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82.討伐遠征の旅

 街の周辺の魔物は常駐の警備によって討伐されている為、馬車に乗ってある程度街から距離を置く。

 今回のライザックとルーシカの目的は、ブロンズに上がったばかりのルーシカが、実際にブロンズランクの魔物と戦い、感覚を掴む事が主目的。

 また、拙者自身も戦闘技術はともかく、不慣れな異国の魔物に慣れ、知識を養い感覚を掴むのが主目的。

 魔物に出会い、実際に戦わねば知識も感覚も何も無いので、ある程度街から離れるのは当然であった。

 しかしながら、拙者も含めて若輩者が多い為、いざとなれば即座に撤退出来るよう、今日の魔物討伐は逃げ腰気味で行くと、馬車の中で全員で話し合い決めておいた。

 無論、金を稼ぎたくない訳では無いので魔物とはそれなりに出会っておきたい所だが。


 以前フィーナ殿と一緒に一っ走りした距離と同じ位か少し手前位の場所で、馬車から降りる。

 役目は果たしたとばかりに小さくなっていく馬車の後姿を見送りつつ、本題へと意識を向ける。


「じゃあ、この辺りで魔物を狩ろうと思います」

「この位の距離ならば、馬車に乗らずとも良かったのでは?」

「えっ? 結構距離ありますよ? この距離を徒歩だと結構掛かっちゃいますけど……」

「拙者は昨日、昼前にはこの位の距離を走って辿り着いたでござるよ?」

「なにそれこわい」


 ルーシカからまるで変人を見るような目を向けられた。

 何か変な事でもしたのでござろうか?

 拙者だけじゃなくてフィーナも一緒に走ってきたのだが……


「ミサトお姉ちゃんは自分の基準で考えるのを止めた方が良いと思う……」

「むぅ」


 自分の常識は世界の非常識、というやつだろうか?

 この位の距離ならば馬車で移動するのがこの国での常識、そう覚えておこう。


「流石に街道の側だと魔物は早々居ないと思いますから、少し森に入ってみようと思いますが、良いですか?」

「うん、分かった」

「ライザック殿の判断に従うでござるよ」


 今回、師はライザックで従は拙者とルーシカ。

 和と規律を乱さぬよう、淡々とライザックの指示に従う。

 街中のような安全が確保された場所以外では、和を乱す行為は命の危機に直結しかねない。

 疑問があれば語学の為に質問程度はするが、基本的にライザックの指示には肯定する方向で動く。



 森に踏み入る。

 木々に覆われ日光が遮られている為か、ひんやりとした空気に満ちていた。

 周囲を見渡していると、何かを見付けたのか、ライザックが近くの木の幹の側にしゃがみこみ、何かを注意深く観察していた。


「――これ、キラーラビットの爪跡ですね。この辺りはキラーラビットの生息域みたいですね」

「初耳の魔物でござるな」

「えっと、キラーラビットは割りとメジャーな魔物なんですけど……本当に知らないんですね」

「本当にも何も、説明した内容は事実でござるからなぁ」


 疑っているとかそういう訳ではなく、単に驚いただけという陰湿さを感じさせない口調でライザックは呟いた。


「どんな魔物なんでござるか?」

「えっと、ウサギが二足歩行して、前足の部分に鋭い爪が生えたような感じの魔物です。この魔物は自分の爪で木の幹に傷を付けて縄張りを主張する習性があるから、木の幹を調べるとすぐに分かるんです」


 ほうほう、木の幹を調べてたのはそういう理由だったのか。


「どんな感じの傷でござるか?」

「ここです」


 実際にライザックが指差し、木の幹に不自然に出来た真横に走った傷を確認する。

 ただ、その傷が出来ている場所が思っているより低かった。

 ライザックがしゃがみ込んで確認するのも納得の低位置だ。


「……前足という事は、そのキラーラビットという魔物はそんなに大きくないという事でござるか?」

「そうですね。個体差はありますけど、大体大きくてもミサトさんの膝下ちょっと位しかないです」


 本当にウサギが二足歩行している程度の高さしか無い、と考えて良さそうだ。


「そのまま蹴飛ばして倒せそうな感じでござるな」

「あはは……でも、足に防具を付けているような人は実際にそうやって倒す事も多いみたいですよ?」


 やっぱりそうだったか。

 しかしながら、拙者やライザックは共に機動力を生かした装備の為、足には特に防具は身に付けていない。

 ルーシカも人形で戦うという、本人が前に出るタイプでは無いのと彼女自身は非力な為、こちらもまた重量の増える装備は身に付けていない。

 なので爪という凶器を持つキラーラビットに対してその戦い方は今回は出来なさそうだ。


「じゃあ、この辺りでキラーラビットを探してみましょうか。キラーラビットはブロンズランクの討伐するような魔物なので丁度良いですし。ただ、互いが互いを視認出来る範囲に収めて、僕達三人が全員を視認して、いざとなったら駆け付けられる程度の距離を保って行きましょう」

「分かった」

「了解でござる」


 念には念を、という事か。

 更に警戒するなら固まっていた方が良いのだろうが、流石にそこまでしていると肝心の討伐対象であるキラーラビットを発見出来ないというオチになる可能性がありそうなのでこれ位は仕方ないだろう。

 ライザックの指示に従い、拙者はキラーラビットなる魔物を探すべく森の深部――という程深くは無いのだが、それなりに踏み入って探索を行う事にした。



―――――――――――――――――――――――



「み、ミサトさーん! 何処行ったんですかー!?」

「呼んだでござるかー?」

「ど、何処ですかミサトお姉ちゃーん!?」

「こっちでござるよー」

「離れ過ぎですよ! 何処に居るのか全然分かりませんよ! 見えないですよ!?」

「拙者からは御二方の姿が良く見えるのでござるが」

「僕達が見えないんですよ!?」


 ライザックに怒られてしまったので、もっと距離を詰めて行動する事にした。

 拙者の常識は、世間の非常識。むぅ。


 と、そんな事を考えつつ捜索を続けていると、お目当てのキラーラビットなる魔物を発見する事が出来た。

 赤い目、ウサギには本来無い鋭い鉤状の爪。

 ライザックから教わった通り、その風貌は確かに爪の生えたウサギとでも言うべき代物であった。

 しかしながら、目付きが悪いのでウサギのような愛嬌は何処にも存在しなかった。


「アレがキラーラビットでござるか?」

「そうですね、間違いないです」

「あの魔物は、爪以外に気を付けるべきポイントは何かあったりするのでござるか?」

「いえ、あの鋭い爪が一番厄介なだけで、特に噛み付いたりとかする訳じゃないので爪さえ気を付ければ魔物の中でも比較的安全な部類ですね」

「なら、初陣は拙者が行っても構わないでござるか? 経験を重ねておきたいでござるからな」

「……そうですね。僕も、ミサトさんがどの位戦えるのか知りたいので、キラーラビットなんかじゃ物足りないかもしれないですけど、お願いして良いですか? 出来れば、全力じゃなくても良いので、ある程度本気で戦ってくれれば今後の指標にもなるので――」


 ライザックから許可を貰ったので、キラーラビットとの戦いは拙者が初陣を飾る事になった。

 一気に踏み込み、抜刀!

 腰に提げた符を一枚引き抜き、魔力を流し、刀身に炎を宿す!

 ある程度本気と言われたので、詠唱は省略。魔法陣のみでの起動による簡略発動。

 その分威力は下がるが、下がった威力は余計に魔力を使う事で補う!


 不意打ちともいえる襲撃と、既に肉迫する程の速度で接近した為、キラーラビットは反応が遅れる。

 拙者に気付いた時には、最早後の祭り。

 気を付けるよう言われた爪は、その威力を発揮する暇も与えない。

 拙速を尊ぶ、瞬速一閃。

 遅い、遅すぎる。

 二足歩行という事は、その頭部が上にあるという事に他ならない。

 これならば地を這うただのウサギの方が、余程首を刎ね難いぞ!


 一太刀。

 狙いを違わず振り抜いたその刀から伝わる、確かな手応え。

 骨を両断した硬い手応えと、少し遅れて背後から伝わるドサリという落下音。

 切り裂いた断面から全身が炎上し、振り返ればキラーラビットは粗方灰へと姿を変えていた。

 一刀必殺。即死であった。


「――ある程度本気と言われたでござるが、確かにこのキラーラビットでは物足りない感じが否めないでござるな。どうだったでござるか?」


 ライザックに対し評価を求める。

 評価を求めた彼と、その妹は両者共にポカンと口を開け、しばし放心したまま微動だにしないのであった。

「もしかして拙者、また何かやってしまったでござるか?」

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