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94.お金を稼ごう!~ライゼル編~

 ――店内への来訪者を知らせる、鈴が鳴り響く。

 紫煙の漂う室内。軋む床を踏み締めつつ、薄暗い室内へと身を投じる。

 背後で扉が閉まる。

 奥のバーカウンターで気だるそうに腰掛けている、キセルを加えた白髪の老人を視界に入れる。


「……悪いが、まだ営業時間じゃないんだ。後で出直してきてくんねぇかな?」


 横目でこちらを確認した白髪の老人は、面倒臭そうにそう告げる。


「仕事の依頼だ」

「仕事? 何の仕事だってんだい? そもそも仕事の依頼って、兄ちゃんギルドってモンを知らないのかい?」

「知ってるよ。ギルドを通せない依頼ってだけだよ」


 バーカウンターに体重を預け、白髪の老人と相対する。


「この辺りにのさばってる悪党の情報が欲しい。前金で金貨20枚、良い情報なら追加で30枚出す」


 カウンターの上に、金貨20枚を広げる。

 白髪の老人の目元が、ピクリと動く。


 フィーナ達には金が無い、とは言ったが。

 実を言うと、まだ金はあるのだ。

 しかし、元手が無ければ首が回らなくなるので、金が尽きない内に金策に走らねばならないのだ。

 大金を得る手段というのは、時間か、運か、元手か。そのどれかが大抵必要になる。

 時間なんざ無いし、運も俺には向いていないとくれば、元手以外の選択肢は無い。

 この元手は、更なる大金を得る為の手段。


「兄ちゃん、聖王都の軍の関係者か何かかい? どっちにしろ、そんな悪党退治するならギルドで大々的に募集すりゃ良いじゃないか」

「――それだと、悪党が溜め込んでる財産を国に渡さなきゃ行けねえじゃねえか」


 俺は"金を得たい"だけなんだ。

 だが、弱者や罪の無い人から奪い取るのは信条に反する。

 それに、そんな事したらお尋ね者になっちまう。

 その点、悪党は本当便利だぜ。

 金をしこたま溜め込んでくれてるし、例えその金を奪われたとしても泣き寝入りするしか無い。

 お尋ね者が「金を盗まれた」とか言って国に泣きついても相手にされず、そのまま牢屋にぶち込まれるだけだしな。

 楽して大金を稼ぐってのは、こうやるんだよ。

 なぁに、どうせ目の前に居るのは弱者を食い物にし続けてきた悪党ばかりだ。

 何人殺そうが、俺の心はなーんにも痛まないからな。


「俺様の言わんとしてる事、分かるだろ?」

「……兄ちゃん正気か? 自殺ならもっと苦しまない方法を選ぶんだな」

「別に俺がどうなろうが爺さんには関係無いだろ? 爺さんは情報を売って金を得るだけ。んで、例え俺がその後死んだとしても馬鹿の死体が何処かに転がるだけ。それだけの事だろ?」


 白髪の老人は、キセルを口に咥えて大きく息を吸い込む。

 虚空に向け、その紫煙を多量に含んだ吐息を吐き出す。


「――ザックリとだが、情報はある。この周辺にどうも、砂狼(さろう)(きば)(ねぐら)があるらしい」

「ほぉ~、こりゃまたデカいネズミの情報だな」


 砂狼(さろう)(きば)

 その名前、ちょいちょい聞くな。

 ま、どうも世界最大の裏組織って話だし、世界中でその名を聞くのは不思議でも何でもないが。


「これに関しては、そもそも街中で噂になってるから大した情報じゃない。肝心なのは、その塒が何処かって話だ」

「尻尾を掴んでるのか?」

「……少し時間を寄越せ」

「如何程だ?」

「読めんな。この街の貴族様が有する兵の目を掻い潜ってる以上、そんな簡単には見付からんだろうさ。だが、まぁ……二週間、もしくは三週間って所か」

「随分時間が掛かるな」

「奴等用心深いんでな。そんな簡単に見付かるような連中ならあの時"魔王"が殲滅してるさ」

「成る程、そりゃ道理だ」


 連中、過去に一度あったっていう国家主導の大規模掃討作戦の渦中を逃げ延びてるらしいからな。

 国を相手にしておいて、多少の被害こそあっただろうが肝心の首根っこは掴ませなかったみたいだし。

 そんな連中がそう簡単に見付かる訳も無いか。


「分かった、三週間までは待つ。それを過ぎても何も無いなら今回の話はそれで終わりだ」

「兄ちゃんの期待に添えるように、ま、それなりにやってやるさ」


 前金の金貨20枚はそのままカウンターの上に残し、店内を後にする。

 砂狼(さろう)(きば)、か。

 末端組織とかなら度々世話になってるな。

 連中、上納金納めた直後でも無ければ中々良い懐具合だからな。



 効率の良い稼ぎ方ってのは、ある所から奪う。

 やっぱこれに限るんだよな。



―――――――――――――――――――――――



 調査には時間が掛かるとの事なので、時間潰しをする事にした。

 一応、俺もギルドカードを有してはいる。

 アレには銀行のような機能も搭載されているので、持っていれば常に大量の金貨を持ち歩くという馬鹿馬鹿しい行為をせずに済むからな。

 だが、ギルドの仕事をする気はまるで起きない。

 以前はギルドカードのランクを上げる為に仕事を請けていた時はあったが、ハッキリ言って費用対効果を考えれば馬鹿馬鹿しくてやっていられない。

 一週間二週間掛けて、金貨10枚20枚。

 アホらしい。それだけの時間があれば、ある場所から奪えば一度に金貨千枚万枚は稼げる。

 特に、俺が使い捨て気味で普段使いしているミスリル銀は、本来非常に高価な代物だ。

 魔法技術の世界において最高クラスの素材であり、需要に対し産出が非常に少ない。

 市場流通価格によってかなり変動はするが、高騰している時は1キロ当たり金貨千枚にまで達する事もあった。

 使い捨てにしている都合上、目減りする。減ったなら買い足さねばならない。

 普通にギルドで働いて、稼いで。そんなもん、雀の涙にしかならない。

 だから、俺はそんな無駄な事はせず、体力温存や自己鍛錬の時間に余暇を当てる。

 それだけやっていても気が滅入るので、気晴らしにフィーナの顔を覗きに行った。

 馬車の上でマヌケ面晒していたので、頬を突いたら頭を叩かれた挙句、馬車から突き落とされた。

 おのれ。俺様じゃなかったら大怪我だぞ。


 ムカついたので日を挟んで更にフィーナにちょっかい出しに行った。

 その時は交代で夜の番をしていたようで、フィーナが貧しく缶詰で腹を膨らませようとしていた。

 なので、アレルバニアで人気だというストロベリークリームサンドを買って目の前で食べた。


「いや~流石アレルバニア人気商店の目玉商品だぜぇ~! イチゴの甘味と酸味、そして生クリームの奏でる絶妙なハーモニー! これでお値段銅貨3枚だってんだから出血大サービスだぜぇ! ん? おやおやぁ~ん? 誰かと思えばフィーナちゃんじゃぁ~ないですか! そんな安っぽい魚の缶詰で腹を満たさなきゃいけないなんて、なぁ~んて哀れな境遇なんざましょうか! 俺様だったらとても耐えられないねそんな貧乏臭い食生活!」


 顔面をぶん殴られた。

 色男の顔に向けてだ。一切躊躇いが無かった。この美貌が損なわれたら偉大なる損失だってのにだ。

 それから残りのストロベリークリームサンドも略奪された。

 めっちゃ美味そうに食べてた。おのれ!


 馬車の上でまーたアホ面晒していたのでストロベリークリームサンドの仇を討つべく、頬をつねってやろうとした。

 しかし俺の襲撃を察知したのか、腕を捕まれそのまま投げ飛ばされた。

 危うく車輪に巻き込まれる所だった。俺じゃなかったら巻き込まれて大惨事になる所だったぞ!

 生意気にも反撃してくるとは! おのれ!


 折り返し、再びアレルバニアまで戻る車両に乗っているフィーナを発見した。

 なので襟首から背中に氷を入れてやった。

 氷は近くに川が流れていたので、そこの水を凍らせて生み出した。

 ひぎゃああぁぁ! とか滑稽な悲鳴を上げた。

 ざまぁみろ。油断してるからそうなるんだ。

 ストロベリークリームサンドの仇は取ったぜ。

 その後、一本背負いで横に流れていた川に突き落とされた。危うく滝壺に落ちる所だった。おのれぇ!



 フィーナをいじって日々を過ごしていると、求めていた情報が入ったとの報告が届いた。

 砂狼(さろう)(きば)がアレルバニア周辺に潜伏しているのはやはり確定事項らしい。

 怪しい人の流れを辿った所、街から少し離れた山間部に向けて不可解な人の動きがあったとの事。

 巧妙に隠してはいたようだが、企業秘密というか、蛇の道は蛇というか。

 口外出来ないようなルートで情報を仕入れてきたようだ。


 さて、場所の情報も手に入った事だし。

 そろそろ動くか。もうじき期日の一ヶ月になるしな。

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