84.より高みへ
一週間程度の討伐の旅路は、終わってみれば随分と短く感じた。
野営の際のノウハウについてはライゼル殿達の行動を見ていた為、ライザック達の行動も基本的に同じのようなので、ここからは特に学ぶ事は無かった。
一週間の内、残り二日の辺りからは今まで過剰気味に取っていた安全マージンを切り詰めて行動した。
ある程度、知識は養えた。既知の敵に関してならば、最早拙者の障害足り得る魔物はこのランクとやらには存在しない。
見敵必殺、辻斬り上等の大立ち回りで片っ端から既知の魔物を切り捨てて回った。
「ミサトさん、今までありがとうございました」
帰りの馬車の中、対面の席に腰掛けたライザックが礼と共に頭を垂れた。
「ミサトさんと一緒だったお陰で、ルーシカも安全に魔物を狩る事が出来ました」
「ありがとうございます、ミサトお姉ちゃん」
ハッとしたような表情を浮かべ、ライザックに続くように会釈するルーシカ。
「いや、拙者も助かったでござる。ライザック殿のお陰で知るべき事を知れたでござるからなぁ」
「それにしても、本当にミサトさんって強いんですね……絶対、ブロンズランクで留まるような人じゃないと思います」
「……そうかも知れないでござるな」
ライザックの監督下でブロンズランクとやらに分類されている魔物と戦い、キチンと身を以って体感した上で。
このランクでは拙者の実力は見合わないと判断した。
そもそも、ライゼル殿はこの地に滞在する期間は一ヶ月と区切っていた。
その内の一週間は肩慣らしと実力の把握の為に費やした。
残りは三週間。しかし三週間目一杯に行動する事は出来ないだろうから、実働期間は後二週間弱といった所か。
それまでは、巻いていかねばならない。
金稼ぎというのは、楽して出来る事では無いのだから。
「帰ったら、また魔物討伐の仕事を探さねばならないでござるな。拙者には武芸しか取り得が無いでござるから、それ以外は出来ないし……短い時間で、なるべく多く稼がねばならんでござるからなぁ」
「えっ? 休んだりはしないんですか?」
「休んでる暇なんて無いでござるよ。それに、大して疲れてもいないし、休む理由も無いでござるな」
首を傾げるライザックに、急がねばならない理由を説明する。
「拙者、路銀が尽きたが故にこの街に滞在しているのでござるが、その期間は短いんでござるよ。もう、二週間と少ししたら恐らくこの街を発つ事になると思うでござる」
「そうなんですか……うーん、力になりたいけど、僕だと力になれなさそうですね……」
「気にする必要は無いでござるよ。これは、拙者の問題でござるからな」
馬車の動きが、止まる。
どうやらアレルバニアに到着したようだ。
魔物討伐の報酬を受け取るべく、ギルドへ一度立ち寄り、報酬の分配を行った後にギルドを後にする。
「それじゃあミサトさん、ここでお別れですね。道中、助かりました。もし何処かでお会いする事があったら、その時はよろしくお願いします」
「ミサトお姉ちゃん、バイバイ」
「こちらも助かったでござるよ。では、また縁があれば」
アレルバニアに戻ったのは昼頃だったので、今日は否応無しに休みだ。
この時間帯では、ロクな仕事も残っていないのでやるだけ無駄である。
なのでこの旅路で消耗した日用品の補充を行い、明日の仕事に備えるのが良いと判断した。
無論、今日は早々に宿を取って早めに就寝する事にした。
明日からは、より一層稼がねばなるまい。
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「あっ、ミサトさん!」
そんな意気込みをしつつ迎えた翌朝。
別れたライザックとの再会は、案外早かった。
「おや、ライザック殿。どうしたんでござるか?」
「ミサトさんを探していたんです。見付かれば良いな、程度の気持ちだったんですけど。見付けたんで少し声を掛けさせて貰いました」
どうやらライザックは、拙者の事を探していたようだ。
「何か用でござるか?」
「僕だとミサトさんの力にはなれないですけど、代わりにミサトさんの力になれそうな人を知っていたんで。丁度その人と昨日再会出来たんで、ミサトさんが良ければ紹介しようと思ったんですけど……お時間を取っても良いでしょうか?」
「構わないでござるよ」
ライザックの純粋な好意から来る行動なら、無碍にするのも悪い。
ライザックに手招きされ、ギルドの片隅の席へと向かう。
「……キミが、ライザックくんの言っていたミサトって子かい?」
腰掛けていたのは、やや不健康そうな白い肌をした女性であった。
年齢は、拙者よりも年上だろうか? 恐らく30代には行かない程度だろう。
何となくだが、以前ロンバルディアで出会ったイブラヘイムという男と雰囲気が似ているような気がする。
鋭い目付きの琥珀色の瞳に、無造作に肩まで伸びた黒髪。
ゆったりとした紺色のワンピースの上に、フード付きの黒い外套を羽織っている。
その傍らには宝石を埋め込んだ金属製の杖が壁面に立て掛けられていた。セレナと同様、アレが彼女の獲物なのだろう。
「紹介します。こちら、シルバーランクのエキドナさんです。それで、この方が昨日話したミサトさんです」
ライザックの紹介で、エキドナという名の女性と顔合わせを行う。
見た目からして、恐らくセレナ同様に後衛タイプの戦闘スタイルなのだろう。
間違ってもこれで前に前に突っ込んでいく事は無いはずだ。
「ライザックくんから聞いてるよ。ブロンズランクだけど、相当やるって話じゃないか」
「そこまでではござらんよ」
「謙虚だねえ。まあ、立ち話も何だから腰掛けたらどうだい?」
エキドナに促され、一先ず席に腰を下ろす。
「単刀直入に聞くよ。金を稼ぎたいんだって? なら、あたしと組まないかい?」
エキドナの話に耳を傾ける。
何でも普段エキドナはコンビで活動し、シルバーランクの魔物を討伐して生計を立てているらしい。
しかしながら、前衛を受け持っているコンビの片割れに不幸の知らせがあり、故郷に帰郷したとの事。
その為、エキドナは手持ち無沙汰な状態となってしまったらしい。
前衛が居なくなった状態では満足に戦う事は出来ず、かといって一人で倒せるような魔物を相手にしていても大して稼げはしない。
そんな状況で、エキドナの知り合いだというライザックから拙者の話を聞いた事で、拙者に白羽の矢が立ったとの事だ。
ただエキドナからその話をライザックが聞いたのは拙者と別れた直後だった為、今日拙者と会えるかどうかは偶然待ちだったので、会えなかった場合は素直に諦めるつもりだったらしい。
幸いにもこうして再会出来たので、ライザックの案内によって引き合わせられる経緯となった。
「ライザックくんから聞いてるよ。何でもブロンズランクにしておくには惜しい腕だって話じゃないか。キミが良ければだが、あたしと一緒に魔物討伐をしないかい?」
「……それは、シルバーランクの魔物を討伐するという事でござるか?」
「そうなるね」
「拙者、シルバーランクに該当する魔物に関しては知識が足りていないので出来れば遠慮したい所でござるな」
以前、フィーナと一緒にジャイアントキラーワスプという魔物と戦った際には、それなりに苦戦した。
死ぬ程の危機を体感したという程ではないが、それでも不意を突かれればどうなるか分からない程度には強敵であった。
「それもライザックくんから聞いてるよ。魔物に対する知識や戦闘経験が足りてないんだろう? 誰だって最初はそんなもんさ、それに金を稼ぐならそれ相応の苦労は必要さ。楽して稼げる、なんて文句を提示してる奴なんざロクでもないからね」
それは確かに道理でござるな。
「シルバーランクの魔物に関しての知識なら、自惚れではないけどちゃんとあたしは培われてる。気を付けるべき点は教えてやるからさ、キミが良ければ一緒にどうだい?」
「報酬の分配は?」
「無論、半々で構わないさ。キミは前衛を受け持てるんだろう? あたしは前衛が居ないと戦いようが無いからね、お互い様の割り切った関係で行かないか? フォローはしてやるからさ」
お互い様、という訳か。
悪くない話ではある。
このままブロンズランクの魔物をチマチマと倒していても、然程稼げはしないだろうし。
それに、ライザックの紹介であらば悪い人ではないのだろう。
「うーむ……そうでござるな。このまま足踏みしている訳にも行かない以上、何処かで踏み込んで行かねばならないだろうし……その提案、受けるでござるよ」
フォローはすると言っているのだ。
そろそろ拙者も、フィーナが活躍しているシルバーランクの世界に踏み込んでいく必要があるだろう。




