1.増税の話
2018年度の税制改正について議論が行われています。既に与党の税制改正大綱が決定し、国会は与党が多数を占めていますから、このまま決定になるものと思われます。給与所得控除を引き下げる一方、基礎控除を引き上げることで、給与所得者を増税し、自営業者を減税するという内容です。給与所得控除は、自営業者は所得捕捉率が低く広範な経費が認められるのに対して、給与所得者は所得捕捉率が100%で一切の経費が認められないという大きな不公平があるので、それを一部緩和するために設けられたものです。つまり今回の税制改正は、自営業者と給与所得者の間での不公平税制をさらに拡大しようというもので、極めて不当なものと言わざるを得ません。給与所得者は労働者で、自営業者は経営者、資本家ですから、資本家による労働者からの搾取を強化しようとするものだと、そんな言い方もできるかと思います。
同時に給与所得控除の上限の引き下げ、つまり所得が高めの給与所得者についてのみ増税しようということも行われます。これももちろん自営業者は増税されないので、不公平を一段と拡大するものです。さらに、子育て世帯は適用外にしようと言う話もあります。しかし、給与所得控除は業務上の経費の一部を控除しようというものですから、子育て世帯は業務上の経費が余分にかかるという意味になってしまい、支離滅裂としか言いようがありません。しかも制度が複雑になって、無駄な事務経費ばかりがかさむようになります。無駄な経費がかさむということは、国民の生み出した価値をどぶに捨てるということですから、社会全体が貧しくなるだけです。
そもそも今は、景気を改善することが重要課題ではなかったのでしょうか。景気回復が進まないのは賃金が上がらないからだということで、政府が賃上げを求めるような、ある意味妙な政策まで行っているというのに、ここで増税したら折角の賃上げに意味がなくなってしまうではありませんか。
色々な説を言う人はいますが、個人消費が伸びないのは、賃金の伸びを税金や社会保険料の伸びが上回っていて、手取り収入はむしろ減少を続けていることが原因ではないでしょうか。無い袖は振れないのですから、手取り収入が減っては個人消費が伸びるわけがありません。企業業績は好調と言いますが、企業に対しては税金や社会保険料のアップによるダメージが相対的に少ないことが一つの要因でしょう。しかし、企業業績が良くなっても、GDPの一番大きな割合を占める個人消費が伸びなければ景気の回復は望めません。
例えば筆者は、2017年は2014年以来3年ぶりに年収がアップした模様で、2014年より約10万円増えています。ところがこの間に、税金と社会保険料は約30万円増加しているので、手取り収入は20万円の減になります。住民税は翌年に反映されるので、今年収入が増えた分、来年は確実にさらに税金が増えます。年収額の変動があるので単純に比較はできませんが、ここ10年以上に渡って手取り収入の割合は低下の一途をたどっていて、2007年に年収の76.2%だった手取り収入が、2017年には70.2%になっています。これは筆者個人に限ったことではなく、ダイヤモンド・オンラインのサイトに「同じ年収でも「手取り」は15年下がり続けている」という記事が掲載されていて、年収700万円のケースをモデルに、2002年から2017年まで15年間手取り収入は減り続けていて、15年間に50万円減っているとのことです。年収500万円のケースでは、35万円の減少ということです。これだけ手取りが減り続けていては、給与が増えなかった場合はもちろん、給与が増えても消費を拡大するのは難しいでしょう。今やるべきことは、僅かばかりの予算確保のための増税ではなく、増税を阻止して国民の収入を増やし、消費支出の拡大を促して景気回復に結び付けることではないでしょうか。
また、ダイヤモンド・オンラインのサイトに、「いま必要なのは無理な賃上げではなく所得減税と法人増税だ」という記事が掲載されていましたが、正しい見解だと思います。これまで法人税減税を行って企業の税引き後の利益を増加させる政策が取られてきましたが、企業の投資等は増えず、景気回復には効果がありませんでした。昨今は株式市場では外国人による売買の割合が大きくなっていますから、法人税減税は株主配当になって海外へ流出しているという側面も無視できないでしょうね。また、法人税減税は税引後利益を増加させますが、人件費増は営業利益や経常利益を減少させますから、法人税減税をしたから給与を引き上げなさいと言われても、企業側としてはできない相談ですね。それなら政府が直接やればいいわけで、法人税を元に戻して、増加した税収を原資に所得税減税をすれば、これまで企業の内部留保と配当に回っていた資金が市場に流れるようになって、景気が回復することが期待できるでしょう。