3.年金の税方式の話はどうなった?
一時、年金の保険料方式をやめて全額税方式にしようという議論がありましたが、すっかり下火になってとんと聞きません。これは、税方式はあまりメリットがなかったということでしょうか。ちょっと考えてみましょう。
税方式の対象として考えられていたのは、基礎年金の部分です。消費税を5%引き上げて年金の財源にすることで、保険料の未納問題や低額年金、無年金を解消しようというものです。消費税5%引き上げと言うのは、それによって得られる税収と、支給している年金の総額が見合っているということによるものです。ここで、消費税は逆進性があるから怪しからん、と言う議論がありましたが、収入の少ない人、即ち消費支出の少ない人は少なく、多い人は多く納税しますから、逆進性とは言えませんね。むしろ、現在の保険料は収入に関わらず一定額ですから、消費税よりはるかに逆進性が高いと言えます。だから、逆進性という観点からは、むしろ現状より改善すると言えるでしょう。
では、消費税を増税すると、消費支出が減って景気が落ち込むという点はどうでしょう。年収400万円の人が、仮に全額消費支出に回しているとすると、消費税率が5%アップすると、19万円の消費増税になって、従来の381万円分しか消費できなくなります。これだけ見ると消費が落ち込んで不景気になりそうですが、実際にはこれまで払っていた年金保険料がいらなくなります。2017年度の国民年金保険料は月16,490円ですから、年間で197,880円になります。厚生年金の保険料も、基礎年金分がいらなくなりますから同様です。これがいらなくなる分だけ手取り収入が増えますから、差引大体トントンで、7,000円位実質収入増になります。ここで言う年収400万円は全額消費支出に回せる分なので、手取り収入です。条件によって異なりますが、額面での年収は450万円ないし500万円位(あるいはもっと多額)になると予想されます。この層以下の収入の人は全て実質収入増になりますから、国民の6~7割は収入増になると思われます。
もっと収入が少ない人について考えると、例えば年収200万円の人なら、同じ仮定で約10万円の消費税増になる一方、約20万円の保険料負担減になりますから、差引10万円の収入増になります。つまり、収入の少ない人ほど、実質収入が増える結果になります。逆進性など全然ありませんね。そして、景気への効果を考えると、実質収入の増える元々の収入の少ない層は、収入が10万円増えたから10万円貯金しよう、とはならないで、そのほとんどは消費に回ると考えられます。つまり、消費が拡大して景気が良くなります。
逆に収入が多い人はどうでしょうか。例えば年収600万円の人なら、約30万円の消費税額になりますから、差引10万円の実質収入減になります。でも、考えてみると、年収600万円の人で、全額消費してしまう人は少ないのではないでしょうか。消費に回らなかった分には消費税はかかりませんから、単純計算程の増税にはならないでしょう。もっと収入の多い人は余裕がありますから、5%増税になったから5%分消費を控えようとはならないでしょうね。なので、実質収入増になる人はその分消費を増やし、実質収入減になる人はそれほど消費を減らさないと予想されますから、トータルとしての消費は、増税にもかかわらず増加するという結果が予想されます。これは、増税前の駆け込み需要とその反動減といった短期的な影響は考慮していません。
そうは言っても収入と消費が多く、税負担の増える層は納得が行かないかもしれません。でも、年金保険料は好き嫌いに関係なく強制的に徴収されますが、消費税なら払うかどうかを選択できます。極端な話、何も買わなければ1円も消費税を払わなくて済むわけです。同じ払うにしても、自分が本当に欲しいものを選んで買って、その時だけ消費税を払えばよいわけです。この自分で選べると言うのは大事です。保険料の様に、全く選択の余地もなくただ取られるよりは、遥かに納得感があるのではないでしょうか。また、働けば働くほど税額が増えて、まるで働くことに対する懲罰のような所得税より、ずっと精神衛生上も良いですね。
それから、税方式にした場合、最初に書いた通り保険料未納や無年金の問題はなくなりますし、保険料の徴収や記録、管理にかかる経費も、個人別に支給額を計算して支給するのにかかる経費も、全ていらなくなります。結構ばかにならない経費が掛かっているはずですから、それが浮くことの効果は小さくありません。
何より、将来の支給金額の削減や、支給開始年齢の引き上げの心配をする必要がなくなることは大きな効果が期待できます。現状、若い人でも将来の年金に対する不安から消費を抑えて貯蓄に回す傾向が強く見られ、そうでなくても弱い消費が一段と弱くなっています。将来不安がなくなれば消費が回復して、景気を押し上げる効果が期待されます。消費の拡大は消費税収入を増加させ、税方式にした場合の年金財源の安定にもつながります。
ただし、将来的に高齢化が進むと、年金の支給総額が増えて税率を上げる必要が出て来るかもしれません。そうなると、導入時は景気にプラスでも、長い目で見ればマイナスではないかという懸念があります。でも考えてみると、税率を上げて増えた消費税は、全て年金の支給に使われます。年金受給者で受け取った年金を使わずに貯蓄するという人はわずかだと考えられますから、増えた税金はそのほぼ全てがそのまま消費に回ります。増税で減った分の消費が丸々増えるわけですから、増税しても景気に対しては中立と考えられます。