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№10 またまたあの女曲芸師と出くわしてしまった!

高校二年の歴オタ主人公・田島錠は幕末にタイムスリップし、「未来から派遣されたターミネーターによる歴史改変の阻止」という途方もない任務を背負わされてしまう。

どんな素人でも剣の達人になれるオートマチック・オペレーション・ソードを手に、新撰組の剣客・沖田総司から気に入られて何かと手助けを受けるようになった錠は、仲間になったツンデレの女剣士・那奈、爆乳の岡っ引き・お涼、クールな密偵・マキと力を合わせ、幕末の京都に潜む凶悪な敵を探し出し、地球を救わなければならない!

 観客の視線を一身に集めているのは、昨晩お涼が目撃者として連れてきた派手な衣裳の娘!


 たった一人で開いた番傘をクルクルと回し、その上をリスみたいな小動物が傘回しの小道具よろしく上手に走っている。

 この娘は大道芸人だったんだ。


 俺をまるで犯罪者呼ばわりしたことに、一言文句を言ってやりたくて一歩前に出るなり、傘の上を走る小動物がこっちに向かって大きくジャンプした。しかも、まるで鳥みたいに翼を広げた格好で。

 そいつが顔にペタリとへばりついてきたもんだから、俺はたまげて尻もちをついてしまった。


「わわわ!やめろ!誰か、こいつを取ってくれ!」


 視界は動物の体で完全に塞がれ、那奈が無理矢理引きはがそうとすると、後頭部に手足の爪を立ててしがみついてるもんだから激痛が走る。


「ちょっと、ちょっと、痛い痛い!」


 あたふたする俺を見てだろう、観衆の間で笑い声がドッと起こる。


「ハヤタ、もうおやめんしゃい。こっちに戻っといで」


 娘の声がすると、小動物はすっと俺の顔から離れ、素早い動きで彼女の肩に登った。この動物……ムササビ?鳥の翼みたいに見えたのは、空を滑空する時に広げる飛膜だったのか!


「先生、しっかりしてください」


 那奈が、哀れむような、それでいて今にも吹き出しそうな顔で俺を助け起こす。


「あーたは、昨日お役人に捕まった人斬り!まさかもうお解き放しになったと?」


 さして驚いた風でもなく、娘は九州なまり全開で話しかけてきた。


「当たり前だ!俺は何も悪いことをしてないんだぞ。人も斬ってない!それなのに、口問いにいい加減な告げ口をするから、すごく迷惑したんだぞ」


 いきなりムササビに襲われた腹立ち紛れもあって、俺は少し強い口調で責めた。


「そりゃあそりゃあ災難やったね。ばってん、人が倒れとー場所で、刀ば振り上げとったんだけん、そがん風に思われても文句は言えんよ」


 娘は全く悪びれず、いけしゃあしゃあとしている。しかも、相手の言い分が間違ってはいないだけに、それ以上目くじらを立てるのもためらわれる。でも、那奈は違った。


「あなた、それでも先生に迷惑をかけたのだから、一言でもお謝りなさい!」

「ん、そう言うあーたは誰?」

「私は、ここにおられる棟田万太郎先生の一番弟子、三好那奈です!」

「ふ〜〜〜〜〜ん、一番弟子ねえ。こん若かお侍さんな、そがん偉かお方なんか。うちゃ九州から出てきたマキ。そして、うちの肩に乗っとーのが、ムササビのハヤタ。曲芸師仲間からは〝ムササビ回しのマキ〟と呼ばれとー。よろしゅうね」

「よろしくはわかりましたから、先生に謝りなさい」

「うちゃ人に謝らんばならんようなことはしとらん」

「実際に迷惑かけてるじゃないの。謝りなさい!」

「謝らん!」


 「おなご剣士とおなご曲芸師の喧嘩やぞ!」「おいおい、曲芸よりもこっちの方が面白そうやで」などと人垣がざわめきだし、ますます見物人が集まってくる。


「ちょっと、那奈さん、俺のことはもういいから……」

「よくありませぬ!」


 間に割って入ったものの、二人はにらみ合ったまま動かない。

 マキの肩にいるハヤタも、太い尻尾を上下させ、「キキキキキ!」と鋭い声で那奈と俺を威嚇している。


「二人とも、こんな場所で言い合いなんてやめてくれよ!」


 おろおろする俺の背後で、誰かが進み出てくる気配がした。


「やあ、棟田君、こんな所にいたのか」


 振り向くと、そこにはダンダラ模様の羽織を着た沖田が、笑顔で立っていた。

 真っ黒の羽織と袴を身に着け、目つきの鋭い隊士を二人引き連れている。そう言えば、ダンダラ羽織は池田屋事件の後に廃止され、新撰組隊士の服装は黒ずくめに統一されたんだっけ。

 沖田は新しい隊服より、ダンダラ羽織の方を気に入ってまだ身に付けているようだ。


 俺たちを取り巻いていた見物客たちは、新撰組を見るなりその場を離れていく。

 彼らが池田屋で大勢の志士を惨殺し、捕縛した事件は、都でも大きな話題になったはずだ。住民にしろ、旅人にしろ、〝触らぬ神に祟りなし〟で敬遠するのもうなずける。

 そんな庶民の態度を気にも留めず、沖田は「探していたんだよ」と続けた。


「えっ、俺をですか?」

「うん、礼は改めてすると言っただろ。今宵、体を空けておいてくれないか?いい場所に案内するよ」

「はあ……あ、あの、彼女も連れて行っていいですか?」


 俺は、隣で用心深く沖田たちを見ている那奈に顔を向けた。


「ふ〜ん、おなごの剣客とは珍しい。この人は棟田君とどういう関係の……」

「棟田先生の一番弟子、三好那奈と申します!」


 俺が言うより早く、那奈が軽く頭を下げる。


「棟田君は弟子まで連れているのか。まあ、君の剣の腕なら、それも不思議ではない。いいでしょう、三好君も是非一緒に。日暮れ前に伊予屋まで迎えに行くから、後ほど」


 白い歯を見せた沖田は、クルリと背を向けて颯爽と去っていく。


 辺りを見回すと、マキは知らないうちに商売道具をまとめてムササビと共に姿を消していた。

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