Chapter2-4
ちょっとだけ間が空いてしまいました。仕事忙しいよ、時間あっという間よ。
馬車に揺られて荷台からそっと顔を出すチャイナブルーのような青い髪をなびかせた、杖を持った少女が荷台の外にいる男、変則的な軽鎧を纏った黒みのある茶髪の青年に心配げに語りかけてくる。
「ねえ、今日の依頼。ちゃんと理解してる?」
「ああ、理解してるぜ。アンナ。このパーティーのリーダーだぜ?」
「じゃあ、復唱しろよジッドさんよ。」
空は快晴で雲ひとつない。
彼ら、冒険者にとって活動するのに一番いい状態だ。時刻は日が真上になる前、つまり午前10時くらい。この世界の時間は日時計が町の中央に置かれていて、あとは日の高さでだいたいである。
彼らはついさっき舞い込んで来た依頼を片付けるために出発したばかり。
行き先は魔物が多く住んでいるが、豊富な資源に富んでいるという魔の森。
正式にはシェートリンド王国とヴィルゼリン周辺小国群の境にまたがるようにあるシェアト=ヴィルゼリン大樹海のことを指し、王都と城塞都市シェアトの中間に大きくはみ出るように一部が飛び出ている。
そこには先ほどいったが、豊富な資源があるために魔の森の依頼は絶えないと言っていい。
「あれだろ、えーと、一昨日発生した山火事の調査とついでに薬草採取、だっけ?」
「もう!!山火事はあってるけど、薬草じゃなくて魔獣討伐!それも定期のやつよ!」
「ああ、そうだったっけ?てっきりそうかと思ったんだけどな〜。」
「まあ、いつものジッドさんだ。お決まりのお約束さ。」
「もう、しっかりしてよね!!リーダーがそんなんじゃ危ないわよ!って、なに頭触ってるのよ!!」
馬車の荷台から顔を出してそう呼ばれた青年の頭をポカポカと叩いてくる。そんな少女、アンナの頭を片手でワシワシと撫で付け取り敢えず笑ってごまかした。
ジッド・スウェード。
軽装な改造した皮鎧に黄土色のマントを羽織り、この国では希少なミスリル銀を使用したバスターソードを携えている。
冒険者としてのランクは中堅そこそこな“銅”のランク。
パーティーのリーダーとしてはかなりの実力者だ。
馬車の荷台に乗っているアンナとは故郷からずっと一緒でいわゆる幼馴染、そして、恋人だった。
そのラブラブぶりはほかのパーティーメンバーを辟易するくらい、らしい。
「あー、あー、当てられるわ〜。つーか、真昼間からいい雰囲気出してんじゃねぇぞ、ゴラァ!!!」
先程から噛み付いてくるのはこのパーティーの僧侶を務めるドラン・アグレーニ。
元は、あのリスペリアン神聖国にある教会の司祭の一人息子だったが、流れの吟遊詩人により他国の文化や価値観をこっそり教えてもらい、国特有の思想に沈まずに自身の価値観を見出した。
そして、家出同然に国を出て隣国の帝国で、冒険者を二年、そのまま流れでシェートリンド王国についていった。
口は悪いが、帝国で冒険者を始めた際についていった先輩の人が口が悪く、それに感化され身についてしまったらしい。
やがて、まだ焦げ臭い臭いが漂い、馬車の御者を担当するメンバーが促す。
「ほらほら、皆さんもうすぐつきますから準備お願いします。リーダーも。」
「いや、でもよ。」
「さっさとしろよ、鈍間。お前が動かねえとパーティーが動かねえんだよ。」
「へいへい、ナッシュ。相変わらずの毒舌だな。一旦馬車は止めとくわ。んじゃナッシュ、偵察できるか?」
「任せてください。」
ナッシュと呼ばれた人物は御者台から降りるとフードを取り顔が露わになる。
さっぱりとしたアッシュゴールドの髪にクリクリとした目で、全体的に小さい身体。
年は15歳、緑色の外套を羽織り何本かのナイフを腰に差している。
はたから見れば、美少女と見間違うこともある。
が、男である。そして、時々毒を吐く。
ここにエストレアがいればこう言っていただろう。
『絶対、詐欺だろう!!』と。
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「あー、こりゃ随分と………。」
「精霊たちが逃げ惑ってますね。水分が多い樹木だから燃え上がるスピードが遅いのが救いでしたね。魔法である程度消し止められました。」
一昨日、ギルドに張り出された依頼、突如として発生した山火事の調査を受けたジッド達はようやく現場にたどり着くなり顔が引きつっている。
見える範囲全て、燃え尽き、煙を上げツンと鼻を刺激する。
道中に動物の足跡やまだ小さい子供の動物の死体があり、中には逃げ遅れたのか魔獣であるゴブリンもある。
取り敢えず、証拠品である燃え滓をサンプルとして素材袋に詰めていくと、なにかを見つけたかのようにドランの声が聞こえてくる。
「おぉーーい、こっち来てくれ。」
ドランがいたのは少し離れた岩山の麓。ジッドらが合流すると、おもむろに岩山の中腹あたりを指差した。
みれば、不自然に崩れておりさらには岩山を中心にして火災跡が広がっているのだ。
ナッシュが岩山の麓、岩壁に近寄り手に砂をすり込み感触を確かめている。
「やはり、若干ベタつきました。油ですね。恐らくですけど、放火か或いは…………。取り敢えずあの崩れた場所を調べましょう。」
「なるほどな。みんなは依存はねえな?」
コク、と頷いたのを確認したジッドは岩壁に手をかけ登りだした。
「ビンゴだな、ナッシュの言う通り洞窟があったみたいだ。」
崩れた斜面に到着すると一部が盛り上がるようにして放射状に瓦礫が散乱している。
倒れた篝火はまだ火種が残っており、地面には虹色に光るギタギタとしたもの、油が散乱している。おそらく、これが山火事の原因だろう。
「皆さん、こんなの拾いましたがどうやらここ、盗賊団の縄張りだったらしいですね。」
何処かからか現れたナッシュかその手に持っているのは団体を表す旗の残骸だ。
それを見ると顔が険しくなる。
「逆さまにぶら下がる梟の紋章…………ってあの堕落の梟じゃないっ!!!この洞窟跡、あいつらのアジトだったの!?」
「らしいな。だが、この惨状を見る限り奴らがアジトを捨てたのではなく襲われた、が正しいな。」
チラ、とナッシュが横目で見れば僅かに血が付着した跡があるし、無数の足跡が残っている。そのうち一つはこの岩山を降りるようについているのも見逃さない。
「足跡は一つ、あとは盗賊だね。動きが統率されているから襲撃したのは一人だと思うよ。歩幅から考えて………女性の可能性があるかな。ねえ、アンナ魔法でちょちょいとヒント出してよ!」
「魔法をそんな目的では使いません!!」
「そうだぜ?魔法は神聖な、だろ?」
「あちゃーー。ゴメンゴメン。っん?なんだろ?獣臭いぞ?」
グルルルルルル………。
低いうなり声がこの岩山、いや岩壁の下から駆け上がるように集まって来ている。
「ヤベエ!!今の時期のアイツらはメンドくせえんだ!!」
パーティーリーダーのジッドが忌々しげに顔を歪ませて岩壁を覗き込む。
徐々に集まる黒い影。一匹一匹のシルエットは黒い狼。白い鬣が目立ち陽に照らされて毛並みが金属のように光沢を放つ。
魔獣、危険度D”群体鋼毛狼"。単体ならランクDだが群れともなるとランクはBにもなる。
そして、一年を通して春と冬になると群れが群れを吸収して恋の季節になる。その際、オスは魅力をアピールするために敢えてオス同士で群れを作り格差を作ろうとする。
それはいかに獲物を多くゲットできるか、である。
《ウオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーンンンッッッ!!!!!》




