表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
透明少女と仮面少女  作者: あいまり
第一章:片隅に咲く百合
9/92

第1-9 風邪

 茂光さんがいないこと以外は、いつも通りの日常が送られていた。

 元々、孤立気味だった茂光さんが欠席したことで変わることは特に無く、普段と変わらない日常を送れていた。

 ……私、以外は……。

 一日中、心のどこかに空洞ができてしまったような感覚に襲われて、どこか、落ち着かなくて。

 でも、その感情の理由なんて分からなくて、ただぼんやりとした感覚のまま、一日を過ごした。


「影山さん」


 そんな日の放課後。帰ろうとしていた私に、先生が話しかけてきた。

 私はそれに片付けをしていた手を止めて「何ですか?」と聞いた。


「えっと、ホラ、今日茂光さん休んだでしょう?」

「はぁ……」

「それで、今日配った書類の中に少し急ぎのものもあって。影山さんって茂光さんと仲良いらしいから、家の場所とか知ってたら届けて欲しいなぁって」

「……知ってますけど……」


 そりゃあ、昨日行ったばかりだし……。

 私が曖昧な返事をすると、先生は「本当!?」と言って目を輝かせた。

 そして、持っていた様々な書類等の中から大きめの茶封筒を取り出し、渡してくる。


「この中に入ってるから、よろしく頼みますね」

「分かり、ました……」


 私は頷き、それを受け取る。

 先生はそれに満足そうな笑みを浮かべてから、去って行った。

 私は茶封筒を見つめて、ため息をついた。


 学校から歩いて十五分。

 昨日行ったばかりなので、まだ覚えたての道をトコトコ歩いて着いたのは、古いアパートの二階の突き当たり。

 真新しいネームプレートを確認してから、私はインターホンを鳴らした。


「はぁい」


 扉の向こうから、聞き覚えのあるくぐもった声がした。

 えっ、もしかして茂光さん本人が出てくるの!? 風邪は!?

 そう思っていた時扉が開き、中から顔が赤い茂光さんが出てきた。


「あ、影山さん……来てくれたんだ……」

「え、あ、えっと……」

「どうしたの? もしかしておみま……」


 そこまで言った時、彼女の体がこちらに向かって揺らぐのが分かった。

 咄嗟に構えると、案の定、彼女は倒れ込んできた。

 ……体熱い……すごい熱……。


「茂光さん、しっかりして! 大丈夫!?」

「ぅ……」


 微かな呻き声に私は動揺しつつ、鞄を一度床に下ろし、その近くに茶封筒も置く。

 まぁ、このアパートかなり寂れてるし、こんなもの盗む人いないだろう。

 そう希望論を唱えつつ、私は茂光さんの体をどうにか非力な腕で支えて、家に上がる。

 ほとんど引きずるようにして、なんとか彼女の部屋に運び、ベッドに寝かせた。

 肩で息をしていると、ベッドの上で顔を赤くしたままの茂光さんが、どこか潤んだ目で私を見ていた。


「影山さん……ありがとう、わざわざ……」

「え? あ、これ、くらい、当然だよ……人として……」

「そんなことないよ……ありがとう」


 風邪だからか、どこか消え入りそうな感じの笑顔を浮かべる茂光さん。

 私はそれに少し戸惑いつつ、部屋の前に放置した鞄のことを思い出した。

 流石にあれ取ってこないとダメだよね……盗まれたりしたら嫌だな……。

 そう思って踵を返して部屋を出て行こうとしたその時だった。


「……やだ……」


 微かな声と共に、服の裾を掴まれた。

 振り返るとそこには……泣き出しそうな顔で私のブレザーの裾を掴む、茂光さんの姿が……。


「っ……」

「……一人にしないで……」


 涙声でそう言うと同時に、少し強く、私の服の裾を引っ張った。

 そんなこと予測もしていなくて、ロクに身構えてすらいなかった私は、それに引き寄せられるようにして、茂光さんの上に圧し掛かるような状態になった。

 動揺していた時、背中に腕を回されて、その腕に力が込められるのが分かった。


「っ……」

「もう……一人は嫌だ……」


 耳元で聴こえたか細い声に、私はただ、彼女を抱きしめ返すことしかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ