Chapter1-3
パーティーが盛り上がる中で貴族たちは思い思いのことを楽しんでいた。
美しい装飾が壁に施された宮殿の大ホール。置かれたテーブル群には色とりどりの料理があり、天井に吊り下げられたシャンデリアがそれらを美しく照らす。
各貴族たちあるいはその子息たちはそれぞれ親しいものと立食する。料理をのせた皿を持ち昨晩奥さんと喧嘩したというものや新しい子供が可愛いと自慢する親バカもいたりする。
なかには賄賂をこっそり渡したり、怪しげな密談をするものも少なからずいたりした。
巨大な満月であるスーパームーンの月光の下、木から木へと飛び移る謎の集団がいた。
全身が黒ずくめであり、肌が見えるのは目元のみ。
真っ黒な外套を纏い、統率された動きをする。
中庭に音もなくたどり着くと巡回していた兵士を鮮やかな動きで茂みに連れ込み、精神系の魔法で記憶を抜き取る。無論、何かされたという記憶を別の記憶に差し替えられて放される。
「今の記憶から逆算しよう。」
「この間取り図と巡回兵のルートから考えて、脱出ルートは………」
数は10人、作戦実行の3人と陽動の5人に脱出援助の2人。リーダーと思わしき人物が宮殿の間取り図を広げて、再度作戦の練直しだ。
「No.5、No.3、お前たちは脱出ルートを確保しろ。ルートはここだ。」
「はっ。」
「はっ。」
「No.4、No.6はお前達は私とこい。残りは陽動だ。せいぜい引っ掻き回せ。行くぞ、聖なる主よ、どうか加護を………。」
「「「「主よ、見届けたまえ。」」」」
目的は、この国の王太子。神聖なる主の教えに背いて亜人等を受け入れるこの国に鉄槌を。
外套に月明かりが照らされ、十字に太陽と目玉のようなものが交差する紋章がやけに強く印象的だった。
●●●
「流石に、きますね。酔ってしまったらしい。」
「殿下、あまり飲み過ぎますと明日以降障りますよ。ミルクを取ってきますね。」
エストレアはちょうど通りかかったメイドを呼び止めるとミルクを取ってくるよう命じた。
程なくして、グラス一杯のミルクが運ばれてきてそれを受け取る。
「ありがとう。」
「何かあればお申し付けください。」
「エストレア、君はなんというか貴族らしい。羨ましいよ。」
「買い被りです。思ったことをしているだけで。」
エストレアは受け取ったミルクをジェラルドに手渡すとジェラルドは苦笑しながらエストレアを見つめていた。酔っているからか少し顔が赤く感じるのは気のせいか。
そろそろ夜風に当たりたいと思ったエストレアはジェラルドに提案をする。
「殿下、もし良ければテラスに出ませんか?風に当たれば少しは酔いも晴れましょう。」
「見事な月だ。こういう時、酒でなくてもミルクでも美味いと感じるのだな。」
「私は月は不思議な感じがするのです。なんといいましょうか、ざわつく感じが。」
テラスへと移動した二人。両者とも従者を下がらせて二人きりの月明かりの舞台へ。
ロマンティストの持ち主ならば愛を囁くのだろうがこの二人にはそれはなかった。少なくてもエストレアには。
「そういえばこんな夜でしたね、殿下を殴って、そのあとの仲直りの際。」
「恥ずかしいので、忘れてください。」
あはは、と笑うその場には立場というものは置き忘れてまるで友のようだった。
そんな中で、駆け足で向かってくるジェラルドお抱えのメイドが。メイドといえど、諜報用に訓練された、メイドであるが。
「どうした?」
「どうしてもお耳に入れていただきたく。警備に当たっていた巡視兵、近衛の一部から連絡が途絶えた為に調査していたのですが………。殺されていました。殿下、中に入ってください。クワイエット家エストレアお嬢様も。」
ありえない話ではないが、何かおかしい。ジェラルドは特に気にしてはないが。
この身体が敏感に反応している。
だって、メイドの身分で王族と公爵の子息が話しているところに割り込んでくるものなのか?と。
奇しくも同じことを考えていたジェラルドはこの目の前のメイドに目を細める。
「今日はめでたい祝誕会ですので、情報は御方方に耳に入れていません。」
なるほど、一応理には叶っている。ここにいるのは未来に祝福するために祝われた貴族の子が殆どだ。そんな場に血生臭い話は良くないのだろう。
「そうか、エストレア嬢、中に入ろう。父上に奏上しなければ。」
「行きましたね…………。ふう、バレてはいないようだな。」
二人が中に入るのを見届けるとメイドは顔の端からペリペリと剥がしていく。現れたのは包帯で顔を隠したおそらく女性、が表す。
この人物は存在はする。しかし、過去のものだ。嗅ぎつけたところは評価するがまだ甘い。こうして作戦が遂行しやすくなった。
ポケットから連絡用の魔法石を取り出し合図を出す。
「獲物は檻に入った。No.9はこれより陽動に入る。」
『了解、作戦を開始する。』
●●●
「父上。」
ジェラルドはテラスから中に入るなり父であるアグラエィン王を探すと割と早く見つかった。
側には即位してから支えてくれたと聞かされた重臣、クワイエット家当主アーノルド卿と軍務元帥アイアノス卿がいる。
「どうした、ジェラルド。クワイエット家の令嬢とはいい感じに迫れたか?」
何を言っているんだ、この父は。確かに気にはなってはいるけど、エストレアは私のことを親愛でしか見てないことはわかってる。それがモヤモヤしている原因ではあるけれど。
「陛下、戯れを。まだ、私はあの子を手放す気はありませんぞ?」
「おいおい、お前が一番酔っているじゃねえか、親バカも大概にしとけよ、ガハハハハハッ!!」
「そんなことより。今、抱えの者から聞き捨てならないことを耳にしまして………」
突如として宮殿内すべての照明が消えた。
「なにが起きた!予備の魔力源に切り替えろッ!」
アイアノスの声と共に落ちた照明は灯る。しかし、次の瞬間にはカランっ、と乾いた音と一緒に辺りに煙が発生しそして、一瞬にして視界が塞がれて貴族達や子息達はパニックに陥る。
いつのまにか、ジェラルドの姿も、重臣の姿もない。
「魔力のこもった誘導型の煙幕か………!!」
十五年前の戦役で使用された暗殺用の魔道具。それだと感づいたのは、ひとえにアグラエィン王の経験によるものだった。
●●●
煙の中、視界が塞がれている中でエストレアはまるで、誘導されるように歩いていたジェラルドを見つけた。しかし、単に見えない視界で離れてしまっただけかもしれないと思い、声をかける。
「殿下!!ご無事ですか!?」
「エストレアか!ゴホ、ゴホ大丈夫だ!!」
煙の中、僅かに揺らめく人影。エストレアはそれを捉えた。ジェラルドに近づく白刃を持った存在を。
(暗殺者・・・っ!)
「危ないッ!!!」
駆け出してジェラルドを突き飛ばし、自身が盾になる。そして白刃がエストレアの胸元に吸い込まれた。
煙と満月の夜に鮮血が噴き出した。
やっと、次回から覚醒シーンに入れそう。今年度はこれが最後かな。
さて、どう詰めていこうかな……
 




