わたしはわるくない
あんたは昔から人と関わってこなかったもんね。
母が言う。
勝手に決めつけるな。
確かに友達も一人もいないし、一生処女だろうけど。
「そんなことないよ。私だってできることなら友達ほしかったもん」
「そんなこと言って。昔から相手を下に見続けてきたくせに。いつも上から目線でさあ。何もできないくせに威張っちゃって」
そんなことない。言い返したいけど言い返せなかった。
「なんでそんなこと言うの?」
「そりゃ、あんたが被害者ぶってるのがむかつくからだよ」
ぐにゃり。世界がゆがむ。
気が付くと私は包丁を持っていて。
母はびっくりしたような顔で目の前にいた。
へーあんな怒らせるようなこと言っておいて殺されることなんて頭になかったんだね。
「あんた、何してんの?」
母が言う。
その物騒なものしまいなさいと。
馬鹿だなあ今から死ぬんだよお前は。
今まで散々私を下に見て、威張って、被害者面してきたのはあなたじゃない。
もう飽きたよ。
包丁を振りかざす。
母の悲鳴がうるさい。
逃げるな。
見苦しい。
…
……
………
はーすっきりした。
なんか思ったより暴れたけど母がおばさんで良かった。
10年前だったら力の弱い私じゃ絶対勝てなかったなあ。
死体はどうしよう。
まあいっか。
もう済んだことだし、さっさと警察に連絡して逮捕してもらお。
私は悪くない。
こんな風に育てた母が悪いんだ。
あたたかいものが頬を伝い、自分が鳴いてるんだと気付く。
ああ、私は誰でもいいから愛されたかったんだろうな。
そんなことを今更気づいても遅いかもしれない。
そこには愛もなく、心もいなかった。
ただ、愛に飢えた人間が、一人泣いているだけだった。