87.お金を稼ごう!~セレナ編~
メリー苦しみます
楽して大金を稼ぐ。
こんな事を他人に言えば、何を寝惚けた事を言っていると即断されて終わりだろう。
しかしだ。
ここに一つだけ条件を付け加えると、寝言は現実に変わる。
その条件とは――"元手"である。
普段、人々が額に汗して日々の糧を得ている中。
金持ち共が昼間から異性をはべらせ酒を呷りながら、その手元に大金が転がり込んでくる。
そんな事が可能になっている理由が、元手である。
元手という資産を使い、自らの手足の代わりとなる人物を雇用し、口一つで指示を飛ばし、金を得る。
決して空手では出来ない、元手あってこその手段。
そしてこの元手というのは、何も金に限った話ではない。
学力、権力、魅力……ありとあらゆる力は、その元手に成り得る。
「この依頼、請けます」
フィーナやミサトがカウンターで騒いでいるのを横目に、淡々と男性職員に依頼表を手渡す。
「……ギルドカードを確認しても宜しいですか?」
「どうぞ」
職員がギルドカードの内容を確認し、僅かに目を見開く。
小さく息を呑むが、すぐに平静を取り戻した。
「――確認しました。確かに募集要項を満たしているようですね。使いを出しますので、返答が届き次第、セレナ様に御連絡致します。連絡先はどちらに致しますか?」
「向かいの宿に泊まってるから、そこに伝えて下さい。時間が無いので、早めにお願いします」
「かしこまりました」
相手側の都合もあるので、今日請けて即日、という訳にも行かない。
2、3日位は待つ必要があるだろう。
返答までの待ち時間は、買い出しと下準備で潰れる事になるだろう。
今回、私が請けた依頼は貴族様の御息女、その家庭教師である。
ゴールドランクが対象だがシルバーランクの人物でも応相談。
貴族様だけあって、半端な連中には用は無いという事か。
行き成り強烈な足きりラインを定めてきているが、私はゴールドランクなので難なく満たしている。
御息女に対して教える内容が魔法の扱い方、との事なので当然ながら魔法を使える必要がある。
そしてその実力の証明手段として、聖王都の王立魔法学院を卒業済み、という内容が設けられている。
この条件は本来であらば中々キツい条件なのだろうが、私は既に卒業した身なので何の問題にもならなかった。
条件は非常にキツい。
だがそれだけに、報酬はそれ相応な高収入。
金額だけ見れば、誰も彼もが我先にと飛びついて当然の依頼内容だが。
前提条件が過酷過ぎて、請けられる人物が居なかったので掲示板に残されていたのだろう。
私からすれば、実に美味しい依頼でしかないけど。
依頼内容が教育だという事なので、街中で教育に便利そうな品物を仕入れる。
用意してるとは思うが、一応筆記用具等も購入しておく。
その後は宿を取り、返答待ちの状態だったのだが。
返事は翌日には届いていた。随分とフットワークが軽いわね、助かるけど。
「――セレナ・アスピラシオン様でお間違い無いでしょうか?」
高級そうな紳士服に身を包んだ、育ちの良さそうな、やや白髪の混じった中年男性。
見るからに、世俗とは一線を画していますという出で立ちだ。
「そうですが、貴方は?」
「私の名はハミルトンと申します。ハンス・ネーブルハイム伯爵の使いとしてやってまいりました。お迎えに上がりましたので、どうぞこちらへ」
昨日請けた、貴族様の家庭教師依頼。
どうやらギルドに出向かずにそのまま向かう事になるようだ。
表に停められた馬車へと乗り込む。
街道を走る馬車は街から少しだけ離れ、林間に建設された豪邸、その門を潜っていく。
城壁に囲まれた街中の方が安全だろうに、わざわざ街の外に作るとは。
無論、ここも外壁に囲まれているので安全といえば安全だが、貴族の邸宅と大都市の防衛機構では比較にならないものがある。
どういう理由があるのかは分からないけど、贅沢である事は間違いない。
「主人がお待ちです。そのまま真っ直ぐにお進みください」
馬車を降りると、目の前には開け放たれた正面玄関。
指示された通りに進む。
吹き抜けのエントランスの天井からは宝石の如く輝くシャンデリアが釣り下がり、床には真紅の絨毯が敷き詰められている。
二階へと上がる階段を背にした、一人の偉丈夫の姿。
「貴女が私の依頼を請けてくれるという、セレナという方でお間違い無いかな?」
片手に持っているステッキでコツコツと床を叩きつつ、その男は私へと訊ねる。
黄金色の輝きを宿した双眸でこちらを見据え、自信に満ちた笑みを浮かべている。
目鼻立ちの整った美形であり、やや暗い金髪をオールバックで撫で付けてある。
歳は、大体40かそこらだろうか? 貫禄はある。
恐らく――
「私がこのアレルバニアを治める領主、ハンス・ネーブルハイムである」
やはりそうか。
主人直々にお出ましのようだ。
だが、この邸宅の主人としては少々服装がおかしい。
妙に使い古された、暗いトレンチコートを着込んでいる。
まるでこれから何処かに出掛けるのかといった出で立ち。
「セレナ・アスピラシオンと申します。ギルドの依頼を見て、ここまで足を運ばせて頂きました」
ハンスに対し、頭を下げる。
しかし……いや、出掛けるにしても貴族様がこの服装は無い。
何処かへ出向くにしろ、言い方は悪いがこんな薄汚れた服を選んで着る必要は無い。
貴族様ともなれば、自分の着る服位より取り見取りのはずだ。
「失敬ではあると思うが、貴女の経歴は調べさせてもらった。随分と奇妙な学歴をしているようだね。どうやら聖王都の王立魔法学院に在学していたのは間違いないようだが、常に学年主席の地位に居たにも関わらず、卒業を間近にして何度も留年を繰り返しているとは。一体何があったのかね?」
「それに答える必要は無いですね」
「ハッハッハ! 随分と強気だな! しかしこの留年というのが少し引っ掛かる。本当に娘を任せて良いものなのか、出来ればしっかりとこの目で確かめておきたくてね」
ハンスは手にした杖を、私へと突き付ける。
いや、ちょっと方向が違う。
私というより……私の入ってきた玄関を指してるようだ。
「貴女に少しばかりテストを行ってもらう。私が納得出来ない結果ならば、残念だが今回の依頼は諦めて貰おう」
……ふー。
成る程、大体この後に起こるであろう事が思い浮かんでしまった。
随分な自信家のようで。
「テストとは?」
「なぁに大した事ではないさ。私と貴女で、模擬戦を行って貰う。もし私に勝てるようならば、無条件で依頼をお願いしたい。それともし負けても、何か光るものが見られるようならばこちらも考慮するかもしれん。どうだね? この模擬戦、請けるかね?」
ああ、やっぱりか。
だからわざわざ、そんな出で立ちで面会したのか。
この都市、アレルバニアを治める領主。
大都市の顔とでも言うべき立ち位置であり、それ程の存在ともなれば、その領主はそれ相応の振る舞いが求められる。
みすぼらしい一軒家に住んでいたり、ボロきれを身に纏っていたりすれば、大した事無い男だと安く低く周囲に見られてしまう。
人間、どれだけ綺麗事を述べようとも外見は大事なのだ。
ここでいう外見とは、イケメンだとかブサイクだとかそういう意味ではなく、ちゃんと身なりを整えているかどうかという事だ。
大都市を治める領主ともなれば、相応に整った姿で人前に姿を現す必要がある。
そうでなくては、アレルバニアという都市はこんな薄汚れた顔をしているのかと、舐められてしまう。
だからこそ何故こんな服装でと考えたのだが、最初からこちらに模擬戦を挑む気だったならば、最初から着替えていた方が手間が省ける。
お高く綺麗な装束では、模擬戦で汚れるのが目に見えるからね。
請けなければ無駄手間になるが、わざわざこんな場所にまで足を運ぶ以上、請けない選択肢を取る者はほぼ居ないだろう。
無論、私もだ。
「――内容を聞かせて貰っても良いですか?」
「そうこなくてはな。表に出ようか」
ニイッと口元に笑みを浮かべるハンス。
白い歯がキラリと光る。
ナイスミドル、おじさまという分類に入るタイプの男性のようだ。
魅力的ではあるが、私の心にはまるで響かない。
だってほら、私の身も心もライゼル様のモノですから。
こうしてライゼル様と一緒に旅をするのも、きっと私とライゼル様の間に深い絆を育む為のモノなんですよ。
その為の困難、試練だというなら何でも来いってんですよ。
他の女二名よりも圧倒的に稼いで、稼げる女、出来る女の地位をガッチリゲット。
そしてライゼル様に認められて、それからそれから徐々に距離を縮めていって。
その内夜の寝室にお呼ばれして! 遂に私は! ライゼル様と結ばれ
ライゼル「何言ってんだコイツ」




