Chapter1-4
○鮮血の夜にて手綱は目覚める
「エストレア!!しっかりしろ!!」
突如として、めでたい祝誕会が襲撃され、煙幕の中逃げ惑う人々にもみくちゃにされて父上やアーノルド卿と離れ離れになってしまった。
そんな中でエストレアがまるで、私を庇うように私が立っていたところを突き飛ばし彼女の胸元が何者かに短剣が突き立てられたのだ。
「ぎゃあっ!!」
「いやぁぁぁあッッッ!!!!」
「衛兵は何をしているんだっぎゃあ!!!」
逃げようとする者達に追い打ちかけるように暗殺者たちの凶刃が彼らを切り裂いていく。会場は阿鼻叫喚に包まれ、混乱を極めた。
『陽動は成功、実行員、及び隊長、お願いします。』
「ヒィィィッッッ!!わ、儂は侯爵家の当主じゃ、ぞ!!や、やめてくれ、か、金なら払う!!き、金貨を好きなだ、っ!?」
「そんな穢わらしいものは我らには不要。お前は、見せしめ一号?二号?まあ、いい。死ね。」
ブシュゥ………と黒塗りのダガーが首を一閃。吹き出る血が湧き出る泉のように吹き出た。
「おお、神よ。我が行いの罪はこの作戦を遂行を持って贖わせてください。見守りたまえ。」
その虐殺を見ていたジェラルドは確信する。こいつらはーー神に祈りを捧げながら嬉々として殺しを良しとする。
間違いない、噂で聞いたことがある。
神聖リスパニアの殺人集団、【黒刻ノ執行者】
15年前のパンドラ戦役にて表立って最大の武勲を挙げた剣聖アーサーとは別で影ではパンドラ戦役の魔族側に立った亜人側の首魁達を暗殺して戦力を削いだと。
だが、何故今になってそんな奴らが?戦役で人間側が優位になり、今度は自分達が世の全てを統べようと?
ーーありうる。
そして、この国、シェートリンド王国はエストレアを含めた貴族達な殆どが人種差別を良しとしない温厚な人たちだ。奴隷などの階級はともかく、基本的に彼らの位置に同じように立ち会話をしようと手を取ることが国家理想だ。
ならば、世界が安定している今なら人類史上主義の神聖国としては亜人を擁護する国家は潰しておきたいのだろう。
今夜を持って15になった新造だが、世界情勢は知っている。というかそれしか思い当たるものがない。
ジャリ、と散乱した皿を踏みつけてこちらに迫ってくる。
「さて、最優先目標を始末する。」
「く、くそっ!!」
「助けを呼ぼうとしても無駄だ。巡回の兵士は勿論、近衛も既に殺した。」
ジェラルドを取り囲む暗殺者たち。今の自分は丸腰状態。武器など持ち込んでもいないし、あったとしてもこの窮地を抜け出せるかさえ怪しい。
「離せ!!く、このっ………!!ガッ!?」
「諦めろ、もう王手だ。」
背後から二人に拘束されて暴れるジェラルド。しかし、黒塗りのダガーの柄で殴打され力が抜けていく。
「暗殺には似つかしくない殺し方だが、上からの命でな。人知れずではなく、幾ばくかの人前で遂行しろとの仰せなのさ。」
「では、さようなら。せめて、亜人だけでも迫害すればこうはならなかったな。」
迫り来る白刃。あ、終わった、とジェラルドは思った。だが、そうはならなかった。
拘束する二人の背後から手を伸ばして白刃を掴み取る青白の手。そのまま握り砕いて短剣としての役割を終わらせた。
「何?!」
「なにも、ぐぎゃっ?!」
「No.3!?ガハッ!?」
直後に拘束する黒装束の二人のうち一人が頭を柘榴のように握りつぶされ、もう一人は横薙ぎの蹴りで室内の端まで吹き飛ばされた。
ドサっと落ちたジェラルドが背後を見れば血で身体を染めながら幽鬼のように立つエストレアの姿が。
そして俯いていた顔を上げた彼女の瞳はエメラルドではなく紅蓮の真紅の色が妖しく輝いていた。
直後にトンっと首筋にナニカが当たる感じを知った後ジェラルドの意識は途絶えた。
●●●
私は、殿下をかばい、深手を負った。痛いのに寒くて、そして眠い感覚。
ああ、これが“死“なんだ。って実感した。一度きりの体験だけれど。
そうして、私は深い深い微睡みの底へ沈もうとした時に『私の中で別の意識が目覚めたのを感じ取った。』
そして、ナニカが、意識とは別で獣のように唸りをあげたのだ。
でも、私はもう、ダメのようです。
………………………。
……………………。
………………。
……何が起きているんだ?
自分の意識がトラックの基材が落下して下敷きになり意識を手放してから、気がついた時には体は死にかけて、いや、既に死んでいた。ゆらりと立ち上がり素早く状況を理解する。
同時に喉と口に凄まじい乾きが襲い、さらに自分の意識が目覚める前のこの体の人格、そのものが自分と混ざり合うのを感じ取った。
紅 諸葉と、この世界でエストレアとしての人格、意識、知識、世界情勢、家族構成に人間関係………とは別で流れ込む別の情報。
この狂おしいまでの渇きは自分の種族ゆえの特性。
『吸血鬼』。
自分が知る限り、ルーマニアにある吸血鬼伝説、白木の杭、ニンニク、十字架などが弱点と知る怪物らしいが………どうやらこの身体は少し違うらしい。
情報の中にあるものがあり、これが確かならばある一定の年齢までは人と変わらず、ある時期において最初の飢えが襲う、らしい。
そして、理知的に冷めていく頭とは別で混ざり合うエストレアとしての感情がこの身体を訴える。
ーージェラルドを助けて、と。
この元の人格がどのような感情を抱いていたかは知らない。なんとなくだが、この自分が、手のかかる慎也に、することと同じように手のかかる弟みたいな感じだったようだ。
嫌に冷静な視界の中で白刃が突き立てられんとするそのジェラルドを捉え瞬時に間合いを詰めその白刃を右手で掴むと力を込める前に砕け散る。
そのまま空いた左手でよくわからない黒子のような人型の頭を鷲掴みにすると力を込める前に柘榴のように弾けてしまった。
ぽかんとしているようにしかみえない隣の男に蹴りを叩き込み壁に激突させてやる。音からして即死だ。
紅家に伝わるあらゆるものを取り込んだ紅流の技を使うまでもなくあっさりと脆い。
「エ、…………………エストレア?な、なぜ?」
何故だろうか、なんも感慨もない。エストレアとしての人格ならばどうにかなったのかも知れないが。
トンっ、と軽くジェラルドの首筋に手刀を当て気絶させた。
すまない、と心の中で謝罪する。
感慨もないのに、何故こんなにイライラするのか、そしてお前たちの血潮をこの身体が求めている。
憂さ晴らしと飢えを満たすためにお前たちは俺の、いや私の踏み台となれ。
さあ、鮮血の虐殺だ。
あけましておめでとうございます!!新年ですね。戌年です!!
前作のリメイク前とはかなり乖離してますが大体流れは同じです。
質問、感想、批評お待ちしております。




