものごっつうでかいお乳をしたはるんですわ。それが自分で下品や、恥ずかしいいうて、亡うなった親父さんの跡を継いで口問いになってからは、人にわからんようサラシをピチッと巻くようにならはって」
「そ、そうなの?……」
ついつい視線が、お涼の胸元へと自然に誘導されてしまう。確かにサラシを巻いた状態だと、そんな巨乳とは全く想像できない。
「亀吉、聞こえてるで!」
怒気を発したお涼が、亀吉につかみかかろうとする。
「ちょ、ちょっと、ちょっと、中の連中に気付かれちゃうよ!」
興奮するお涼をなだめていると、堂内に目をやった亀吉が「お嬢さん、棟田様」と気負った忍び声で呼びかけた。
「新手の侍が入ってきましたで」
狐火がやってきたのか!?
俺とお涼は飛び付くように穴へ顔を寄せ、目を凝らす。




