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8.回収

 結局、あのメガネ野郎は雑魚じゃないだけであった。

 こんな程度で死にやがって。

 だが見せしめとウサ晴らし程度には多少は役に立った。

 クソみてぇな情報を流して俺様の邪魔しやがって。良い気味だ。

 手にした短剣を鞘に収める。

 俺の近辺には吹き抜ける風と擦れる枝葉の音以外、何も存在しない。

 吹き飛ばした賊連中はどうなったか、そんな事は一切気にならない。

 無事逃げ延びてても、木に叩き付けられて死んでたとしても、どっちでも良い。

 どっちに転んでも、悪党にはお似合いの末路だ。


 さてと。

 さっき吹っ飛ばした馬鹿を回収しないといけないな。

 どっかの枝にでも引っ掛かってんだろ。洗濯物みたいに。



 俺が常時張り巡らせているレーダー網を頼りに、フィーナの居場所まで一足跳びで駆け抜ける。

 探知圏外になるような出力にはしてないから、お陰であっさり居場所は判明した。


「何処よここー!?」

「なーに迷子のテンプレみてぇな悲鳴上げてんだ。ガキかテメェは」

「うひぇっ!?」


 咄嗟に飛び退く動作を見せるフィーナ。

 めっちゃビビッてやんの。ざまぁ。


「って! 誰がガキよ! アンタの方がよっぽどガキじゃない! 私より背低い癖に!」

「身長はァ! 関ッ係ねーだろうがよぉ!!?」


 チビって言う奴がチビなんだよぉぉ!

 好きでこんな身長でいるんじゃねえし! 成長期止まってんだから仕方ねぇーだろうがぁよぉ!!


「さっきの突風、ライゼルの仕業でしょ!? あんな風起こすなら一言位何か言いなさいよ!」

「ハッ! 捕まってるバカになーんでイチイチそんな配慮しなきゃなんねーんだよ! 悔しかったらもっと強くなってみろよほれほれ~」

「それに! 私だけじゃなくてあそこに居た全員無差別に吹き飛ばしたじゃない! 助けたあの女の人達は一体どうしたのよ!?」

「ああ? おいおいフィーナちゃ~ん。俺様お前みたいに脳みそ筋肉じゃねえんだからその辺はちゃーんと考えて行動してんだよぉ」


 まるで何の罪も無い人々を殺した、殺人犯を糾弾するかのような口調になっていたフィーナに対し、サックリと説明する。

 悪党やクズがどうなろうが知った事じゃねえが、生憎俺様は特に何もしてないような相手に手を挙げる程落ちぶれちゃいない。

 フィーナが洞窟の奥から引っ張り出してきた女性達は全員、吹き飛ばしはしたが指向性を与えてある。

 地面や木々に衝突する前に魔力を練り上げて作ったエアクッションで衝撃を殺し、一箇所に固めて保護してある。

 レーダー網にもちゃんと引っ掛かってる。全員無事だ。


「俺様、レディには優しい男を自負してるからねぇ~」

「良かった……無事ならそれで――ん? ねえ待って。私無事じゃないんだけど。思いっきり木の幹にお腹ぶつけて『おぐえっ』ってなったんだけど」

「お前はレディじゃねえだろ」

「レディですー! 私ちゃんと女性っていう性別ですぅー!」

「レディってのはお淑やかだったり愛らしかったり思わず庇護欲を刺激されるような麗しい女性達の事を言うのであってお前みたいな暴力猿はレディとは言いません。メス猿って言うんです」


 おぐえっ!



―――――――――――――――――――――――



 フィーナに全力で腹パンされた後、先程吹き飛ばして保護していた女性を固めている場所まで向かう。

 当然だが、俺が原因で彼女達に傷が付くような事は無かった。

 こんな簡単な操作、しくじるようなヘボじゃねえしな。


 フィーナが全員無事である事を確認している。

 自分達が助かったという事をフィーナから告げられた事で、緊張の糸が切れたのか、途端に泣き崩れる女性達。

 あーあ。放って置けば良いものを。なーんでわざわざ面倒事に首を突っ込むのかねえ。


「取り敢えず助けたけど……どうしようかライゼル?」


 ほーら出たよ。

 後先考えないで行動しておいて尻拭いを俺にさせようって魂胆なんだろ?

 これだから嫌なんだよ。


「一先ずロゴルニア村まで戻るぞ」


 ここじゃ茂みから唐突に魔物が出てくるかもしれないし、話はそれからだ。



 邪魔な木を削り飛ばしつつ、フィーナが保護した女性達を引き連れてロゴルニア村まで戻ってきた。

 村には、誰も居ない。

 ああ、予測が当たっちまったか。

 やっぱり村人なんてそもそもこのロゴルニア村にはもう誰も居ませんでした、ってパターンだ。


 助けた女性達から沸きあがる、これからどうすれば、という先の見えぬ不安が容易に見て取れる。

 この村に居た男は、もう誰も居ない。

 殺されたのかどうなのかは知る由も無いが、あの連中が原因でどうにかされたのは間違いない。

 村の家なんかは無事だから住む場所には問題無いのだが、それ以外が問題だ。

 この村は見た所、耕作か狩猟か、もしくは両方か。自給自足で成り立っている村だと見た。

 って事は、畑を耕したり農作物を収穫したり。獲物を射止め捌いたりする力仕事は必ず付き纏ってくる。

 女手だけでどうにかなるような状況ではない。

 現状、この村は詰んでるのだ。


「私達だけで、一体どうやってこれから暮らしていけば……」


 一人の女性が、ポツリと漏らす。

 助け出した所で、結局こうなるだけだ。


「ねえライゼル。私達が代わりに食料とか取って来れないかな?」

「やりたきゃ一人で勝手にやってろ。テメェがどんだけ頑張ってもこの人数を食わせるだけの食料なんて絶対に手に入らないだろうがな」

「でも、何もしない訳には……」

「今のお前に、これ以上出来る事なんてねぇよ」


 フィーナは神様でも王様でも無いのだ。

 無理な事は無理、お前にはどう足掻いてもこの村を建て直す事は不可能です。


「でも……」

「でもでもだってとグチグチ言ってても人手が増える訳でも食い物が手に入る訳でもねぇんだよ。もう少し頭使って現実的な案を出すんだな」

「だったら、ライゼルも一緒に考えてよ」

「俺様が助けた訳じゃねえしな。俺様はフィーナちゃんがしでかした騒動に巻き込まれて、その後始末をやらされてるだけなんだからよぉ。俺としては、命が助かったんだから後は自分で考えろ、って捨て置く結論がとっくに出てるんですけどー?」

「だけど、このまま放ってなんて置けないよ……!」

「だったらそこで一生迷ってろ。俺は付き合う気は無いから、先に行かせて貰うぞ」

「あっ! ちょっとライゼル!?」


 踵を返し、助け出した女性達に背を向け、次なる目的地に向かう事にする。

 下らないガセ精霊騒ぎでとんだ寄り道する事になったが、俺の目的は精霊以外にも存在する。

 足を止めてる暇など、全く無い。

 ロゴルニア村を後にし、次の目的地に向けて足を進めていると、途中からフィーナが追い付いて来た。


「何処に行く気なのよ!」

「聖王都だよ。あそこにも用事があるからな」

「王都に行くの!? あっ、だ、だったら! 王様に何とかして貰えるように頼んでみようよ! きっと助けてくれるはずだよ!」

「フィーナちゃんみたいな野暮ったい小娘に王様が会ってくれるとか本気で考えてんのかぁ?」

「行ってみないと分からないじゃない! それに、今の国王様って賢王って呼ばれてる位、とっても皆に優しい王様って聞いたよ!? 絶対何とかしてくれるはずだよ!」


 結局、最後は他人任せか。

 だが、結局現実的な案はその辺りが限界だろう。

 犯罪の被害者の救済は、国レベルでなければどうしようもない。

 金や力を持っている人ならば個人の力でも助けられるかもしれないが、フィーナにはそのどちらも無いのだから。


「……あの王様が、優しい、ねぇ」


 それは絶対、間違った視点だと俺は断言出来るね。

 あの王様は、優しさとは最も掛け離れた、合理性と激情で動くタイプだよ。

 なまじその動きが、民衆の為になっているのが余計タチが悪い。


「私、あの人達に国王様に何とかして貰えるように頼んでくるって伝えてくる!」


 折角俺の所まで走って来たのに、再びロゴルニア村まで向けて走り出すフィーナ。

 何がしたいんだアイツは。

 少しの間待っててやると、流石に息を切らせながら再度フィーナが俺の元へ戻ってきた。


「よ、よし……お待たせ……それじゃ、聖王都、行こう?」

「俺の用事が済んでも、グダグダやってるようなら置いてくからな」


 聖王都に行くのも、久し振りだな。

 前に行った時は、あの勇者様もご一緒だったしな。

 アイツは一体、何処で何してんのやら。


「聖王都かぁー! 私、王都に行くの初めてだよ! きっと凄い綺麗な場所なんだろうなぁ!」


 先程までの陰鬱とした空気が一気に霧散し、随分と明るい笑顔を浮かべ話し掛けて来るフィーナ。

 割り切りの早いヤツだなオイ。



 多くの人々の身体と心に、深い傷跡を残したニセ精霊騒ぎはこうして幕を下ろした。

 次に向かうは、聖王都。

 人類の大半が暮らす、ファーレンハイト領における最古にして最大の首都。


 しかし、この時の俺はすっかり忘れていた。

 聖王都にはそれ以外のタイミングで一度、訪れていたのだ。

 そして、聖王都に面倒臭い爆弾を放置していた事を、この時の俺は完全に失念していたのであった。

つまりヒロイン枠。

取り敢えずキリが良いので今日はここまでにしときます。

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