№12 美人芸妓から未来の真実を教えられてしまった!
高校二年の歴オタ主人公・田島錠は幕末にタイムスリップし、「未来から派遣されたターミネーターによる歴史改変の阻止」という途方もない任務を背負わされてしまう。
どんな素人でも剣の達人になれるオートマチック・オペレーション・ソードを手に、新撰組の剣客・沖田総司から気に入られて何かと手助けを受けるようになった錠は、仲間になったツンデレの女剣士・那奈、爆乳の岡っ引き・お涼、クールな密偵・マキと力を合わせ、幕末の京都に潜む凶悪な敵を探し出し、地球を救わなければならない!
その言葉の意味をすぐに理解できず、俺はしどろもどろになった。
「あなたの刀、裏で少し見せてもらったわ。真剣でも竹光でもない。もっと軽い超合金ね。あれは、日本がエージェントの護身用に開発して持たせたという、最新の近接戦闘用兵器なんでしょ?」
さっきまでの京都弁は消え失せ、冷たい響きの標準語がさらに問い掛けてくる。
俺は努めて心を落ち着かせ、冷静に考えようとした。
日本が送り込んだエージェント……その言葉が意味するのは、俺がこの時代の人間じゃないということ。それを知りうるのは、やはり未来から来た人間でしかあり得ない。
広川は「日本が時間遡行させられる数は一人」と言っていた。なら、彼女は日本以外で時間遡行が可能な欧州から来たってことに。そして、幕末にテロリストを送り込んだのも……必然的に欧州のはず。
じゃあ、彼女は狐火の仲間なのか?
まずい!刀は別の部屋に持って行かれている。ここで襲われれば、身の防ぎようがないぞ!
那奈は酔いつぶれてるから頼りにならない。
俺はあぐらをかいたままの姿勢で、じわじわと珠から離れ、那奈ににじり寄った。いざとなれば、那奈を叩き起こして素手でも立ち向かわなければ……そう腹をくくった。
警戒感をあらわにした俺を見て、珠は慌てて両手を振った。
「違います!勘違いしないで!わたくしはあなたの敵じゃない!」
俺は動きを止め、取りあえず彼女の話を聞いてみることにした。
「わたくしの本当の名前は、エマ・マッコーエン。イギリスのエジンバラにある大英帝国物理学研究所のマシンを使って派遣された歴史学者よ」
「エマ……マッコーエンさん?どこからどう見ても、日本人なんだけど。日系人?」
「アングロ・サクソン系の純粋な白人よ。日本の幕末へ時間遡行するにあたって、全身整形してるから。日本語と日本の文化も徹底的に勉強したし」
「学者?ホントに?」
「わたくしが、ブレーメンの連中だと思って警戒してるのね?」
「ブレーメン?」
「ドイツのブレーメンにある欧州量子力学研究所。時間遡行技術では最先端のテクノロジーを持っている施設。イギリスや日本は一度に一人しか遡行させられないけれど、あそこなら三人まで同時に可能でしょ。しかも、一か月前にここへ送り込まれたのは複数だとわかってる。二人か、そうでなきゃ三人、欧州量子力学研究所のスタッフじゃなく、どうやら全員がTWOで戦闘訓練を積んだ殺しのプロみたいじゃない」
「TWO?」
「あなた、TWOも知らないの?『THE WHITE ORDER』を、日本では『白色人種騎士団』と呼んでるはずじゃ」
「そうなんですか?い、いや、そうなんですけど、俺はそっちの方面あんまり詳しくなくて、純粋な研究者だから……もうちょっとわかりやすく教えてもらえませんか?」
こっちの手の内を見せないよう、取り繕う俺の態度に、エマは眉をひそめつつも、しょうがないわねという表情で続けた。
「二十一世紀後半に入っても欧米諸国は深刻な不況続きで、中国や日本を中心とする東アジア諸国の勃興と繁栄を快く思わない白人至上主義者たちの黄色人種排撃思想『ネオ黄禍論』の広がりが引き金になって、『白色人種による世界救済』を教義の中心に据えたカルト的な新興宗教が次々と生まれた。中でもTWOはフランスのナンテールを本拠地にして、全世界に大勢の信者を抱える最大の宗教団体。しかも水面下では、白色人種中心の新世界を武力闘争によって建設する目的で、兵士の養成と特殊兵器の開発を進めている疑惑があり、各国の警察機関も監視を強めていたでしょ。でもまさか、ブレーメンの欧州量子力学研究所で勤務する中心スタッフの中に複数のTWO信者がいたなんてね。そいつらは事もあろうに、マシンを使って部外者を一八六四年の日本へ送り込んだ」
広川からざっくりと伝えられただけの事件背景が、ようやく鮮明に見えてきた。
「この事件が発覚して、ドイツだけでなく、イギリスやフランスも加盟する西部欧州連合では大騒ぎよ。警察も捜査に乗り出したけど、連中が何でそんなことをしたのか全くわからない。逮捕された研究スタッフも全員黙秘してるみたいだし。わたくしの専攻はアジア史で、本来は日本の近世を調査するために時間遡行の訓練を受けてきたんだけど、研究なんか二の次で、TWOが幕末の日本で何をしようとしてるのか、現地で事態を一刻も早く把握して本国に連絡するため、急きょ同じこの時代へ派遣されてきたのよ。あなたも、わたくしと同じ目的でこの時代へやってきたんじゃないの?」
訝しむエマに、俺は正直に打ち明けようと思った。彼女が敵じゃないというのは、説明を聞いていてどうやら本当らしいと信じられたからだ。
であれば、この異世界で真実を共有できるのは彼女しかいない。俺はこれからどうすればいいのか、考えをまとめるためにも、彼女のアドバイスと協力が不可欠なはず……。
「俺は……エマさんの時代の日本から送り込まれた人間じゃないんです」
「何ですって?」
目を見張るエマに対して、俺はこの時代にやってきた経緯を打ち明けた。




