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紅の姫は紅煌たる覇道を血で染める  作者: ネコ中佐
第1章 目覚めの王国
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Chapter1-5 ーChapter end


「たかが、小娘如きがっ!!」


一人が短剣を逆手に持ちエストレアに向けて肉薄する。何があったかは知らないが所詮はリビングデッド、力は強いかもしれないがたかが知れている。


「よせっ!!迂闊にいくな!!」


グチュリ。


単独で突っ込んできた彼は、エストレアが腕を振るった瞬間に顔面を赤い柱が貫通し、そのままぶら下がるように死んだ。


ポタ、ポタと滴るそれはどう見ても血だ。


血が鞭のようにしなり、槍のように突き刺さったというのか。

再度、エストレアが腕を振るうと血のそれはまるで鞭のように回り、突き刺さる人間だった物体を天井へ叩きつける。

絢爛な飾りとともに落下すると誰もが息を飲んだ。


顔面がなく、空洞が開いていて、まるで、貫いたのに、くり抜いたように見える死体へと変わり果てていたから。


「は、はは、ははははははははははははははははははははッッッ!!!!」


不気味なまでに笑うその姿にかつての面影はないに等しい。もはや、獣、魔獣のソレだ。








たしかに殺したのを確認した。あの出血量だ、ただの貴族令嬢が耐え抜ける傷ではない。


それに、煙の中とはいえ、互いにそれを確認していたはずだった。最優先目標であるジェラルドを庇ったのは計算外だが、陽動である程度殺しておくことは変わりはないから放っていたが。


ゴキィ……と指を鳴らして軽く握りしめる死人のはずのソレの一挙動を見逃さない。先ほど二人がやられていたのを見た後だからだ。


死人リビングデッド、か?だが、それには早過ぎる(・・・・)。だが、考えられるものはこれしかない。)


「奇跡を使え!!何にせよ、攻撃しないと全滅するぞ!」


死人リビングデッドには浄化の奇跡を。この世界の理の一つ、祈りを形にする魔法とは別の概念だ。神に祈りを捧げ、哀れなる魂を救済する。


「隊長、ここは私が!!『いと聖なる緒方なれば、我が力に宿り、悪しきもの、苦われんものを救いたまえ!!“浄化の光(ホーリーライト)“!!』」


詠唱とともに数字が幾重に重なる魔法陣が展開され、まばゆい光が灯る。そして、光が貫くのを見届けて………。


ダァン!!グチュリっ!!ゴトンッッ、コロコロ………。


隊長である自分のすぐそばから叩きつける音と水っぽいなにかが潰れる音を聞いた。

横目で目の前の存在から目を離さずに視界に収めると………ありえないという表情を浮かべた目をした首が半分以上ぐちゃぐちゃにされて転がってきた音だった。


ついでに見れば先ほど『浄化の光(ホーリーライト)』を放ったメンバーが首から上をなくして膝から力なく崩れ落ちたのが見え、目の前の存在は周囲から血を集めて一つの剣、のようなものを握っていた。おそらくあれで首を断ち切ったのだろう。


(あれは一体……!!?血を操るなんて聞いたこともない。何者、何者な……なに!?ガッ!!?」


考えにふけっていると、目の前に肌色の棒、いや脚が迫っておりとっさにガードして受け止めるがあまりの重さに耐えきれず吹き飛ばされテラスまで飛ばされてしまった。かろうじて落下は防げたが、ガードした腕に激痛が走る。


(ぐっ………腕が。折れたか………!?)


「うわああああァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!や、やめろ、やめてくれ!!」


「なっ!?」


激痛で霞む視界で捉えたのは足払い(・・・)で残っていたメンバーの両足を斬り落として喚いてたところを背後から首に手を回してゆっくりと捻っているところだった。


「や、やめて、やめて、あ、ぁぁ、神よ……グブェ」


グキリ、鈍い音がなり首はあらぬ方向へ曲がっていてどう見ても即死だ。


「一体なにが……なっ!!」

「応答がないから駆けつけた……なにっ!!」


(後衛の二人か!?不味い、かなりの時間が経過している。)

あまりにも連絡もなく遅いので駆けつけたのだろう、脱出ルートを担っていた二人がやって来る。しかし、この状況では悪手でしかない。


「来るなっ!!!引き返せ!!」


隊長として命じる。しかし、あまりにも声はかすれていて届いていない。

侵入してきた二人を感じ取ったのか獣がそちらに視線が向く。

このままでは、二人とも奴の餌食になりかねない。


「く、くそ!!」

「皆の仇ッ!!


駆けつけた2人が短剣を取り出して駆けた。

自分は舌打ちをせざるを得ない、さっき一人がそうしてやられたのを見たからだ。


(馬鹿がっ!!みすみすやられるのがオチだ!!くっ、『祈りの光よ、我が傷を癒したまえ“治癒ヒール』)

とにかく、折れた腕を直さねば、と小さな声で傷を直していく。その間に既に攻撃に移っている二人を見る。

二人は、挟撃することを選んだのだろう左右上斜め、下斜めから短剣を一閃する。

だがーー


「遅い、遅すぎる。」


ソレは一歩も動かず両手を走らせて二人の顔面を手のひらで捕まえ、そのまま床に叩きつける。床がめくれて埋もれる二人。そのまま一人は持ち上げられると石榴のように握りつぶされ、そのままもう一人も埋もれたまま天井に向けて蹴り飛ばされる。


「あ、悪魔だ………。」

「おお、神よ…………!!」


「狼狽えるな!!撤退するぞ、任務は失敗だ!!」


ようやく完治したのでまだ、棒立ちになっていた残るメンバーの元へ駆け寄る。

既に戦意喪失となっていて戦える状態ではないし、自分を入れて3人しかいないのだ。どうあがいても任務遂行は不可能だった。


戦うのは論外、既に7人が殺されている。奇跡は唱えるのに祈りを必要とするから時間がかかるし、第一、目の前の怪物が許すはずがない。


「いつもなら、臆せず戦えというところだが、今回は逃げるしかないか………。」


思い出すのは、半月ほど前のこと。3人とも短剣を持って機会を伺う。




●●●


半月ほど前、リスペリア神聖国 聖火大聖堂院内


『我が神聖なるリスペリア神聖教国の誇る暗殺集団、【黒刻ノ執行者】団長、オズエルよ。』


『不肖オズエル、ここに。』


全身を白い法服を纏い顔さえ白い光が乱射して見えにくい。自分の前に3人いる。

自分は、片膝をつき、姿勢を下げる。すると、自分の頭に手を当て厳かに告げて来る。


『汝らに密命を言い渡す。これは教皇様の命である。失敗は許されない。』


教皇の命とは大きくきたな。戦役の時もかなり無茶な要求をしてきたからな、どんな無茶な要求をして来るか。とはいえ、教皇の命というが、実際は……


『シェートリンド王国に赴き、次期王太子であるジェラルド王子を暗殺せよ。ただし、ただの暗殺ではなく派手にやるのだ。亜人どもを擁護する国はこの世界を統治する我が神聖国にはいらないものだ。即、排除せよ。』


ッ!!毎回毎回、こうだ。人間様人間様といい少し違うだけだというのにまるでオモチャのように扱い、人間だけが偉いなどとほざく。

だが、この手前、この国で逆らえば生きていけない。だから従う。


『御意に。直ちに人ならざる者達に誅を下しましょう。』




●●●



「お前たち、私の合図で脱出ルートまで駆け抜けるぞ。振り返るなよ、ひたすら走れ。いいな?」


「はっ」

「はっ」


ジャリ、とこちらに視界を収めた。

奴の目を見て、タイミングを計る。



「今だっ!!なっ!!?」


タイミングは完璧だったのに体はまるで石のように動けない。


なぜ、なぜだ。

動けなくなる要素なんてなかったはずだ。我々は奴の目を見てタイミングを計っていたーー


(目、だとーー!?バカな、魔眼による拘束かっ!?)

【黒刻ノ執行者】リーダーであるオズエルの失敗はエストレアの目を見続けてしまったこと。それにより魔眼による魔法的概念拘束を受けたのだ。


エストレアが逃げる二人を捉え駆け抜けていく。自分のそばを通る時たしかに囁いていた。

『逃すわけがないだろう?』と。


危機に陥った時、生物は逃げるか立ち向かうかのどちらかの行動をとるという。

逃げた二人は後者をとったらしい。


「く、くそっ!!こうなれば!!」


短剣を取り出し斬りかかった小柄な男は手刀による唐竹割りで頭から真っ二つにされた。


「ち、ちくしょう!!」


数少ない、女性メンバーの生き残りである女はまるで槍の刺突の如く鋭い前蹴りが腹に突き刺さり貫通して壁にぶつかり動かなくなる。


そして、最後に怪物エストレアが足を向けたのは最後に残った隊長のオズエルだ。


コツリ、コツリと段々と迫る足音にやけに頭が冴えてきて冷静になって来る。

そして、目の前にいる怪物にオズエルは目を奪われた。鬼灯のように赤く、紅くて夜闇に映る赤眼。


「そうか、そういうことか!!お前はっーーー!!」


首筋に走る僅かな痛み、ジュルッと啜る音を聞いて今度こそ確信する。


(竜のような怪力ーー、万物を魅了する虹色に変わる赤い眼を持ち、そして血を啜る。15年前の戦役でアーサーによって死んだとされていたが、子が生きていたのか!!?魔王の証、『吸血鬼』め!!!)


段々と力が抜けて、眠気が襲って来る。

乾ききった目で最期の一滴まで啜らんとする少女を見る。炎のように紅い髪をたなびかせ整った顔立ちは成人すれば傾国するほどの美女となるかもしれない。


そんな美少女の姿を捉えてオズエルの意識は深い底へと沈んでいった。

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