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83.見学でござる

「ミサトさんは、しばらく後ろで見てて貰って良いですか?」

「承知でござる」


 ライザックの指示により、拙者はしばらく見学となった。

 今現在、発見したワイルドウルフの群れを拙者とライザックで間引き、一匹を残した状態である。

 その残した一匹は現在、ルーシカが戦闘を行っている。

 実際に刃を交えているのは、ルーシカというよりルーシカの操る人形の方なのだが。

 まあ、拙者としては戦うというより知識を養うという面が強いので、見学は一向に構わないのが。

 ブロンズランクとやらに分類されている魔物は、キチンと知識が養われてさえいれば拙者の腕も十分通用すると理解した。

 良く分からない攻撃手段等で不意を突かれるのが恐ろしいのであって、それさえ無ければ問題は無いだろう。


「ルーシカ、やれそう?」

「大丈夫……!」


 唸り声を上げつつ、ルーシカを睨み付けるワイルドウルフ。

 そんなワイルドウルフから視線を切らず、ライザックに返答するルーシカ。

 ルーシカは普段から抱えている人形を巨大化させ、ワイルドウルフへとぶつける。

 その体躯はかなり大きく、立ち上がった状態では3メートルを優に超える。

 見てくれも相俟って、ツギハギのクマとでも例えるべき風貌である。

 あの人形は布で出来ているようで、布で叩き付けられても大してダメージは無さそうに思えたが……今、実際に戦闘を目の当たりにしてその考えは既に改めた。

 人形が放つ攻撃の重さは、実物のクマと比較してもなんら遜色は無い。

 空振った攻撃が樹木の樹皮を剥ぎ取り飛散させ、大地を叩けば振動がこちらにまで届く。

 当たればタダでは済まない重い攻撃である事は容易に推測出来る。

 今、ルーシカが相対しているワイルドウルフは、別段防御力が高い魔物という訳でもない。

 斬れば死ぬし、同様にあれ程の攻撃力で殴り付けられれば絶命してもおかしくないだろう。


 しかしながらルーシカが操る人形の攻撃は、一撃が重いと言えば聞こえが良いが、的確に表現するのであらば――鈍重。

 攻撃が大振りで、ワイルドウルフの機敏な動きに付いていけていないようにも見える。

 ウルフという名の通り、狼らしい動きをしており、機敏。

 隙さえあれば、容易く人の喉笛に喰らい付くだろう。

 ルーシカ自身は非力である為、この人形はルーシカから付かず離れずの距離を保っており、ルーシカに攻撃が不意に飛んできても自身を庇えるような位置取りをしているので、攻めあぐねている。

 ワイルドウルフもまた、攻撃自体は回避出来ているが、この人形に噛み付いても人形にはダメージが入らず。

 かといってそれを操るルーシカを狙おうとしても、ルーシカもそれだけはさせないと警戒して人形を動かしている為、ルーシカに攻撃が届く事は無い。

 中々長期戦であり、少しずつルーシカの息も荒くなっているように見える。


「手伝おうか?」

「み、ミサトさんは後ろで見てて下さい!」


 必死な様子で止められてしまった。いざとなったら自分がやる、という事だろうか?

 確かに特訓とでも言うべき戦いの最中に横槍を入れるのは無礼というものだろう。

 しかし、命のやり取りを伴う真剣勝負であるのも確か。

 本当に危ないと判断した時は、割って入る事にしよう。

 幸いにも、今ルーシカが戦っている魔物は既にフィーナと共に戦った事がある既知の魔物。

 対処出来る事は知っているし、方法も理解済みだ。

 何時でも斬り掛かれる体勢を維持したまま、もう少し様子を見る。


「えいっ……!」


 ワイルドウルフに向けて、人形は叩き付けるような一振りを放つ。

 それを読んでいたのか、横飛びでワイルドウルフがその一撃を回避する。

 これを好機と見たか。そのまま背後に居るルーシカに向け、矢の如く飛び出そうとする。


 だが、どうやらそれをルーシカは待っていたようだ。

 横飛びしたワイルドウルフに対し、着地する暇を与えぬ更なる追撃の一手。

 振り下ろした片腕とは反対の腕を横薙ぎに振り抜く!

 地を蹴り、回転と体重を乗せた一撃は的確にワイルドウルフの横腹を殴り付けた。

 鈍重故に、ワイルドウルフは今までの攻撃を回避し続けた。

 ならばその鈍重な攻撃が当たってしまえばどうなるか、そんな事は自明の理であった。

 巨木の幹に叩き付けられ、糸が切れたかのようにぐったりと倒れ込むワイルドウルフ。

 一撃必殺。その言葉が相応しい結果であった。

 どう見ても決着が着いたと判断したので、倒れたワイルドウルフに近付く。

 

「息の根は止まってるみたいでござるな」


 舌をだらりと口外へ伸ばし、口元からは吐血している。

 時折痙攣したかのようにビクリと動くが、息は無い。

 恐らく、先程叩き付けた一撃で内臓破裂か何かを起こしてショック死したのだろう。


「大丈夫かルーシカ? 怪我は無い?」


 やや疲労した様子を見せているルーシカを気遣い、駆け寄るライザック。


「大丈夫だよ、お兄ちゃん」


 微笑を浮かべつつ、荒れた息を整えながらライザックに返答するルーシカ。

 保護者同伴の状況とはいえ、ルーシカはワイルドウルフを見事、一人の力で討ち取る事に成功した。

 つまり、ルーシカの戦闘能力はブロンズランクでも十分通用するという事の証左であった。


「怪我もしてないし、これなら私でも何とかなりそう」

「でも、油断したら駄目だぞルーシカ」

「お兄ちゃんは心配し過ぎだよ」


 えへへ、とはにかむルーシカ。

 しかし拙者としては一言申しておきたい所なので、諫言(かんげん)する。


「だが、先程の戦いの様子を見るとルーシカ殿はワイルドウルフ一匹を相手取るのが精一杯、といった風に見て取れたでござる。ワイルドウルフはどうも群れる習性の魔物のようだし、ほぼ間違いなく複数戦闘になるワイルドウルフ相手にこの状態だと、何とかなるとは言えないのでは無いか?」

「……確かに、ワイルドウルフはルーシカ一人だと難しそうですね。でも、大丈夫ですよ」


 ルーシカに対して述べた感想に対し、問題無いと断言するライザック。

 だがその口調は、日和見発言ではなく、何か明確な意図があって述べたように感じられる。


「あのワイルドウルフって魔物は、僕が戦った中だとブロンズランクの魔物の中でも一番すばしっこい魔物なんです。ルーシカの戦闘スタイルだとこういう素早い魔物が一番苦手なのは既に分かっていたので、敢えて戦うようにしたんです。一番早いワイルドウルフとも一対一であらば倒せるのなら、十分通用しますよ」


 ライザックが、大丈夫だと述べた根拠を口にする。

 成る程、このワイルドウルフという魔物はブロンズランクの括りの中では一番早い魔物なのか。

 それは初耳だ。こういう情報をキチンと身に付ける為に同行をお願いしているので、ライザックのこの補足は有り難い限りだ。


「それに、一人でどんな状況にも対応出来るならブロンズランクなんて低い場所じゃなくて、とっくにシルバーランクとか、もっと凄ければゴールドランクにまで行ってますよ。苦手なタイプも居るから、複数人で行動して弱点をカバーする。僕なら、自惚れじゃなくてワイルドウルフとは普通に戦えますから、ルーシカが苦手な魔物なら僕が戦えば良いんですよ。逆に僕一人だと、ルーシカなら得意であろう重くて硬いタイプの魔物なんかには苦戦しますからね」


 成る程、それも道理だ。


「この感じなら、私もちゃんと戦えるよね?」

「でも無茶はしちゃ駄目だぞ。特にこのワイルドウルフを見付けたら、一人で相手にしないですぐに僕を呼ぶんだぞ?」


 一人では勝てないから、二人で。

 この兄妹は、きっとそうやってここまでやって来たのだ。そして、これからもそうしていくのだろう。

 兄妹愛、というヤツなのだろうか?

 生憎、拙者は一人娘だった為そういった感情には疎いので察する事は出来ない。

 だが、何となく微笑ましくも思えた。


 ――そして、それと同時に。

 ライザックの言った、一人でどんな状況にも対応出来る。きっとそうであろう、命の恩人の姿を思い浮かべてしまう。

 ライゼル殿が敗れる姿というのが、どうにも想像出来ない。

 一体、どれ程の高みに居るというのか。そして、どれ程の研鑽を重ねればあの歳であの高みに至れるのだろうか。


「――じゃあ、まだ時間的にも余裕がありそうですし、この辺りで魔物を狩ろうと思います。ミサトさんもそれで良いですか?」

「ん? ああ、それで構わないでござる」


 ライザックの提案に従い、拙者は再び魔物を狩るべく周囲を散策していく。

 何でもライザックに聞いた限りでは、討伐部位とやらは取り敢えず首さえ刎ねておけば大丈夫だと判断した。

 なので、拙者は魔物を見付け次第、その首を刎ねた。

 適当に魔物の首を刎ね、今日の仕事は終わりだとライザック達のもとへと戻った。


 ……ライザックとルーシカの表情が強張っていた気がするが、何故だろうか?



首狩りサムライガール……

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