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姉妹は、少しの暇をもらったついでに、自室に戻っていた。結局のところ、パーシィが二人のメイドに頼みたかった事は、セシル少年の着替えを手伝うということだった。
「殿下、全然大丈夫じゃないね。結局、男の子に女装させるんだから」
エプロンを外して、自分のベッドに倒れこんだバーバラが大きなため息とともに吐き出した。妹までとはいかないが、フィリナも同様に息をついた。
忠実な使用人である彼女にとってもちょっぴりおかしいと思うような、納得のいきにくい依頼なのだ。けれども、それを素直に口にしていい立場ではないと、彼女はよくわかっていた。
「仕方が無いわよ。だって、殿下にしてみれば、突然降ってきた一筋の光のようなものなんだもの」
「だからって強要はよくないっ」
同意をしたい気持ちはあった。しかしどうだろう、と思う自分もいるのである。
「学費と寝床と生活の保障を、扮装でもらえるのならありがたい話だわ」
「セシルくんの気持ちは無視する方向なの? ひどくない?」
「そうじゃないわ。でも――!」
「おっ! メイドちゃんたちの声がする! もういいかな、スコーンを焼いても?」
ボルテージが上がり始めたところに挟まったのは、三つのノックと聞きなれたあの軽妙な男の声だった。ニールだ。バーバラが代わりに返事をする。
「いーよー。今なら姉さんのドロワーズが大公開」
「マジで!」
二つの許可がこもった一言のあと扉が開き、面長な男の顔がにょっきりと出てきた。ブラシで引っ張ってもくるくると縮む赤毛が弾む。キラキラ輝く棗色の瞳に向かって、フィリナはにんまりしてスカートを翻してあげた。
「スカートめくりはいつ卒業するの、ニール?」
「飽きたら。ってか、バーバラ、まただましたな! ……ところで、この重たい空気、なに?」
「なんかお茶どころじゃないってかんじなんだもん」
唇を突き出すバーバラが、子供っぽくベッドの上で足をじたばたさせる。
「誰が?」
「みんな」
ふんっ、とこれ見よがしに姉から顔を背けた、妹の小さな敵意が小憎らしくて、フィリナの口も曲がる。
「もしかしてそこにわたしも含めたのかしら?」
「べっつにぃー」
ニールはひょろ長い手足をぷらぷらさせてみせる。
「あー、もう。フィリナもバーバラも、喧嘩するぐらいなら、みんなでお茶にしようぜ?」
ぶすっとしたバーバラのその声も、憮然としていた。彼女はとっくに成人を迎えていたが、こういう仕草の少女らしさはいつまでたっても損なわれずにいた。
「スコーンは?」
「今から焼くっつってるだろ!」
「聞いてなかった」
故郷のコルシェン王国にいるころから変わらない気の置けないやり取りに、フィリナはいつまでも頑なでいる自分がばからしく感じ始めていた。パーシィの憂鬱を等しく己のものとするのは、ナズレに任せておけばいい。彼女らは家族同然のように付き合ってきたものの、あの貴人はなにかと心の内を話さずにいた。彼が話したくないことにまで想像力を働かせるのは、無粋だ。
フィリナは少し乱れていた髪を整えてから、すっくと立ちあがった。気持ちの切り替えは、早ければ早いほど良いというのが、彼女の信条だった。
「はいはい。わかったわ。そうしましょうか。殿下――旦那さまはお独りにして差し上げることだし、せっかくだから、みんなでお茶とお菓子を囲みましょう」
姉とは違い、妹はまだ気持ちに一区切りをつけられずにいた。その証拠に、メイド服がしわになるのもかまわずベッドの上で両の手足を広げて寝転んでいる。
「みんな?」
「ええ」
フィリナは鏡をつかって全身の身だしなみを確認する。
「セシルさまを、みんなで」
「そのみんなにナズレさんも入る?」
バーバラが飛び起きると、ニールが袖をまくり上げた。
「じゃ、決まりだな」




