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紅の姫は紅煌たる覇道を血で染める  作者: ネコ中佐
第1章 目覚めの王国
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Chapter2-3





○汚れた血と、穢れた血の違い





「お、俺のう、腕が……腕がァァァァァァァ!!!ち、チクショウ!!こ、このアマ、殺してやる!!野郎共おォォォォォォォォ、出て来いやぁ!!」


ゾロゾロといろんなところから現れる男達。洞窟だからか、片腕をひとりの少女に奪われ、挙句に殴り飛ばされた堕落の梟の首魁、ゴライアスはその大きな声で部下を呼び寄せた。


残った片腕に戦斧を握りしめて、怒りの顔を隠さず睨みつけてくる。


満月の夜、薄暗い岩山の中腹。篝火で照らされた洞窟内でエストレアは不敵な笑みを浮かべる。


「…………テメェこんなことしてただで済むと思ってんのか!?」


口から血を吐きながら、殴ってきた少女を睨みつけるゴライアス。15、16だと思われる年齢の少女に堕落の梟の首魁である自分が殴られる屈辱と片腕にされた痛みを忘れない。



「知らんな、どんな目に合うのかなんてことは。どうせ、お前達がここで死ぬことは変わりはない。」


もぎ取った腕をその辺に投げ捨てると、けがわらしいものを触った後のように何処からか取り出したハンカチで手を拭い捨てる。


洞窟内は血と錆とわずかであるが先ほどまで行為に及んでいた匂いが漂う。夜であるため普段の倍以上の嗅覚が捉えたエストレアはわずかに顔を歪ませる。



「私の見当違いだったな、お前達の血はドロドロでマズイ。罪の味ならば未知だがドブの水は飲みたくはない。」

「何言ってんだが知らねえけどよぉ、この落とし前払えよなぁ……!!テメェの死でよぉ!!」




脳内麻薬の異常分泌のせいか片腕をなくしてボタボタと血が流れているのに全く動じていない。

中には、ゴライアスを気遣う者もいたが殆どはエストレアを殺すべく動いている。

エストレアは一人ずつ、血を流さないために首をへし折っていきあるいは頭と頭をぶつけ合い、頸椎をヒビ入れて殺し、爪を延髄に突き立てて殺して行く。


何故だ、落ちぶれたといっても天下の堕落の梟のはずだ。ゴライアスは斧を片腕で振りかぶり叩きつける。

洞窟内が振動し、パラパラと天井から砂が落ち、叩きつけた場所からは大きなひび割れを起こしてめり込んでいる。

そのまま横へ一閃し、殺すべく少女へぶつけんとする。


手応えはない。いや、横に振りかぶった斧に僅かに重みがある。


「こんな、狭い空間で大層な戦斧を振りかぶるとは。体格を鑑みれば納得だが、私には遅すぎて欠伸が出る。」

「なっ!!」


斧の柄の部分と刃の部分の境目にバランスよく着地していて腕を組んで不敵に笑う。

そのまま軽く跳ねると手元に向けて走り出し、少女の膝がゴライアスの人中、鼻の筋に突き刺さるのと同時に走馬灯、いや、ここまでの経緯が鮮明に蘇る。



●●●




「最近、うまくいかねぇなぁ‥‥。商品になるような獲物もねぇしよ‥‥。」


「最近、規制が厳しくなりやがりましたしね、今代の国王になってからカモにしてた役人が減ってるんでさぁ。」


「ち、あのクソ国王め。俺たちの儲けがなくなるじゃねぇかっ!忌々しい。」


「頭ぁ、流石に開けすぎじゃねぇですかい?酒だって安くないんすよ‥。」


周りから頭と呼ばれている男は大樽の酒を既に4つも開けていた。この酒でさえ、盗賊らしく、獲物を襲いその儲けで得たものである。当たり前だが街には既に指名手配されているためおいそれと買いに行けないのだ。


これでもかつては国内第3位の盗賊だったのだが‥‥いまではすっかりその影はない。



「バーロー、酒を飲まずにやってられっか!おい、お前追加もってこい!グズグズすんな!」


うしろに控えていた奴隷の女に檄を飛ばす。女は身なりがいいとは言えずむしろイメージ通りの奴隷といった感じだ。生気は感じられず、生きる人形のようであった。

おそるおそると酒を運んできた奴隷の女は、普段からの栄養不足からか派手に転び、酒樽を割ってしまう。


「奴隷のくせに何も出来ねえんだな!!汚れたじゃねえかよ!!」


ガスッ


ドスッ


バキッ


殴る、蹴る。剣で斬りつけ、髪を引っ張る。最初のうちは悲鳴をあげていたのでそれも酒の肴にしていたが、もうその気力すらないらしい。


「こいつもそろそろ処分する頃か?玩具にするのも飽きたな‥‥。おい、お前らこいつを処分しとけや!」


何人かに引きずられるように奥へ消えた女。奴隷において処分とはどういう意味を持つか想像に難くないだろう。豚の餌か、魔獣の餌のどちらかしかないのだから。

あるいは、飢えた連中の取り敢えずの慰みにされるか。


三年前までは自分たちは自由を謳歌してた。

他の勢力と戦って、取り込んで。取り締まりから逃げるために官僚や貴族に貢いで見逃してもらい略奪と破壊を繰り返したのだ。


だが、その栄誉も消えつつある。

栄枯盛衰。それが訪れた。


三年前からとある公爵家の奏上により盗賊などの犯罪集団の取り締まりが厳しくなり、後ろ盾だった貴族、官僚は次々と捉えられて取り潰されたか、他の貴族に吸収された。


堕落の梟もその例外ではなかった。

かつては何千人といたメンバーも今では僅か100名も満たない。


だから、ゴライアス・ブレードルという男は諦めてはいなかった。

ーー絶対にあの日のように自由を、破壊を、略奪を謳歌するんだ、と。


バキィッッッ!!!!!!パァンッッッ!!!!


白磁陶器のような白やかな膝がゴライアスの人中に突き刺さると、折れる音の後に弾ける音が響く。


弾けたのは無論、ゴライアスの頭部。頭部を失い、崩れる巨体に打ち込んだ膝とは別の脚がエストレアが体を捻ることで横へと吹き飛び洞窟の壁に埋まるようにして止まった。



そして、遅れて血が噴水のように吹き出たのだった。



●●●




「終わったか。」


死屍累々と無残に横たわる死体、死体。

共通として、派手に血が流れずに死んでいるということだろうか。


この体でははじめてではあるものの、紅 諸刃とひしては久しぶりだった。


だが、これも避けては通れないものではあるがさっさと目的を果たして逃げるつもりだった。


先ずは、金子。これがなくては関所も通れないし、買い物もできない。落ちぶれた盗賊でもそれなりには蓄えているだろうと踏んではいた。


そして、衣服。パーティードレス、血に汚れたドレスなど怪しいなんてものじゃない。

臭いなどはこの際考慮せず、動きやすい装備が欲しかった。


最後に、食料などの備蓄。

これらをある程度揃えるため洞窟内を探索することにした。


エストレアが洞窟内を探索すると、奇妙な縦穴があった。

人一人やっと通れるぐらいの通路がありツンとした匂いが漂う。

潜ってみれば、そこは簡素な作りの牢屋だ。



奥に進むと案の定というかそれ以上であった。

いうには憚れるような惨状であった。何人かの女性は既に死んでいて他は生きる人形、いやそう見えるだけで既に死んでいる。


「ぁ……あ………ぁぅ……。」


ただ一人残る女性も元は騎士だろうか。もはや元の姿などわからないくらいに顔は髑髏に近く痩せこけており纏う鎧も錆びて変色している。

加えて、凌辱された跡があり思わず顔を晒してしまう。


「待っていろ。いま楽にしてやる。私に委ねろ。」


吸える血は少ないだろう。

だが、吸血鬼としての私が出来る手向けはこれだけ。


首筋に牙を突き立て吸い上げる。

血は、濁っていて不味いがそれでも吸い上げることをやめない。完全に吸い尽くして朽ちるまでその人だったものを抱きしめていた。


ここで、捨てるものは一つだけだ。同情はここで捨てる。

そして、油壺の中身をぶちまけると持っていた松明を投げ捨てる。ボウッと燃えて、縦穴は完全に燃えついた。

そして、それぞれの大部屋に同じように油を巻き、火を投げ入れ焼却する。


回収できるものすべて集めて外に出る頃には洞窟全体が燃え上がり、盛大に音を立てて崩れ落ちた。











エストレアはパサ、とドレスを脱ぎ捨てた。

月明かりに照らされると青みのある白磁の如き肌、細いラインが浮き彫りになり、その歳にしては成熟した体つき。出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいるモデル体型。


回収した皮鎧とインナー、スカートに着替えて赤茶色のローブをその上から羽織って着替え終わる。


「行くか。」


同じように回収した中から出来のいいロングソードを鞘と一緒に腰にぶら下げて準備完了。


エストレアは何を思ったのか、脱いだ血に染まったドレスを掴むと崩れて、今なお燃えている洞窟に投げ込んだ。

既に燻っていたが、ドレスを入れることで、再度燃え上がる。


パチパチと燃える音を背後にエストレアはその場を後にしたのだった。

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