Chapter2-2
盗賊たちは急に風向きが変わったことで、背後に何かがいる、ということを理解した。
「おやぁ?嬢ちゃんこんな夜中に何しているんだい?悪〜いおじさんに捕まっちゃうよ〜?」
茂みから約12人ぐらいの人数で構成されたいかにもな男たち。テンプレな盗賊でございといわんばかりに落胆するエストレア。
落胆する姿を絶望と見て、ひとりが彼女に近づいていく。薄汚い下衆な笑みを浮かべて。その手を肩に近づけながら笑みを深める。
「げひひ、さあ来るん『ドスッ』ゲフッ!?」
何がと確認すると自分の胸元に少女の腕が生えていた。そして訳が分からず彼の意識は闇に沈んだ。
「このアマ、よくも!お前ら、やっちまえ!」
ひとりがやられたことで怒りを露わにする盗賊たち。怒りで我を忘れているのかは知らないが連携が取れてない。
おもむろに武器を取り出してとりあえずはエストレアを円形にして取り囲んでいるだけ。
エストレアにとってはいや紅 諸葉にとってあまりにもお粗末だった。先ほど倒した男に使ったのは琉球空手の突きの極意をアレンジしたもので人体ならば、肋骨を毟り取ることはできる。
だが、結果としてもたらされたのは、肋骨ではなく背中まで軽々貫通していたということである。
名付けるならば、《紅流、突掌“紅貫刺“》。
あらためて吸血姫の身体能力の高さがうかがえた。なぜならば、突きで人体を貫通というのは不可能ではないが、非常に困難を極めるのだ。必要な全ての条件を満たしたとしても、先に手が潰れる。
人体というのは良く出来ているもので、例えば皮膚でさえ、下の筋肉と相まって生きた鎧のようなもの。
すなわち、吸血鬼としての身体能力と、紅 諸葉の経験と技術によってもたらされた奇跡である。
一斉に飛びかかるように襲い来る盗賊共。エストレアは真紅の瞳を輝かせ、獰猛な笑みを浮かべた。
屍の山。それはすべて盗賊の骸であった。
周囲には血肉が飛び散り、内臓の一部が枝にぶら下がり、くり抜かれた目玉が岩陰に張り付くようにくっついている。
ここにいた盗賊たちは一人を除いて、全員へし折られ、寸断され、引き裂かれ、突かれ、叩きつけられて即死である。
ひとり生き残った男は生きている理由がただ生かされているだけだとわかっていた。そしてそれは自分に向けて一言だけいった。
「お前たちのアジトに私を案内しろ。」
「なっ………!」
「聞こえなかったのか?案内しろ、と言っている。それとも……ここで死ぬか?」
くい、と顎を華奢な手で持ち上げ、目線を合わせる。真紅の瞳は爛々と輝いて、吸い込まれそうな感覚に陥りそうだった。
細く、白い指がそれぞれ蠱惑的に動き、皮膚に触れるたび男にはなんとも言えない快感が走る。
だが目を合わせた瞬間、魔眼による魔力概念の拘束、および一時的隷属を齎した。
有名な吸血鬼伝説において吸血鬼と目を合わせると心を奪われるという。
科学的に言い表せない物、、つまり魂に干渉するものとされ意識はあっても無抵抗のまま吸血される原因とされた。
だが、元を辿れば吸血鬼など悪霊や狂犬病患者、土葬による、まだ死んでいない人が抵抗することが東欧において怪物に、強いてはキリスト教に悪魔の一味として数えられ、ブラム・ストーカーによるドラキュラを受けて広まったのが発端だ。
何が言いたいのかというと、それは紅 諸葉の生きた世界での話であり、この世界における吸血鬼は違うということだろう。それでも、仮想に描かれる吸血鬼の特徴の一つや二つは当てはまるのだが。
エストレアに視線を合わせられ、真紅の瞳を覗き込んでしまう。
結果として、魔眼による初の使役が薄汚いおっさんであることを除けば吸血鬼の力を試せたと言える。
「どうした、案内するのか、この場で仲間に再会するか選べ。」
「……………はい、喜んで案内させていただきます………。」
●●●
あの後、わざと生き残らせた盗賊の一人を案内代わりにして森の中を進んでいた。
聞いてみたところ、こいつらは "堕落の梟"といい、確か3年前まで国内で猛威を振るっていた盗賊団の第3位だった気がする。
今代の国王になってから彼らのルートであった官僚が摘発されて、最近は活動が鈍くなっているときいていたが‥‥。
案内させていた男がアジトについたと報告してきた。
奥へ入って獲物を捕ってきたといえと指示してやり恍惚とした顔でアジトへ入っていく。
正直、気持ち悪かったのは内緒だ。
なにも知らない生娘を演じていると洞窟内で盗賊の頭領らしき立派な戦斧を持った筋肉隆々とした男が出てきた。
たしか賞金首、"ゴライアス・ブレードル"というやつだったはず。
蓄えられた顎鬚を指で触りながら私をみて品定めし、時に全身を嬲るような視線を向けてくる。
案内役の、隷属済みの男に褒美をやるといい、また視線を向けてくる。
金と性欲の入り混じった視線。おそらく金儲けと色欲。顔には出さないが、ひどくおぞましく感じられた。
女の体故か、思わず全身の皮膚という皮膚から鳥肌が立ちそうになる。
いっそ、こいつの脳髄を引きずり出したい。
乾いているとはいえ、こいつらの血だけは吸いたくない、皮膚にすら付着させたくない。
隷属させて、自刃させるべきか。」
「あ?なにをいってやが‥‥る?」
どうやら、思わず心の中の声が言葉として漏れていたらしく、その垢まみれでゴツゴツとした手がエストレアの肩に触れようとしたーー
次の瞬間には暴風のように何かが洞窟内を満たした。
そして、伸ばした手が肘から先がエストレアにより引き千切られて肉片と血液が洞窟内に飛び散り、遅れて悲鳴が響き渡った。
さらにうずくまる大男の顔面に小さな拳、けれど込められたパワーは比較にならないそれがめり込むように叩きこまれた。
※誤字を発見したので修正。
活動報告に新キャラに対する意見を求めています。




