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92.お勉強です

 自己流適性判断を行った後、リンディには普通に魔法を教えていった。

 今までのような雑談交じりだったり、慣れ親しむ方向からいよいよ本格的な教え方に舵を切る。

 教え方自体は別に自己流という訳ではなく、普通に王立魔法学院で教師陣が振るう教鞭同様である。

 ただ、教える内容を水属性限定にして狭く深く教えているだけだ。

 他の属性に関しては理解が浅くなるだろうが、短期間でより高い結果を出すとなればこの方法しかあるまい。

 一極集中。適性のある属性に的を絞って他は捨てる。



 本格的な授業に入り、二週間程経った。

 リンディは元々の下地が良いのか、それとも知らず知らずに親の背中を見てイメージを掴んでいたのか。

 まるで乾いた布に水を垂らすが如く知識を吸い上げていった。

 こればっかりは、親に感謝という奴なのだろう。


 ……親、か。


「――セレナ先生? セレナ先生?」


 ぼんやり虚空へと飛ばしていた意識を引き戻すと、私の袖を引っ張っているリンディの姿を確認する。


「ああ、ごめんね。どうかした?」

「あのね。セレナ先生、いっしょにごはん食べよ!」


 壁面にあった時計に視線を向ける。

 時刻は夕方6時。

 夕食の誘いという事か。


「そっか。私は良いけど、リンディちゃんのお父さんは良いって言ったの?」

「うん! 先生にお話もあるから、いっしょに食べていいって!」


 ……つまり、ハンスからのお誘いでもある、と。

 なら、断る理由も無いか。


「分かった。じゃあ御一緒させて貰うね。リンディちゃんのお父さんに伝えて貰えるかな?」

「分かった!」


 そう言うと、リンディは部屋の扉を開けて、パタパタと駆け足で廊下を走り出した。

 元気な子だ。

 もし、私も両親に愛されて育っていたなら、リンディのような子になったのだろうか?


 …………そんな事を考えても、過去は何も変わらないけど。


 二分位したら、リンディが部屋に戻ってきた。

 何でも、料理の支度が出来次第、使用人を寄越すらしい。


「じゃあ、時間が来るまでお勉強の続きしようか」


 リンディが口を尖らせたので、この提案は却下となった。



 使用人から食事の用意が出来たとの報告があったので、リンディと共に食卓へと向かう。

 着席し、高級レストランでなければ食べられないような上品な食事を口に含み、舌鼓を打つ。

 貴族とは言うが、ファーレンハイトの貴族というのはピンからキリまである。

 一般大衆がイメージする華やかな貴族のイメージそのままの者もいれば、裕福な平民に懐事情で敗北を喫する程に家計事情が切迫した、爵位があるだけの名前だけ貴族というのも存在したりする。

 ネーブルハイム家は、前者のタイプのようだ。

 こうして家庭教師として邸宅を何度も訪れたが、財政事情が圧迫しているとか、そういう気配が何処にも感じられない。

 私達が現在滞在している交易都市アレルバニアは、ロンバルディア共和国との交易の中継点として物資を一身に受ける大都市。

 そこを治める貴族ともなれば、半端な家柄や実力の貴族を置いている訳が無い。

 勝ち組、上流階級と呼ばれるタイプである事は疑いようが無かった。


 食卓に並べられた食事をある程度平らげ、腹も満たされた。

 良い頃合なので、ハンスへと本題を切り出す。


「――そういえば、ハンスさん。私にお話があると聞いたのですが、どんな内容でしょうか?」

「おお、そうだったな。実は、リンディが聖王都の魔法学院に通いたいと言い出しましてね。行かせるのはまぁ、一向に構わないとは考えているのですが。セレナさんの目から見て、リンディはどう見えますか?」

「どう、とは?」

「聖王都の魔法学院は他の分校と違い、非常に高度な魔法の学習を行っていると聞いています。うちのリンディは、そこでもやって行けそうでしょうか? 親の目から見ると、どうしても贔屓目が混ざってしまうので、第三者であるセレナさんの意見を伺いたいと思いまして」


 確かに、聖王都の魔法学院は他の分校よりも遥かに高度な魔法形態の学習を行っている。

 だがそれは所謂エリートコースと呼ばれるモノであり、全員が全員そこのレールに乗れる訳では無い。

 また、学院の理事長が門は広くという考え方なので、エリートだけがそこで学んでいる訳でも無い。

 魔法使いとしては凡夫、と呼ばれるような人であっても、あの学院の卒業生というのは良くある話だ。

 だが、ハンスが聞きたいのはそういう概要的な話ではないだろう。

 なので、私があの学院で暮らしてきた内容を参考に……いや、ちょっと私の学院生活は一般的とは呼べない。

 なら、プリシラの方の生活を基準に……駄目だあっちもカーバンクル連れてるせいで結構トラブルに巻き込まれてた。

 あれ? もしかして私の交友関係、トラブルの種持ってるような人しか居ない……??

 むー!


「少なくとも、今のまま成長するのであらば。秀才天才と呼ばれるレベルにまで至れるかは保証出来ませんが、落第点を取るようなレベルでは間違っても無いと思います」


 振り返ってまさかの参考案件ゼロという惨状を自覚したので、当たり障りの無い回答を述べておいた。

 仮にも貴族様の御令嬢ともあろう人物が、まさかの落ちこぼれだった。

 そんな事になったら、ネーブルハイム家の面子が潰れてしまう。

 ……とか、そんな感じの心配だろう。無論、それだけでなく親心なんかも含まれているのだろうが。どっちの比率が上かは、まぁ、ここでの様子を見るに親心の方が大きそうだけど。

 貴族の面子とやらは未だに良く理解は出来ないが、その心配は無用だとの意を伝えておく。

 エリートコースと呼ばれるクラスに入れなかったからって、魔法使いとして落第だという訳でもない。

 最低限の魔法を使えるだけで、口に糊する程度ならば困る事は無い。

 地属性魔法ならば建築方面で生計を立てられる。

 水属性魔法ならば水に乏しい地域での飲料水確保や、それこそ水害なんかが起きた日には対策でてんてこまいになるのが目に見えるし。

 炎属性魔法は、戦闘以外だと確か製鉄とかそういう所で活躍してたはず。

 風属性魔法……に関しては、良く知らないけど確かロンバルディア共和国で何か需要があったとか聞いた気がする。

 そんな感じなので、例えどんな属性の適性だろうと、戦闘職になれる程の腕前でなくとも、魔法をある程度使えるならば職にはいくらでもありつけるのだ。


「内包する魔力量なんかも、今後の生活の内容でいくらでも変化しますし。リンディちゃんはまだまだ子供ですから、これからいくらでも成長する余地があります。魔法学院に入学したとしても、きっとやっていけるはずです」

「そうですか……! なら、リンディ。入学、してみるか?」

「うん!!」


 ハンスの問いに、目を輝かせつつ満面の笑顔で頷くリンディ。

 ちなみに、リップサービスをする気はさらさら無いので、事実だけで回答しておいた。

 こういう実際に実力が絡む点に関しては、お世辞を述べた所ですぐにボロが出る。

 それに、下駄を履かせたりするまでもなくリンディの実力は高いと私は見ている。

 少なくとも、私が学院で学んでいた際の初年度の頃の自分と比較したら、リンディの地力の方が圧倒的に高い。


「……王立魔法学院に入学するのなら、私の仕事はこれで終わり、という事でしょうか?」

「いやいや。セレナ殿には是非ともこのまま、満了まで引き続き依頼をお願いしたい。それに、リンディもセレナ殿を気に入ってるようだしな。セレナ殿にも都合があるのだろうから無理強いは出来ないが、契約満了までは引き続き家庭教師の件、改めてお願いするよ」

「そういう事でしたら。残り一週間程度ですが、最後までお付き合いさせて頂きます」


 リンディが入学、か。

 という事は、リンディは私の後輩になるという事か。

 ……これからすぐに入学という事ならば、まだプリシラが在学中だし。

 顔を見る程度でも良いから気にかけてあげて、とでも伝えておこうかな?

 私が直接見る事は出来ないけど、この位の配慮ならばしても良いだろう。


 何だかんだ。

 素直な愛嬌を浮かべる、リンディという子を私も気に入ってるみたいだからね。

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