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紅の姫は紅煌たる覇道を血で染める  作者: ネコ中佐
第二章 動乱の帝国 ベル・クラウディア
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Chapter epilogue Ⅰ

お待たせしました_(:3」z)_



 戦いを終え、無事に生き残ったことを喜ぶエストレアたち。


 だが山頂から地上を見下ろしてみれば、地表の凄惨さが改めて認識せざるを得なかった。


「円満解決、とはいかなかったか」


「お姉様、それは流石に傲慢が過ぎますわ。あの化け物相手に勝つ、最悪の事態だけは避けられた、それだけでも偉業ですわ」


「そうだぞ。冒険者でも強力な魔獣相手に無傷なんてほぼあり得ねえ。ウルマトの時を思い出せよ?」


 ネロとジェシカに諭され、エストレアは救えなかったという厚かましさを瞬時に恥じた。


 その通りだ、と。あんな怪物相手にたった五人で挑むこと自体が間違いだ。


もしマリウスがいなければ、そして、自分の中に眠る「力」を使わなければ、今頃この山頂には灰すら残っていなかっただろう。


「……そうだな。生きて、ここに立っている。それだけで十分か」


 エストレアは、まだ僅かに震える自分の掌を見つめた。戦いは終わったというのに、緊張感が未だ解けないのだろう。


 しかし、ラグナ山を渡る冷たい風にさらわれていくような気がした。


「おい、エストレア? どうした、急に黙り込んで」


 ネロが覗き込んでくる。その顔には、隠しきれない疲労と、それ以上の信頼が浮かんでいた。


「……いや、なんでもない。ただ、少しだけ疲れただけだ」


 嘘ではない。だが、純粋な真実でもなかった。


 エストレアは視線を地表へと戻す。両帝国を覆う煙の向こう側、自分たちを待っているのは凱旋の喝采か、それとも──。


「戻ろう、クローディンの元へ」




◆◇◆◇




「エストレア!!!」


 クローディンのいるファンテリム帝国の砦に辿り着いたエストレア達はクローディンの熱烈な歓迎を受けた。


 彼からすれば、人智を超えた怪物を打ち倒した英雄を迎えているのだから、当然だろう。


 だが、周りの人々の反応は────全てが全て歓迎的ではなかった。


 ある者は歓迎的だった。ある者は恐怖に囚われた目をしていた。ある者は行き場のない怒りを向けていた。ある者は異物を見るかのような視線を送っていた。


「仕方ねえよ。これほどの惨事だ。ただでさえ、環境問題で明日を迎えられるかどうかという生活だったものの基盤が今回の一件でズタズタになったんだ」


 ネロが、視線を避けるように顔を背けた男を見ながら呟く。

 人々にとって、エストレア達は「世界を救った英雄」であると同時に、自分たちの理解を超えた「絶大な破壊をもたらした力そのもの」でもあるのだ。


 無論、頭ではわかっているのだろう。世界崩壊に等しい大災害を『もっとも最善に近い形で終わらせた』のも事実だからだ。

 

 機神がもたらした破壊は想像を絶するものだった。異界に閉じ込めておきながら、噴火という形で地表に災禍をもたらしたのだから。


 それを食い止めたのはエストレア達だったが、その戦いの最中で崩れた家屋や、汚染された水源を前にすれば、人々の感情はそう単純にはまとまらない。

 

「感謝と、恐怖。……そして、喪失感か」


 エストレアは、砦の隅で震える避難民たちの姿を視界の端に捉えていた。


「こればっかりはな。ま、ここから俺らの領分だ。お前らは休んでろ、いいな?」


 やれやれとすくませながら、クローディンはいつにもなく真剣な顔で見つめてくる。


「わかった。何かあったら呼んでくれ。それと───アラン皇子殿下は何処に?」


 鼻にかけるつもりはないが、英雄の帰還にあの男が来ていないのは少しばかり気にしていると───



「………あぁ」


 クローディンの顔が俯くように影がさす。そこから紡がれたのは。


「兄貴はな………死んだ。俺を庇ってな」


「………何だって?」


 風の音がエストレアの耳を突き抜けていく。クローディンの顔にいつもの野心溢れた表情は翳り、喪失感に満ちた顔をしていた。


 アラン皇子。ベル・クラウディア帝国の第一皇子。類稀なるカリスマと政治力、勢力を持っていて、クローディンの兄に当たる人物。


 クローディンは政敵として打倒するべく野心を燃やしていたのは知ってはいた。


「………兄貴がな、言っていたんだよ。『お前は俺の誇りだ』ってな。俺は敵だぞ。敵だったんだ……!」


 聞けば、アランは崩落する建物からクローディンを逃すために逃げ遅れたのだそうだ。


『お前は生きろ』


『どのみち俺は助からん。ならこのまま共倒れになるよりはマシだ』


『愚弟、いや我が弟、クローディン。お前がいたから今の俺がいる。お前はーーー、俺の誇りだ』


 燃え盛る瓦礫の向こうに消える、好敵手ライバルの姿にクローディンは最後まで「逃げるんじゃねぇクソ兄貴!」と叫んでいた、らしい。


「ふ、ふざけんじゃねえ!何満足して逝きやがって!俺はあんたを倒すのが目標だったんだぞ!あんたを引き摺り下ろして、国を、新しい光を与えるために戦ってたんだぞ!くそっ!くそっ!クソオオオオオッ!!!」


 クローディンの苛立ちにエストレアは何も言えなかった。いや、何を言ってもクローディンには届かないだろう。


 対立していたことは知っていても、そこに他人であるエストレアが入り込める余地はないのだから。


「ふぅーーー」


 思い切り思いの丈を吐き出したクローディンは自身に言い聞かせるように言葉を紡いだ。


「今回の件で、兄貴の陣営の人間はかなり混乱する。国土そのものがぐちゃぐちゃになったからな。立て直しも数ヶ月や数年というレベルじゃねぇ」


 火山噴火という大災害は、シェートリンド王国の魔女事件など比較にならない事態だった。


 エストレアの決着が間に合わなかったら、ベル・クラウディア帝国とファンテリム帝国は巨大な炉と化したカルデラに飲み込まれ、跡形もなく消し飛び、世界を暗黒の夜に変えていただろう。


「正直、人が足りん。食料も足りん。食いもんがないから冬を越すのも望み薄だ」


「だからだろうな。ここになってから兄貴の選民思想が一番マシに思えるようになった」


「クローディン……それは……!」


 彼の口から出た、危うい言葉に流石のエストレアも思わず口を挟んだ。


 言っていることは理解できる。為政者としても国民の負担としても、それが一番近道だということを。


───そして、それを否定できる状況かどうかということも。


「けどよ。そんなの、選べるわけねえだろ。それを選んじまったら、今度こそ兄貴に笑われる」


「でも、だったらどうすりゃいい。国土はぐちゃぐちゃ、避難民もすぐ生活が復旧できるわけじゃねぇ、その間の食糧は?冬を越せるのか?他国に救援要請を出しても、すぐ答えてくれるのか?」


 クローディンは突きつけられる現実の前に折れそうだった。いつも不遜な態度をとる彼の姿が、今では幼い少年のようにも見える。


「なあ、エストレア。お前ならどうする。どうやってこの先を乗り越える?」


「公爵家だったお前ならわかるんじゃないのか?なぁーーー【パァンッッッ】ッッッ!?」


 彼の言葉は続かなかった。エストレアが彼の頬を叩いたからだ。彼の副官であり、護衛でもあるエルフのマイアが驚くも、動こうとはしなかった。


「失望したぞ」


 エストレアは床にへたり込むクローディンの胸倉を掴み、目線を無理やり合わせる。


「先に言おう。私は答えない。お前の望む答えを私は出さない」


 エストレアの赤い瞳が爛々と輝く。その瞳の眼力に、クローディンは抗う力もない。


「だからこれからいうことはお前にとって毒の矢だ。いいか、よく聞け。────────────逃げるな愚か者ッ!!!!!!」


 彼の逃げたい気持ちは分かる。エストレアも同じ立場の人間になったら、少しは彼の痛みは分かるかもしれない。


 だが為政者たらんとする者が、選択を他者に委ねる考えを持ってはいけないのだ。

 

「どんな思想をお前が持っていたかは私は知らない。だが、アラン皇子を越えたかったんだろう!?それだけの思いがあったはずだ!なら最後まで背負え!!

それが出来ぬなら、最初から口にするな!!」


「……っ、うるせぇ……分かってんだよ、そんなことは……!」


「なら、お前のその言葉は、『責任からの逃亡』だ!」


 この国、いや二つの帝国は戦乱と災害という二つの苦難にさらされて混乱している。この窮地を律することができたのはきっと、クローディンが追いかけていたアラン皇子だったに違いない。


「お前は、その弱音をアリスにも向けるのか!?お前を信じた貴族達にも向けるのか!?お前は何がしたかったんだ!」


 きっと彼にはそれを行うだけの決断と責任を背負っていた。しかし、目の前のクローディンからはそう言ったものが感じられない。


「私はこの国の『人間』じゃないからこれ以上は言わないし、言う気もない。選ぶのか、救うのか。それとも全て見捨てるのか。決めるのは、お前だ」



 パッと胸倉を離すと、クローディンは床に尻餅をついて俯いてしまう。


「頭を冷やせ、クローディン。今のままじゃ、ろくに答えなんて出ないだろう」


 エストレアはそういうと、部屋から退出していく。壁に寄りかかって黙っていたネロも、一瞬だけ立ち止まったものの、彼を一瞥することなく出ていった。



「……くそっ!」



 クローディン以外、誰もいなくなった部屋で彼は床を殴りつける。拳が真っ赤に染まって血が滴り落ちる。


 彼の言葉を拾い上げる者は、今ここにはいない。それは長くそばにいた副官も例外ではなかった。




◆◇◆◇




 エストレアが外に出ると、あたりには光が絶えないように篝火が焚かれており、生き残った兵士たちが民たちに配膳を行っていた。


 聞けばこれもアラン皇子の指示だったらしく、彼亡き今では第二皇女であるガラテアが臨時の指揮を取っているようだった。


「いい啖呵だったな」


「ネロか。そこは私は知らん。安易に踏み込んでいいものではないからな」


 夜風にあたっていたエストレアに近づいたネロは先ほどのことを持ち出してきた。


「まあ、ナヨナヨしてたアイツの顔はちとイラッとは来たけどな。でも、それ言ったら俺も似たようなもんだ」


「魔剣、か」


「そっ、けど、魔剣に選ばれたってだけの話だ。玉座なんてもんに俺はなる気もないし、なったとしても長続きはしねえ」


 両帝国は継承問題から二つに割れた国だ。玉座につくにあたり、必要なもの。血筋と魔剣。座につくべきものに魔剣は加護を与え、持ち主の元へ現れる。


「というか、聞かねえんだな」


「は?」


「は?、じゃねえって。もっと驚くところあんだろ」


「いや別に。私にとってそこまで重要じゃないからな」


「エレンらしいわ」


 2人は打ち解けるように会話を弾ませていると、イルナとイザルナがジェシカの首根っこを掴んで連行してくるのが見える。


 2人の口元には麦フレークの粉がついていて、配膳の食事を食べ終えた後だったのだろう。


「で、なんでジェシカを引き摺っているんだ?」


「血の飢えから一般の人に吸血しようとしてたから、沈めた」


「何をやっているんだ」


 呆れながらもエストレアは懐から瓶を取り出すと、その口を開けてジェシカの口の中に捩じ込むように差し込んだ。


 中身は親であるエストレアの生き血。ジェシカはとある事情でエストレアから血を分けてもらい、人を辞めているので定期的に血を与えている。


 かく言うエストレアもここ何日も吸っていない。マリウスをボコした時に貰ったのが最後なのであまり大量に供給をしたくないのだが。


 瓶を口の中に差し込まれた瞬間、ジェシカの喉が飢えた獣のように嚥下する。


「やはり足りてなかったか」


「ん。実害が出る前に止めた」


「褒めて褒めて」


 ピョンピョンと跳ねるダークエルフの双子の頭を撫でていると、不意にジェシカが起き上がる。

 そして、エストレアが視界に入る──────



「お姉様ああアァアアァ!!!!!」


 グルグルとした目でル◯ンダイブを決めようとしてーーーーー


「ていっ!」


「きゃいんっ!?」


 そのままエストレアの渾身のチョップがジェシカの脳天に直撃し、もろにくらったジェシカは無様に大地に転がったのだった。






 少しでも面白い、続きが気になると思った方は感想、評価、ブクマ、いいねをよろしくお願いします。

これからも、この物語を見守ってくださると嬉しいです!


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