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透明少女と仮面少女  作者: あいまり
第一章:片隅に咲く百合
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第1-12 おもい

「影山さんいらっしゃい!」


 インターホンを鳴らすと、なぜかとても明るい茂光さんが出てきた。


「えっと……元気そうだね」

「いやぁ、朝はこれでもかなり辛かったよ? でも昼間寝てたら大分楽になって……あ、そうだ!」


 パンッと胸の前で手を叩いた茂光さんは、家の中に駆け込んでいく。

 私はそれに、ひとまず靴を脱ぎ、上がらせてもらう。

 少しして、一つの扉から茂光さんが飛び出してきた。


「ハイこれ! すごく美味しかった!」


 そう言って差し出したのは、綺麗になった弁当箱だった。

 あぁ、昨日の……。

 少し胸が熱くなるのを感じながら、私は弁当箱を両手で受け取った。


「えっと……」

「それで、今日はなんでまた? また何か書類?」


 そう言いながら、茂光さんは私を促すようにして歩き出す。

 私はそれに口ごもりながら、ひとまず、ついて行く。

 やがて連れてこられたのは、三度目になる茂光さんの部屋だった。


「ごめん……大分元気になったけど、まだちょっと頭痛が……」

「そっか……」


 ベッドを腰掛けながら言う茂光さんに、曖昧に返答をしつつ、私は床に座ろうとした。

 すると「隣良いよ」と言って、ポンポンと軽く自分の隣を叩く茂光さん。

 私はそれに、少し距離を取って座った。


「……えっと……茂光さん……」

「なぁに?」

「その……今日、ね……あの……茂光さんが前の学校で、苛められてた、って、聞いて……」


 そう言った瞬間、微かに彼女が息を呑んだのが分かった。

 私はそれに唇を噛みしめ、俯く。


「……あはは……女子高生の情報網って、怖いなぁ……」


 やがて、苦笑混じりに彼女は言った。

 それに、私は喉の奥が詰まって、眼球の奥が熱くなるような感覚に襲われた。


「なんで……」

「理由なんて私が知るわけないじゃん。……中学の頃から、無視されるようになり始めてさ。最初はそれだけだったんだけど、いつしか、物を隠されたり、先生の目につかない場所で、あからさまに嫌がらせされたりして」


 そこまで言って悲しそうに笑みを浮かべ、茂光さんは自分の髪を指で梳いてみせた。


「この髪、変だと思わなかった? 女子にしては短すぎるって」

「……」

「切られたんだ。三月に。それで、今までは裏で殴られたり、水掛けられたりだけだったから、流石にお母さんにも隠せていたんだけど、流石にこれでばれちゃって……」

「……それで、この学校に?」


 私が聞くと、茂光さんは小さく頷いた。


「うん。この学校には同中の知り合いとかもいないし、大丈夫だと思ったんだけどなぁ~……いやぁ、女子高生すごい」

「わ、私は!」


 咄嗟に叫び、私は立ち上がった。

 突然のことだったからか茂光さんはキョトンとした表情を浮かべて、少ししてから首を傾げた。


「どう、したの……?」

「私は、絶対に茂光さんを、一人にしないよ! あ、えっと……私、ずっと一人、だったから……茂光さんが話しかけてくれて……最初は、嫌だなぁ、とか思っていたけど、でも……嬉し、かった……」


 尻すぼみになりながらも、私は本心を言葉にしていく。

 ブレザーの裾を握り締めながら、私は一呼吸ついた。

 顔を上げると、茂光さんは驚いたように目を丸くしてから、頬をポリポリと掻いた。


「なんか、照れくさいな……。……影山さんに話しかけたのってさ、元々、昔の私に似てたからとか、そんな理由なんだ。同族が匂いで分かるっていうか、一人なんだろうなぁって、なんとなく分かって」

「……」

「こんなこと言うとアレだけど、私、全く友達がいなかったわけじゃなくてさ。仲良くしてくれてた子が一人だけいて。……あの子の存在は、私にとって、すごく大きくて。だから、私にとってのあの子みたいに、一人ぼっちの影山さんの、光になりたくて」


 その言葉に、私はなんと答えれば良いのか分からず、俯いた。

 ひとまず茂光さんの隣に座って、彼女の手を握った。


「……?」

「前に、茂光さん……自分のことどう思っているのか、聞いたよね?」

「え……あぁ……」

「その答え……今言っても良いかな?」


 私がそう聞くと、茂光さんは「えっ」と声を漏らした。

 それから少し考えるような素振りをしてから、小さく頷く。

 彼女の返答に、私は一度ホッとしてから、彼女の手をさらに強く握った。

 そうしないと、気持ちが言葉にならない気がして。


「私、は……茂光さんと、もっと仲良く、なりたい……友達に、なりたい……」

「っ……」

「……良いかな……?」


 恐る恐る聞いてみると、徐々に茂光さんの目はキラキラと光って、やがて「うんっ!」と大きく頷いた。

 彼女の返答に、肩から力がドッと抜けるのが分かった。


「じゃあ、これからよろしくね! 泪!」


 名前を呼ばれ、キラキラした笑顔を向けられた瞬間だった。

 私の心臓が大きく高鳴ったのは。


「……? 名前呼ばれるの、嫌だった?」

「えっ? あ、ううん……そんなことないよ……優……」


 そう名前を呼んだ瞬間、心臓がバクバクと音を立てる。

 原因も分からず、私は、自分の胸を押さえる。


「えへへ、これからよろしくね」


 そう言って嬉しそうに笑みを浮かべる優。

 彼女の笑顔に、私の顔は熱くなった。

 この感覚は……一体……。


---


 トゥルルルルル……トゥルルルルル……。

 二回のコールと共に、ガチャッという音がして、相手が電話に出る。


『もしもし?』

「もしもし。茂光さんの件、どうなった?」

『ん……まぁ、ほとんどぼっちにすることはできたよ』

「ほとんど……?」

『あぁ、一人だけ茂光ハブりに誘っても断った奴がいてさぁ。まぁ、アイツほとんど空気だし、良いかなーって』

「……それは誰なの?」

『前に話したろ? 透明人間』

「影山 泪ちゃん……だっけ?」

『そそ』

「ふぅん……まぁいいや。茂光さんが他校で調子乗ってなければ、それで」

『おー』


 生返事を聴きながら、少女は静かに電話を切った。

 そして顔を上げ、自室の壁を見る。

 茂光 優の写真で埋め尽くされた部屋。

 壁、天井が全て彼女の盗撮写真で埋められていて、傍から見れば、狂気とも思える量だ。

 その内の一枚を優しく指で撫でて、少女は微笑んだ。


「私以外の子と仲良くするなんて、許さないからね……優」

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