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№13 ターミネーターの究極の目的を知ってしまった!

高校二年の歴オタ主人公・田島錠は幕末にタイムスリップし、「未来から派遣されたターミネーターによる歴史改変の阻止」という途方もない任務を背負わされてしまう。

どんな素人でも剣の達人になれるオートマチック・オペレーション・ソードを手に、新撰組の剣客・沖田総司から気に入られて何かと手助けを受けるようになった錠は、仲間になったツンデレの女剣士・那奈、爆乳の岡っ引き・お涼、クールな密偵・マキと力を合わせ、幕末の京都に潜む凶悪な敵を探し出し、地球を救わなければならない!

 エマは、信じられないという風に首を横に振る。


「日本はそこまで内偵を進めていたの……以前では考えられないほどの諜報能力だわ。TWOはブレーメンのハイパーコンピューターを使って、歴史改変シミュレーションを繰り返していたのね。そして、答を見つけた。しかも、不変なはずの歴史の流れに干渉する分子破壊砲なんて物騒な兵器まで作ってるとは……」

「広川って人は、禁門の変で薩摩藩の指揮官を殺すことが、歴史のターニングポイントになると言ってました。それは、奴らに都合のいい歴史へと改変できる分岐点だと。でも、歴史の改変は人類の滅亡をもたらすんでしょ?それはTWOにとっても破滅を意味するんじゃないんですか?」


 俺の問い掛けに、しばらく目をつぶってじっと考え込んでいたエマは、ようやく「彼らは……」と切り出した。


「自己犠牲を厭わないカルト宗教らしく、究極のソリューションを選んだのね」

「えっ?」

「まず禁門の変で、薩摩藩の指揮官が暗殺された場合、日本の歴史はどうなると思う?」


 当時は朝廷の権威が急速に高まり、幕府も雄藩も朝廷を取り込むことで政治の主導権を握ろうとしていた。

 豊富な資金力に物を言わせて有力な公家たちと結び付き、過激な攘夷論を掲げて朝廷を牛耳っていた長州藩は、一年前の文久三年八月十八日、〝八・一八の政変〟で薩摩藩と、京都守護職として京都で一千人という最大の兵力を擁していた会津藩主導による武力クーデターによって失脚。長州藩主は国元で謹慎、都に駐留する長州藩兵と長州派の有力公家七人は京から追放された。


 また、長州藩と並んで尊王攘夷の急先鋒として朝廷に食い込んでいた土佐藩では、前藩主で隠居・謹慎させられていた山内容堂が再び実権を握ると、一転して藩内の尊王攘夷派を粛清。容堂は当時〝幕末の四賢公〟と称されていた四人の大名の一人であり、朝廷、幕府、諸藩が一体となって幕藩体制を再編し、開国と通商を容認しようとする公武合体派だ。


 ちなみに残りの賢公は、越前藩主・松平春嶽、宇和島藩主・伊達宗城、薩摩藩主・島津斉彬で、中でもすでに急死してこの世にいない斉彬は、朝幕の連携だけでなく外様の雄藩も政治に積極参加する体制刷新の旗振り役だった。


 同じ公武合体派でも、幕府権力回復に重きを置く幕閣や徳川家の血を引く会津などの親藩、徳川譜代大名から見ると先鋭的な改革勢力と見られていただろう。とは言え、大きな括りでの公武合体派は、〝八・一八の政変〟を経て政治のイニシアチブを奪い返す。


 しかし、長州藩は藩主のえん罪を帝に訴え、朝廷での復権を図るため、本国から二千人以上の兵士を動員して上洛。

 禁裏を守る前将軍後見職で禁裏御守衛総督の一橋慶喜、会津藩、薩摩藩を中心に、藩兵を都に駐屯させている桑名、紀伊、尾張、水戸、阿波、彦根、筑前、福井、津、土佐、肥後、大垣など公武合体派の諸藩と対峙した。


 ちなみに一橋慶喜とは、後に徳川宗家を継ぎ、江戸幕府の第十五代征夷大将軍、つまり日本史上最後の将軍となる徳川慶喜だ。


「長州軍は三方向から進撃して、西側から進んだ家老・国司親相と重臣・来島又兵衛の部隊が京都御所に突入して会津兵を破り、禁裏に迫ったんだけど、援軍に駆け付けた薩摩兵の活躍によって撃退され、最終的には他の部隊も敗退して総崩れになったんですよね。でも、薩摩藩の指揮官が殺されれば……昔の軍隊がリーダーを失ってしまうと、士気は落ち、攻撃力は鈍る……長州兵は薩摩兵をはね除け、そのまま勢いに乗って禁裏を占拠したかも……」

「そう。さらに帝を拉致して連れ去ったかもしれない。もしそんなことになれば、幕府側の勢力は黙ってそのまま引き下がる訳がない。その一方で、幕府を見限り、長州に味方する藩も出てきて、両者の力関係は拮抗し、血みどろの戦いが始まるでしょう。それは、本格的な内乱の序章。こんな状況を喜ぶのは、列強諸国ね。この時点で、フランスは幕府と手を結び、イギリスは薩摩を後押ししようとしていた。それだけでなく、プロイセン、今のドイツが幕府側の有力諸藩・会津や庄内に接近しつつあるし、ロシアは北海道や日本海沿岸に領土的野心を持ち続けている。日本の内乱が長引き、国力が疲弊すれば、これらの列強は迷うことなく内政干渉に踏み切り、〝助力〟や〝支援〟という甘言でもって軍隊を送り込んだでしょう。植民地化された国々の多くは、国内の混乱や対立で列強に付け込まれたんだから。わたくしの母国、当時の大英帝国は日本に対して貿易の利権確保を最優先し、植民地化の野望はなかったとされてるけど、内戦が激化したなら、外交方針を変えたかもしれない」

「そうなれば、日本は……」

「同じ時期のアフリカや中国みたいに、列強によって国土は虫食い状態にされ、もっと悪くすれば分割統治されたかも。例えば、九州はイギリス、関東はフランス、北海道はロシア……みたいに。もしくは、名目上は独立国とされても、主権を奪われた半植民地状態ってことも」

「そんなバカな!」


 身の毛がよだつ……そんな感覚が体全体をよぎる。


「ここからはわたくしの推論に過ぎないけど、日本がそんな状況に置かれた場合、その後に起こるはずの日清戦争、日露戦争、そして太平洋戦争は存在しなくなる。ロシアと戦った日露戦争は、有色人種が白色人種に勝った近代史上初の戦争よ。これで日本はさらに実力をつける。そして、東アジアにおける欧米の植民地支配を排除し、東亜民族の共存共栄を推進するという大義名分の下で行われた太平洋戦争は、日本の敗戦で終わったけれど、西洋人が無敵じゃないんだとアジアの人々に教えた。それまで西洋人から差別され、虐げられてきた非西洋国民の志気は大いに高揚した。日本軍によって一時的に白人を追い出した国々では民族独立運動が激化し、遂には全世界的な植民地支配の終焉につながったの」

「もしもそんな出来事が起こらなかったら……」

「東アジア全体は白人国家による支配が続き、世界各地の植民地や保護国も長期間存続したでしょうね。時代の進展によっていずれは植民地や保護国の民主化と独立が避けられない時期は来るにしても、それは白人国家主導の下で有利に進められる。植民地との間に強い政治的、文化的な繋がりが長年保たれていれば、独立を平和的に許した後も宗主国は後ろ盾としての地位を維持し、権益の主要部分を保持できる。白人が覇権を握り続ける世界、その可能性と条件をハイパーコンピューターが弾き出したのよ」

「その条件が……禁門の変でのテロ?」

「それだけが唯一の条件とは限らないけれど、実行しなければならない第一条件なのは間違いなさそうね」

「そんな!自分たちだけでなく、罪もない何十億もの人間の命を巻き添えにして、新世界を創りたいだなんて……狂ってるよ!」

「彼らにとっては立派な〝殉教〟よ。宗教とはそもそも人類を救済する観念であり、教えだけれど、時として人を排他的にし、残酷にし、古くから悲惨な戦争やテロを起こし続けてきた。それがカルト宗教ともなれば、信者の狂信度が異常に高くてもおかしくないわ。でも、カルト宗教の教祖や幹部というのは、案外打算的なものなのよね。並行世界で理想郷を創る道筋をつけられたなら、時間遡行マシンを使って自分たちだけはそこへ移住しようと考えてるのかもしれない。ブレーメンのマシンは、もう警察の監視下にあるから使えないけど」

「エマさんは、そもそも白人なんですよね。TWOみたいなやり方は極端すぎるにしても、白人が覇権を握り続ける世界には少しくらい共鳴するところがあるんじゃないですか?」


 興奮していた俺は、ついトゲのある言い方をしてしまったけれど、エマは表情を変えずに首を横に振った。


「まさか、見損なわないでくれる?わたくしはあらゆる人種差別に断固反対だし、帝国主義や植民地政策なんて憎むべき統治形態だと思ってる。わたくしたちが暮らす今現在の世界は歴史の必然。それをねじ曲げて変えようなんて、神をも恐れない大罪だわ」

「俺も、許せない。でも、巨大隕石が衝突するかもしれない地球規模の危機が迫ってるんだから、日本や欧州以外の先進国だって黙っちゃいないですよね?アメリカとか、中国とか、ロシアとか、あなたたちの時代ならインドとかシンガポールとかも、歴史の改変を食い止めるためにこの時代へテロ対策のエキスパートを寄越してくるでしょ?」

「……それは、恐らく無理」


 エマは表情一つ変えず、絶望的な言葉を返してきた。

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