№16 予想だにしないチャンスと遭遇してしまった!
高校二年の歴オタ主人公・田島錠は幕末にタイムスリップし、「未来から派遣されたターミネーターによる歴史改変の阻止」という途方もない任務を背負わされてしまう。
どんな素人でも剣の達人になれるオートマチック・オペレーション・ソードを手に、新撰組の剣客・沖田総司から気に入られて何かと手助けを受けるようになった錠は、仲間になったツンデレの女剣士・那奈、爆乳の岡っ引き・お涼、クールな密偵・マキと力を合わせ、幕末の京都に潜む凶悪な敵を探し出し、地球を救わなければならない!
翌日の朝から、俺と那奈は大石のねぐらになっている廃寺を見つけるため、東山の麓を手分けして調べることにした。
四条通りの東端には祇園社があり、隣接して浄土宗の総本山・知恩院の広い境内が広がっている。その辺りから、五条通りの東端にある清水寺まで、距離にすれば一・五キロちょっと。このエリア内の北半分を那奈、南半分を俺が受け持つ。
限られた広さではあるが、都の平地部と同様に大小様々な寺が数え切れないほど密集していて、さすがは京都だと感心……いやどちらかと言えばうんざりさせられる。
しかも、麓とはいえ地図のない山の中で、時には途切れ、時には三叉、四叉に分かれる悪路を辿り、建造物を一戸一戸探し歩くのは相当に骨の折れる作業だった。
丸三日、東山山麓を歩き回った俺たちは何の成果も得られず、この日も日暮れ前を合図に祇園社の前で落ち合った。
足は棒、とはこのことで、二人ともくたくたになって西楼門の石段下で座り込んでいる。
「これだけ探しても、廃寺どころか、怪しい小屋一つ見つかりませぬ」
「ああ、どの寺にも坊さんか寺男がいて、放置された無人の寺なんてない……」
「先生、お珠の話は確かなのですか?ひょっとして、根も葉もない流言飛語なのかも」
「まさか、だって町奉行の役人から聞き出したってことだし……」
と一応弁護はしたものの、全く手がかりを得られない現状に、俺も不安になってくる。
「そもそも、お珠とやらは信ずるに足る人物なのでしょうか。私はどうもあのおなごが好きませぬ」
那奈は、エマに対してあからさまな敵意を込めてグチる。
疲労と空腹も、那奈の不満を増幅させているのは間違いない。こんな時は、宿に帰って飯をたらふく食い、ぐっすり眠るのが得策だ。
俺と那奈がいつの間にやら師弟関係になっていると知った茂平は、二人分の宿泊費と食費をずっとタダにしてくれている。正規の泊まり部屋じゃないからとはいえ、仲介した新撰組の沖田には相当な恩義があるんだろう。
「それじゃ……」
宿に戻ろうと言いかけた時、俺たちの前に体格のいい一人の男が立った。
年は三十そこそこ。顎の張った四角い顔で、眼差しがやけに鋭い浪人だ。
男は俺じゃなく、那奈を見下ろしてにやにやしている。
「何だ?人をじろじろ見て、私に難癖でもつけるつもりか?」
さっきまでのだらけた雰囲気を消し去り、那奈はすっくと立ち上がり柄に手をかける。
こういうところは、やはり剣士だ。俺もつられて腰を上げる。
「おいおい、短気はよせ。他意はないのだ」
浪人は血相を変え、慌てて手を振る。
「ならば、何故ガンを飛ばす?」
「左様なつもりは……気に障ったならば許されよ。過日、この祇園町にて、勤王の志士らしき女剣士が夷狄かぶれに天誅を加えようとしたという話を仲間から聞いていてな。もしやお手前ではないかと思い、つい無遠慮に見てしもうた」
こいつの言ってる「夷狄かぶれ」って、ポロシャツとジーンズ姿だった俺のことだ……。
「それが私ならば、どうしたと言うのです?」
「やはり、お手前なのだな。わしは以前仙台の伊達家に仕え、今は脱藩して尊王攘夷のため国事に奔走しておる……大石清之進と申す」
「「!!!」」
俺と那奈はキョトンとなって、思わず顔を見合わせる。探していた相手が、向こうからやってくるなんて!
「ん?いかがされた。不審なことでもおありか?」
「い、いえ!何でもありません。どうぞお話の続きを」
「おお、その女剣士がお手前なのであれば、是非とも我らの仲間に入ってほしいのだ」
「仲間?」
「うむ。その前に、こちらはお手前の連れなのか?」
大石は、用心深く俺を見る。
「ええ、そうです。この者ならば、心配ご無用。私と同じく、尊王攘夷を志す同士にて、剣の腕は私よりも立ちます」
侍姿の俺が、那奈に斬られようとしてたその「夷狄かぶれ」だとはいくらなんでも想像付かないだろう。大石は納得したのか、小さく首を縦に振る。
「そうか、ならばお二人に聞いてもらおう。我らは真の勤王の士を募っておる。ここ数年で都に流れてきた志士というのは、多かれ少なかれ長州藩や土佐藩の援助を受け、息がかかっている。そのような特定の藩の色に染まらず、天子様をお守りし、天子様のためにのみ動く御親兵を結成したい。邪魔立てする者、我らにとって障害となる者には全て天誅を加える。そのためには、尊王攘夷の志を持ち、剣の腕が立つ者でなければならぬ。お手前はおなごの身でありながら、そこらへんの浪士どもより遙かに肝が据わっていそうに思えてな」
「あなたが、その御親兵の指導者なのですか?」
那奈は、自然な会話で背後に控える親玉を聞き出そうとしている。
「まさか、まあ確かに、親兵の任に堪えうる有能な志士を目利きし、仲間に引き入れる大事な役目を授かってはおるが、わしではない。大将は頭が切れ、武術にも秀で、軍資金もたんまりお持ちの立派な方だ。我らはそのお方を……狐火様と呼んでいる」
わずかにこっちを向いた那奈に、俺は微かにうなずく。やったぞ!これで狐火と接触できる。
「狐火……が名前?」
「いや、どうやら深い事情があって、真の名は伏せておられる。されど、狐火様の誠心と実力にウソ偽りはない。すでに何人もの志士がこの企てに賛同し、彼らの暮らし向きは全て狐火様が面倒を見てくださっているのだ。もしその気があれば、明日の暮六つ、わしが仮住まいする東山五条の行流寺まで来てくれ」
「行流寺?それは廃寺なので?」
「いいや、寺は小さいが和尚もおる。境内の奥に長年使われずに朽ちかけておった塔頭があり、そこをねぐらにな。門前には寺男がいるが、わしの名を出せば通してくれる」
確かに行流寺って、記憶にあるぞ。清水寺の北側にある高台寺よりもさらに山奥へ入った小さな寺だ。廃寺や廃屋ばかりを目印に探してて、そこは寺男のいる現役の寺だったから完全にスルーしてしまった。
塔頭って、寺の境内にある小寺のことみたいだけど、エマが言ってた廃寺とは、それだったのか。
「明日の夕暮れ時、そこへ行けば何かあるのですか?」
「わしが引き抜き、新たに仲間となる何人かの志士を招いておる。まあ、新人の顔合わせじゃな。この場には、狐火様もおいでくださる。入ってくれるなら、お手前にとっても大将とお近付きになれる良い機会ぞ」
「わかりました。前向きに考えてみます」
那奈は極力無表情を装い、手短に答える。
小躍りしたい気持ちを抑えつつ大石と別れた俺は、奴の姿が見えなくなってから「ありがとう!」と、つい那奈の手を取って握った。
「何をなさるのです!こんな人前で……」
さっと手を引いた那奈は、顔を真っ赤にさせ、もじもじしている。
この時代、公衆の面前で男女が手を繋いで歩いたり、気軽にボディタッチしたりなんてことは非常識な行為とされてたのを忘れてた。武士や有力な商人なんかだと、夫婦でさえ並んで歩く風習はなく、女は後ろから離れてついて行く。
那奈は一応侍の姿をしているから並んで歩いても平気なんだけど、さすがに手を握るのはまずかったか……。
「先生、お宿に戻って明日の段取りを話し合わねば!」
恥じらいを隠すかのように、那奈は先にスタスタと歩いていく。
いずれにせよ、これで第一関門は突破した。奴らの組織に入り込めれば、狐火がどこかに隠し持つ分子破壊砲の在処だって探し当てられるはずだ!




