7.地球温暖化懐疑論はなぜ消えないか
地球温暖化が言われるようになってもうかなりの年数がたち、地球温暖化についてはほぼ定説と認められるようになってきていますが、それでも原因が人為的なものかどうかを含めた懐疑論はなくなりません。なぜなのかと考えた場合、案外その原因は温暖化説を広める側にあったりします。
最初の頃、よく取り上げられたのは、地球温暖化による海面上昇で、太平洋上の島国ツバルが水没の危機にあるということです。住居の周囲が浸水し、波が打ち寄せる映像が繰り返し報道され、地球温暖化の影響の典型として知られるようになりました。ただ、これは海面上昇の影響ではなく、元々浸水しやすい低湿地に住居が広がったことや、浸食されやすい埋め立て地が浸食されたことによるものです。実際には、ツバルの面積は1984年から2003年の20年間で、2.8%増えているという報告もあります。映像としてわかりやすいことから多用されましたが、事実ではなかったということです。もちろん、本当に海面上昇が起これば、海抜の低いツバルのような国は水没する危険があることは事実なのですが、散々センセーショナルな報道をしておいて、その報道内容は事実ではありませんでしたとなると、信頼性を著しく損ねることになります。報道機関の信頼性を損ねるだけで済めば良いのですが、海面上昇による水没の危険性まで信用されなくなってしまう恐れがあります。
海面上昇については、温暖化に伴って山岳や極地の氷床が融解することで生じると言われています。氷河が海へと崩れ落ちる映像が繰り返し流されているので、印象に残っている方も多いと思われます。その中でも氷の量が多い南極の氷床の融解の影響が大きいとされていました。ところが、1992年から2008年にかけて、南極の氷の量は増加していたという報告が出されています。もっともこれは温暖化とは矛盾していなくて、現在程度の気温上昇では、周辺部の氷は溶けても、内陸部は引き続き氷点下なので氷は溶けず、むしろ温暖化で水蒸気の発生が増えることで降雪量が増える結果、南極全体としては氷の量が増えるということになります。また、山岳氷河等の融解による減少は一貫して見られており、それによる海面上昇は起こると考えられます。ただその範囲の氷床の融解では、温暖化で陸上の氷が溶ける結果として、海面が何メートルも上昇するということにはなりそうもありません。海面上昇で沿岸部の都市という都市が水没する未来を描くのはちょっと盛り過ぎで、これまた信頼性を損ねることになるでしょう。
海面上昇については、氷床の融解より海水の熱膨張の影響の方が大きいとする説もあります。よくある説明では、水の熱膨張率は10℃の場合では1℃あたり約0.01%で、世界の平均水深はおよそ4,000メートルなので、1℃上昇すると40センチ海面が上昇するということになります。確かにこの説明だと、海水温が5℃上昇すれば海面が2メートル上昇することになって、大変な影響が予想されます。ただ、海水温が大きく変動する対流層は水深300メートルまでで、それより深い部分の海水温はほとんど変動しないと言われています。すると、直接影響を受けるのは表層の300メートルの範囲なので、1℃上昇した時の影響は3センチ、5℃上昇しても15センチの海面上昇にとどまり、それほど大きな問題にはならないものと考えられます。300メートルより深い層が全く影響を受けないとは考えられませんが、影響はより小さく、よりゆっくりになりますから、現在想定されている気温上昇では、世界が水没するというのはちょっと大げさということになります。
他によく取り上げられるのは、北極の氷が溶けることでシロクマの生活環境が激変し、絶滅してしまうというものです。シロクマは氷上でアザラシが呼吸のために顔を出すのを待ち受けて、顔を出したところで捕らえて食べるので、氷がなくなれば餌を取ることができなくなってしまうということです。ところで、今からおよそ7,000年前には温暖な時期があって、氷床が溶けたために海水面が現在より最大5メートル程度高くなっていたとされます。日本では縄文海進として知られ、関東平野の広大な部分が海だったと考えられています。この時期、北極も気温が4℃程度高かったと言われ、大幅な氷の減少があったと考えられます。でもシロクマは絶滅することなく現在まで生存しています。従って、少なくとも同程度の温暖化の範囲内であれば、シロクマが絶滅する心配はありません。
このごろよく取り上げられるのは、温暖化に伴って水蒸気の発生量が増加する結果、これまでにないようなスーパー台風が発生して次々襲来し、甚大な被害をもたらすようになるという説です。台風は海面から供給される水蒸気によって発生、成長しますから、実にもっともな話です。では、実際の台風の発生状況はどうでしょう。気象庁の記録では、上陸時の中心気圧が低い台風として、1位は1961年の第二室戸台風の925hPa、2位は1959年の伊勢湾台風の929hPa、3位は1993年の13号台風の930hPaが上げられています。その他に、統計開始以前の参考記録として、1934年の室戸台風の911.6hPa、1945年の枕崎台風の916.1hPaが上げられています。一見して最近の台風がないことが分かります。では他の指標ではどうでしょう。気象庁のページの資料ではありませんが、海上での中心気圧が低い台風として、1979年の20号台風の870hPa、1973年の15号台風と1975年の20号台風の875hPa、1958年の狩野川台風の877hPaがあります。どれも40年以上前のものですね。では見方を変えて、最大瞬間風速ではどうでしょう。1966年の第二宮古台風の85.3m/s、1961年の第二室戸台風の84.5m/s、2015年の21号台風の81.1m/sなどがあります。ここでやっと最近の台風が出てきましたね。では被害の大きさではどうでしょう。死者の多かった台風は、1959年の伊勢湾台風の4,697人、1934年の室戸台風の2,702人、1945年の枕崎台風の2,463人、1954年の洞爺丸台風の1,361人、1,947年のカスリーン台風の1,077人があります。60年以上前の台風ばかりですが、近年は治水が進んで犠牲者が減った可能性もありますね。それにしても桁が違いますが。こうやって見てみると、スーパー台風と呼べるようなものは、昔は来たけれど最近は来ないというのが実情のようです。温暖化でスーパー台風が来るようになるというのは、理屈ではあり得ても、現実には起きていないとしか言えません。
こういった、事実ではなかったり、大げさだったりする例が出てくるのは、仕方のない面があるのは確かです。温暖化の分析のため、いかに優れた解析モデルを作りだし、いかに精緻な計算をしていても、一般の人がそれの意味や価値を理解するのは困難です。勢い、上に上げたような一般の人にもわかりやすい事例での説明になるわけです。それはいいのですが、事実とは異なっていたり、大げさだったりするとかえって信用を無くし、怪しげなものを含めた懐疑論を呼び込むきっかけになります。やはり多少わかりにくくても、正確な事実で説明しなければいけないでしょう。そして、間違った例については、例えそれが分かりやすく温暖化やその影響を説明していても、それは違うと積極的に否定して行くことが大事です。少なくとも懐疑論を否定するのと同じ程度の強さと熱意を持って否定しなければ、かえって温暖化に対して疑いを持つ人を増やす結果になってしまうと考えるべきでしょう。