2.年金の話
年金については、保険料の納付率が低いとか、金額が少ないとか、いずれ破綻するとか、払い損になるとか、いろいろ言われています。では実際の所はどうなのか、少し調べてみました。
まず国民年金です。これは厚生年金等の基礎年金部分と共通のものです。少し前の数字ですが、2015年の数字では、1か月の保険料が15,590円、年額で187,080円で、20歳から60歳まで全期間納付すると、65歳から満額の年額780,010円が支給されます。年金の年額は保険料の年額の4.17倍にあたり、65歳から受給すると74.6歳で支払った保険料相当額を受給できることになります。2016年の数字で、男性の平均寿命が80.9歳、女性が87.1歳と言いますから、概ね支払った保険料以上の年金を受給することができ、払い損ということはないようです。基礎年金の支給には、保険料に加えて国からの負担もあるため、妥当なところでしょう。
では厚生年金はどうでしょう。厚生年金は報酬額によって保険料が変動するので、勤め人の平均と言われる、年収400万円(給与25万円/月、賞与50万円/半期)をモデルに計算してみます。これも2015年の数字では、月額保険料が22,716円、賞与時の保険料が43,685円で、年額では359,962円になります。20歳から60歳までこの金額を納付するモデルでは、65歳から年額923,000円の年金が支給されます。基礎年金部分だけの国民年金に比べて、年金額は多いですが、保険料はそれ以上に多くなっています。年金の年額は保険料の年額の2.56倍にあたり、65歳から受給すると80.6歳で支払った保険料相当額を受給できることになります。男性では平均寿命とほぼ同じ年齢なので、概ね保険料と受給額がトントン、女性の場合は幾らか余分に受給できることになり、基礎年金部分だけの国民年金より大分割が悪いことが分かります。
ところで、厚生年金は基礎年金部分と報酬比例部分からなっています。基礎年金部分は国民年金と共通ですから、その部分を差し引いた残りが報酬比例部分ということになります。差し引いた額は、保険料の年額が172,882円、年金の年額が142,900円になります。年金年額は保険料年額の0.83倍にあたり、65歳から受給して支払った保険料相当額を受給できるのは、何と113.4歳。厚生年金の報酬比例部分は、誰も支払った保険料相当額を受給することのできない、必ず損をする制度になっていることが分かります。
もう一点、厚生年金は保険料を本人と会社が折半することになっています。上記の保険料額と同額を会社も保険料として支払っているわけです。つまり、実際の保険料額は上記保険料額の2倍で、年額719,924円支払っているということです。つまり、実際は年金の年額は保険料の年額の1.28倍にあたり、支払った保険料相当額を受給できるのは96.2歳ということになります。そして、基礎年金相当部分を差し引いた報酬比例部分について見てみると、保険料の年額は532,844円、年金の年額は変わらず142,900円ですから、年金年額は保険料年額の0.27倍にあたり、支払った保険料相当額を受給できるのは、驚くなかれ、214.2歳です。いくら物価スライドがあるといっても、物価が10倍にでも跳ねあがらない限り必ず損をする制度になっているわけです。保険料相当額を普通預金に積んでおく方がはるかに割が良いのですが、厚生年金は強制加入ですから、どんなに損をするとわかっていても、保険料の納付を拒否することはできません。
なぜこんなことになっているのでしょう。普通預金に積んでおいてももっと割が良いのですから、普通に考えるとありえない事態です。
ここで、もう少し古い平成20年の数字ですが、実際の年金支給にそれぞれの年金資金からどの程度拠出しているのかを見てみます。国民年金の被保険者(1号被保険者)は2,035万人で、年金支給のための拠出額は2.2兆円です。一人あたりに換算すると、108,108円になります。一方、厚生年金の被保険者(2号被保険者)は3,914万人で、拠出額は8.6兆円です。厚生年金の被保険者には保険料を納付していない3号被保険者が1,063万人いますから、これを合わせた人数で割ると、一人あたりの拠出額は172,794円になります。おや、国民年金よりずいぶん多いですね。つまり、厚生年金では基礎年金保険料相当額を越えて、報酬比例部分相当額の一部まで、基礎年金の支給のために拠出していることが分かります。これは、厚生年金の報酬比例部分の保険料を、別会計である国民年金の年金支給に流用していると考えることもできて、原資が減ってしまっているのですから、割が悪くなるのは当然といえます。もっとも、国民年金の保険料と同額が厚生年金の基礎年金部分の保険料だ、などとはだれも言っていないのですね。いずれにしても厚生年金は非常に損な制度だということは確かです。もちろん、年金制度は共助のための仕組みですから、損得を言うようなものではありませんが、国民年金加入者は得をして、厚生年金加入者は損をする、不公平な制度であることは間違いありません。
ちなみに、そうは言っても、国民年金は満額受給しても年金額が少ないから、厚生年金の方が有利だろうという考えもあります。でもそれは、保険料額が違うのだから間違った考え方ですね。国民年金の加入者が年金受給額を増やしたければ、そのための制度として国民年金基金があります。同じ収入同士で比べれば、どうせ国民年金だけなら保険料が少額で手元資金に余裕があるわけですから、これに加入すればいいわけです。国民年金基金は、20歳から60歳まで加入するとして、保証なしのタイプで、男性は月額6,180円、女性は月額7,830円の保険料を納付すると、65歳から月額2万円の年金を受給できます。この場合、支払った保険料相当額を受給できるのは、男性で77.4歳、女性で80.7歳で、平均寿命と比較すると多少お得と言う程度です。ただ、厚生年金と比べるとはるかに有利な制度です。なお、厚生年金加入者は、国民年金基金への加入資格はありません。
大雑把にまとめると、今の年金制度は給与所得者から略奪して自営業者にばらまく、極めて不公平な制度です。所得捕捉率や、必要経費の面でも自営業者は優遇されていますから、間違っても勤め人になってはいけません。ちなみに、雇用者(勤め人)の割合は90%弱で、自営業の割合は年々減り続けています。