1、気付けばそこは異世界。あれっ?あいつ居ないじゃん!
一万以上の軍勢に包囲され、燃え上がる木熊寺。
天下統一目前にして、己が覇道潰えるか…。
最後を悟り、唯一供に残らせた小姓を傍に呼んだ。
女性に見紛う程美しくも凛々しい顔立ちだが、どこかあどけなさが残る少年だ。
「乱よ、そなたは我が秘蔵の宝である。その忠義と功績は世のしるところだ」
「勿体なきお言葉、何処までもお供いたします」
乱と呼ばれた小姓は迷うことなくそう言うと、腰に差した脇差を床に置いた。
~ 人間五十年 下天の内をくらぶれば 夢幻のごとくなり ~
※人間界の50年など 下天での時の流れと比べれば 夢や幻も同然である※
燃え盛る炎に揺らめきながら妖艶に舞い謡いだすノブナガ。乱はその姿を目に焼き付けようと瞬きをするのを止めた。
~ 一度生を享け、滅せぬもののあるべきか
※ひとたび生まれて 滅びぬものなどあるはずがない
徐々に迫り来る炎が二人の肌をチリチリと焦がす。梁が焼け焦げ立ち込める煙の匂い、徐々に息苦しさが増してゆく。
乱は最後の瞬間まで、この方にお供する事が出来て本当に良かった。と深く思った。
~ これを菩提の種と思ひ定めざらんは、口惜しかりき次第ぞ…
※これを悟りの境地と考えないのは 情けないことだ
そして舞を終えるか終えぬかという時、不意に周囲が眩い光で包まれる。
「なんだこの光は!」
あまりの眩しさに二人は目を覆った。
「乱よそこに居るか!?」
後ろを振り向き声を上げる。
・・・「御館様!私はここです!」・・・
側に居たはずの乱の声は、遥か遠くから微かに聞こえてくるようだ。
真っ白い世界の中、様々な記憶が廻る。
これが走馬灯とゆう物だろうか。
数秒のはずだが、永遠にも思えるような時間が過ぎてゆく…。
目を覆ってから、どの位の時間が経っただろう…。徐々に視界が戻ってくる、そして増してゆく違和感。
先程までの肌の焦げるような熱さと息苦しさを全く感じない。
「ここは…何処だ?」
ノブナガは辺りを見渡し目を疑った。
精巧に切り出された石で組み上げ作られた床と壁。
南蛮物のような装飾を施した柱に、床には見たこともない面妖な文字と六芒星。
祭壇の少し離れた所には呪術師らしき白い装束の男女が五人と、甲冑姿の男達が十数人。その中に守られるようにして立つ女が一人。女は南蛮服の様な煌びやかな服装で護衛も付いている事から、この場で一番偉いのだろうと瞬時に把握出来た。
丸腰でこの人数を相手にするのは分が悪い…っていうか乱のやつ、どこにも居ないじゃん!どこまでもお供するとか言っといて、そりゃないわー。
などと考えていると、南蛮服を着た女から声を掛けられた。
「あなたは神が遣わせた御使い様ですか?」
その問いにノブナガは咄嗟にこう言い放つ。
「己は第六天魔王 オダ・ノブナガ だ!!」
見た目こそ人間と変わらない優男な風貌だが、その貫禄から魔王だという言葉に違和感は無かった。