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紅の姫は紅煌たる覇道を血で染める  作者: ネコ中佐
第二章 動乱の帝国 ベル・クラウディア
118/175

chapter 3-4 chapter end

遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします。新年を迎えまして、この作品も早めに投稿が出来るよう頑張りますので、応援よろしくお願いします。



 エストレアがアルベク伯爵と合流した同時刻。


「ほう、竜種に匹敵しうる魔獣、冥墜覇蠍アプス・タイラント・ギルタブリル。まさか、木端だと思っていた連中がこんなものまで所持していたとはなぁ」


「しかもガリア騎士団も義勇兵としていたとは。弟君(クローディン殿下)では荷が重すぎるでしょうな」


 皇都クラウディウス、その中でも一際豪華絢爛なディオクレス・ティアタヌス宮殿と呼ばれる場所でアラン第一皇子は上がってきた報告に目を通す。


 同じように盟友である現魔王幹部の一人、ジュダも対応に追われているエネィック伯爵やクローディンに対し、若干同情するもその顔は『如何にどう動いて見せるのか』という表情であった。


 だが、彼らとて他人事ではない。何せ自分たちの派閥である貴族であるエネィック伯爵当主アルベクが管理していたこの国にとって唯一無二であった穀倉地帯カイロサンドリア平原を反政府勢力ニース派に差し押さえられてしまったからだ。


 当然面子を保つ為、アルベク伯爵はニース派を討伐し、利権共々奪還する必要性があるのだが……。


 そこに待ったをかけるように同じく反政府勢力であるズガール派の乱入に加えて、ズガール派を追いかけていた皇位継承外のアリスと皇位継承最下位のクローディンが駒として手に入れた魔王の娘エストレアが加勢する形で合流。


 ごちゃごちゃになった反政府勢力情勢に、最近は異母兄妹であるガラテアが皇室御用達の宮廷毒術師であるロクス・タリス・ギーラを抱え込んだと聞いている。


「ロクスを掻っ攫われたのは痛い。アレの扱いは面倒だからな。とはいえ、趣味が似たもの同士だから手を組んだと言えるか」


「ガラテア殿下の趣味は、ピグマリオンコンプレックスに近いですからね。ロクス殿も解剖趣味でしたし、波長が合ったのでしょうな」


「フン、頭の痛い話ばかりだ。どうもうまくいかないものだが、なるほどこういうのも悪くない」


「おや、意外な反応ですな」


 アランの呟きにジュダが意外そうに反応する。だが、それにアランは肩をすくめた。


「思いがけない事態があるというのは刺激的だと思わないか?クローディンの奴の行いを見逃しているのも、俺の度肝を抜くようなことを期待しているからだ」


「ふむ……殿下としては、今回の事は予想外でしたか?」


「むしろ予想通りだ。愚弟クローディン愚妹アリスも真面目すぎる。俺なら、もう少し悪辣な手段を考えるだろうよ」


 アランはそう言って、ククッと笑う。


「そういった意味ではあの弟妹は面白い。それに魔王の娘(エストレア)を上手く使えば俺の野望も近道できるだろう。なら、少しくらい応援してやるのも悪くない」


 アランの野望。それは二つに割れた帝国を統合し、かつての大帝国の玉座を手に入れ支配者となる事。政権が一つでなかったが故に世界で大きな帝国は二つに割れて帝国の民は大いに混乱した。


 割れた帝国のうち、南側だった地域を実効支配したのは皇子側だった。その際に起きた混乱を鎮めたのが初代皇太公アルグルム。アランの父にあたるアシュレイ皇太公はこのベル・クラウディア帝国にとって4代目と新しい。そして、混乱を鎮める決定打を作ったのがアシュレイ皇太公であった。



 耳にタコができるほど聞かされたアランは、支配者気質な性格も相まって帝国の統合に力を注いできた。その為にある程度の犠牲は良しとした。

 それを何度も何度も行ううち、各地で反乱が起きたが……必要な犠牲だと切り捨てた。


「まあ、あの2人なら面白い動きをしてくれるだろう。さて、俺は俺で動くとするか。ジュダ」


「なんです?」


「お前は俺と一緒に来い。この混乱は利用できるかもしれないからな」


 アランはそう言って、椅子から立ち上がる。ジュダはやれやれと言った風に肩をすくめ、彼の後に続く。


「殿下」


「どうした?」


「クローディン殿下を懐柔してみては?先も申しましたように荷が重すぎます。こちらから申し出れば……」


「戯け。その言葉に応じる程、奴は莫迦ではない。疑心暗鬼な弟だ。寧ろ、頭を硬くして俺を失望させかねん」


 アランはそういうとジュダと共に宮殿を後にする。


「さて、愚弟おとうとよ。精々楽しませてくれよ?」



 



 ダンっ!!ダンダンッッ!!! ダンッ!!!!


「やってられるかぁっ!!!!」


「あ、兄上!!落ち着いてくださいっ」


 机を粉砕する勢いで台パンを繰り返すのはこの国の皇位継承最下位の皇子クローディンだ。それを宥めるのは皇位継承外のアリス。


「あのクソ兄貴めっ、やりやがった!!!」


 クローディンがこうも荒れている理由。それは、カイロサンドリア平原における反政府勢力情勢ではなく。


「マリナとアルクハイトを引き込みやがった!!!くそっ、これじゃ兄貴達の動きが読めねぇっ!!」


 自分の弟妹である双子を取られた事だ。第六皇女マリナ、第八皇子アルクハイト。自分より皇位継承順位が上の妹弟。だが、年齢を理由で改革派、選民派どちらにも属さない中立派となっていた。そのはずだった。


 中立であるが故に、クローディンはマリナとアルクハイトにアラン一派の動向を定期的に教えてもらっていた。だが、アルクハイトとマリナは今後こちらに情報は渡せないと告知されたことで、只今大荒れになっていた。


「あのクソ兄貴っ!!俺の目論見を知ってやがったなっ!!」


(してやられたっ!魔王の娘という鬼札を手に入れた事で、逆にこちらの行動が制限されたっ!!)


 クローディンはギリギリと歯を食いしばる。元々魔王の娘であるエストレアを手元に引き込んだことは、どの貴族連中にも筒抜けであったことは十分に理解していた。


 だが、クローディンにとってエストレアも弟妹もある目的の手段でしかなかった。無論、この国の政治を立て直す改革派としての立場は忘れてもいないし、蔑ろにするつもりもない。


「(どうする……このままで)《スパァーーーーーン!!!》ぐえっ!?」


「頭が硬すぎになってますよ、我が主人」


 突然、思考を中断され悶えるクローディン。その背後には彼の副官にして護衛であるエルフのマイアがハリセンを手にして立っていた。かなりの速さで引っ叩かれたのか、クローディンはヒリヒリする頭を押さえながら涙目でマイアを睨み付ける。


「おまっ!?何しやがるっ!?」


「この程度の事で冷静さを欠くなど、主人として如何なものかと思いますよ?」


「今ので全部吹っ飛んだわっ!!」


 そう怒鳴ったものの、マイアの言っていることは最もなのでクローディンは怒鳴り返すだけにとどめる。


「っ……すまん、少し取り乱した」


「冷静になられまして何より。お二人以外にもアラン殿下の動向を知ることが出来る方はいらっしゃるはず。何のために、婚約者であらせられるアリサ様がいると思っているのです?」


「アリサ様の社交界における人脈と交友関係の広さを利用するため、だろ?何日か前に頼んではいた。だがなぁ、あいつに頼りすぎるのはなぁ……「お呼びですか、クロード様♡」んげっ!?アリサぁっ!?」


「もう、クロード様ったら♡不安なのでしたらいつでも頼ってくださればいくらでもお力になりますのに……」


「おまっ、どこからっ!?」


「最初からおりましたわ。クロード様ったら、最近私の事をちゃんと見てくださらないので不安でした」


「あ、あの、アリサ、さん?」


「何をそんなに怖がっているのです?そんな他人行儀な呼び方をしないでください。もしや……クロード様?私に隠れてーーー浮気ですか?」


 そう言いながらもアリサの目は笑っていない。というかその目はガチだ。光が失われ、深淵にも似たその瞳。


 クローディンは思わず尻餅をつき、部屋の隅まで後ずさる。

しかし、後ずさろうにも追いかけてくる。殺気にも似たドロリとした雰囲気に気圧されて動けない。


「あ、アリサ、ち、違う!!!浮気なんかしてねぇって!!!」


「では何故お逃げになられるのです?私はただお聞きしたいだけなのですが……どうして答えてくれないのですか?」


「はひっ!?!?」


 恐怖で表情を引きつらせるクローディン。


(くそっ、誰かいないか!?アリスは……、マイアは?!)


カタカタカタ……


「ブルブルブル……」


(ダメだ、使えねえ!!!)


 アリサの気に当てられて震えるアリス。助けを求めようとしたクローディンは内心舌打ちをした。そして、アリサはそんなクローディンの内心を察してか更に距離を詰める。


「さぁ、クロード様……何処の馬の骨と浮気をなさったのか、お聞かせ願いましょうか?もし、答えられないのでしたらーーー」


 アリサの右手がブレた。


「他の女にとられないように、今ここで既成事実をつくって差し上げますわ」


 次の瞬間にはクローディンは上半身裸にされてしまった。


「ひぎゃぁぁぁぁぁっ!?」


「ああ……素敵ですわ、クロード様……。ふふふ……」


 恍惚とした表情で舌なめずりをするアリサにクローディンは戦慄する。


 そしてーーー。


「やめろアリサぁぁっ!!だ、誰か、助けろっ!!!」


「さぁ、クロード様♡私と一緒に愛の巣へ参りましょうねぇ♡他の誰にも邪魔をされない所で、ゆっくりと子作りをいたしましょう?なんなら、ここで……ね?」


「ひいぃぃぃっ!?!?」


 アリサの唇が近づいてくる。もはや触れるか触れないかという距離。このままなら口付けと同時に口の中を蹂躙された挙句、ここでは表現できないような痴態が行われてしまう。


 クローディンは打開策を見つけるべく、光速にも似た速さで思考を巡らせる。


(どうする!?どうすれば切り抜けられるっ!?考えろ、考えるんだっ!!)


 背中は壁、目の前は飢えた女豹、役に立たない義妹に何処に行ったのかわからない副官のマイア。


(ええい、ままよっ!!!)


 クローディンは覚悟を決めると、目をカッと見開く。そして、アリサの両肩を掴むと同時にこちら側からキスをして力一杯に押し返した。

 突然の行動に戸惑いながら恍惚の顔をするアリサを見てクローディンは勝利を確信する。


「アリサ、俺はお前の婚約者だぞ?浮気なんぞするわけねぇ。逆に言えば、お前を一番に信じている。これじゃダメか?」


「ひゃい、クロード様♡」


 窮地は脱したことを確信したクローディンは自分の世界に入ったアリサを退けて立ち上がる。


「頼むぜ、アリサ」とクローディンはアリサに軽く抱擁してやり、その耳元で甘く囁く。

 アリサにとってイケメンボイスを囁かれたことで自分の世界に入ってしまう。それを見届けたクローディンは髪を掻き上げながら、脱がれた服を羽織るように着るといつのまにか待機していた副官のマイアを睨む。


「加勢してくれてもいいじゃねえか」


「おもしr……いえ、殿下であれば切り抜けられると信じてましたので」


「てめぇ…!」


 指の爪が手の甲を貫通するのでは、というくらい強く拳を握り締めて怒りを堪えるのだが…いつか我慢が効かなくなるかもしれないとクローディンは近頃感じるようになってきた。


「んで?そっちはそっちで何か掴めたのか?」


 結局言い合っても、殴り合っても何の進展にならないのであれば時間の無駄。なので、アリサはアリサで、マイアにはマイアの持っている情報を貰う。


「既に存じているかもしれませんが……二つ程あります。一つ、宮廷毒術師ロクス殿がガラテア殿下の陣営に加わったこと」


「それは知ってる」


「二つめはーーーー」


 マイアから二つ目を聞かされた時、クローディンはたった一言だけつぶやいた。


 あまりにも怒涛すぎる展開の数々。エストレアを手元に入れてから嵐のように次から次へと出来事が起こる。

 未だ反政府勢力を解決できていない上、最大敵派閥であるアラン皇子派の情報の閉鎖に加えて。


「二つ目は、皇位継承第4位のグライス皇子殿下が暗殺されました」



「マジかよ」


 皇子の一人が殺された、という機密級の爆弾が投下されたからだ。



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