№14 地球を救うための戦いに巻き込まれてしまった!
高校二年の歴オタ主人公・田島錠は幕末にタイムスリップし、「未来から派遣されたターミネーターによる歴史改変の阻止」という途方もない任務を背負わされてしまう。
どんな素人でも剣の達人になれるオートマチック・オペレーション・ソードを手に、新撰組の剣客・沖田総司から気に入られて何かと手助けを受けるようになった錠は、仲間になったツンデレの女剣士・那奈、爆乳の岡っ引き・お涼、クールな密偵・マキと力を合わせ、幕末の京都に潜む凶悪な敵を探し出し、地球を救わなければならない!
「どうして?黙って見てたら、地球上の人類と文明は消滅するんですよ?」
「送り込みたくてもできないの。時間遡行を実用化できたのは、日本の京都にある応用物理学研究センターと、西部欧州連合に加盟するイギリスの大英帝国物理学研究所、ドイツの欧州量子力学研究所の三か所だけ。他の国は技術的に大きく出遅れてる」
「たったの三か所?他の先進国や大国は何をしてるの?」
「アメリカも、中国も、ロシアも、インドも、シンガポールも、ブラジルも、科学予算の大半を宇宙開発と宇宙軍の建設に割いてるんですもの。自国の覇権強化にあまり役立ちそうもない時間遡行技術には、まともな予算を投入してこなかった。それが大きく裏目に出た格好ね。いくら宇宙にお金をかけても、その宇宙からやってくる隕石で木っ端微塵にされちゃうんだから」
「それを知ってるのは、この時代でエマさんと俺の……二人だけ……」
「ええ、潜入してるテロリストたちを除けばね。現地での事実調査だけが目的だったんだけど、あらましを知った以上、わたくしたちだけでどうにかしなければならないわ」
「わたくしたち?俺は、こんな異常事態に無理矢理巻き込まれた普通の高校生なんですよ?」
つい興奮した俺に、エマは咎めるような視線を投げた。
「経緯はどうあろうと、あの刀を託された以上、あなたには地球を守る義務がある」
返す言葉が見つからず、俺は黙って目を伏せた。
「きつく言って、ごめんなさい。でも、テロを止められるのは、わたくしたちしかいない。あなたの話だと、テロリストは都に集まってきた過激な尊攘派浪士を何人も味方に引き入れて、襲撃に利用しようとしてるみたいね。こっちも二人だけじゃ、どうにもならない。現地での協力者をもっと増やさないと。さしずめ、そこで酔っぱらってるお嬢さんは剣を扱えるようだし、戦力になりそうだわ。本来の歴史とそこに住む人たちを混乱させないために、わたくしたちの素性や真の目的は伏せておかなければならないけれど」
何も知らずに、那奈はまだすやすやと眠っている。
「エマさんは、戦闘訓練を受けてきたの?」
「まさか。わたくしは学者よ。特訓を受けたのは、芸妓になるための所作、諸芸全般。十日前にここへ遡行してきて、芸妓として祇園町に潜り込んだの。情報収集するには、幕府、諸藩、朝廷の人間が多く出入りするお茶屋が一番でしょ。都には全国から武士や浪人が大勢集まってきてて、祇園はすごく賑わってるから、芸妓は引く手あまた。置屋にも簡単に入れてもらっちゃったわ」
「イギリスから007みたいに超人的な工作員が交代してここには来られないの?エマさんが一旦未来に戻ってさ。広川って人が携帯転送装置を持ってたように、同じような物があるんでしょ?」
「持ってるわ。いつでも未来には戻れる。でも、一度送り込んだ年月日を起点に前後六十日の期間内には、再び人を遡行させられない。時間遡行は、リング状に配置したいくつもの超高出力レーザーで弱い重力場を発生させ、タイムトラベル可能な時空構造を持つ擬似ブラックホールの外周を作り、過去へ通ずるワームホール、つまり時空の出入り口を見つけ、粒子レベルに圧縮した体で通り抜ける、というのが大まかな仕組み。だけど、わたくしたちの技術ではまだ自由にワームホールを管理し、行き来できないの。この点はブレーメンもエジンバラも京都も似たようなレベルだと思う」
エマがここへやってきたのが六月一日なら、六十日後は七月の末。禁門の変が起こる七月十九日までに新たな人間は送り込めない……。
こんな重大事の成り行きを聞かされ、どうにかできるのが俺を含めたごくごく限られた人間しかいないんだと知ってしまったからには……それに、俺の臆病さをなじったエマを見返してやるためにも……。
「やるしか……ない……俺たちで」
「ええ……やるしかないわ」
俺は、踏ん切りをつけた。そのためには、那奈の力も借りなければならないだろう。
けど、相手は戦闘能力の高いテロリスト二人、もしくは三人と、彼らが率いる不特定多数の浪人たち。いくら俺には自動操作刀があって、那奈は剣の腕が立つとは言え、まともに戦って、勝ち目はあるのか?
それよりも、奴らとの戦いを極力避けて、テロを防ぐことはできないだろうか……………………いや、ある!
禁門の変が起こるまでに、奴らのアジトを探り出し、分子破壊砲を密かに奪えるなら!
いくら襲撃をかけたところで、分子破壊砲がなければ薩摩藩の要人を殺し、歴史を変えることはできないんだから。
「まずは、テロリストたちが都のどこに潜んでるのか突き止めなきゃ。手がかりは、テロリストの一人が『狐火』と呼ばれ、弓の使い手だってことくらいしかないんだけど……」
「それなら、ちょっと気になってた情報があるの。昨晩、お茶屋に来た町奉行の役人が漏らした話よ。長州藩や土佐藩の息がかかり、庇護されてる従来の不逞浪士じゃなく、これまで表に出てこなかった全く新しい不穏分子が組織を広げ、私軍を興そうとしてるらしいわ。掲げてるスローガンは、幕府にも雄藩にも属さず、影響を受けない立場を貫き、天皇を擁立して即時王政復古、即時倒幕、即時攘夷。手始めに、国内にいる異人とその協力者、開国主義者の抹殺。ターゲットには、幕府側に立つ公武合体派諸藩の幹部も含まれてるようね。組織の中心人物は、名前も素性もわからない侍で、狐の面を被っている、と」
「そいつは、狐火!」
「ええ、あなたの話を聞いて、合点がいったわ。で、その狐面の侍と繋がりがあって、都にたむろする浪士を仲間に引き入れるスカウト役らしいのが、大石清之進という仙台藩脱藩の浪人。こいつのねぐらは、東山の四条から五条にかけてのどこかにある廃寺で、町奉行だけでなく新撰組にまで情報は入ってるみたい。役人が探索を本格化させるのも、そう遠い日じゃない」
「じゃあ、大石のねぐらを彼らよりも早く見つけ出して、狐火の居所を聞き出さなきゃ」
「わたくしは祇園で知り得た情報を、逐一あなたに知らせるわ」
うなずく俺は、もう覚悟するしかなかった。
かといって、この先どうなるのか、不安でたまらない。敵と正面からぶつからないよういくら努めていても、戦わなければならない局面に出くわす可能性は大いにある。真剣で向かってくる相手との斬り合いを想像すると……とてつもなく恐い。
それでも……救わなければいけないんだ。
エマが言うように、あの刀を手にしてしまったからには……未来の地球を。




