80.お金を稼ごう!~ミサト編~
フィーナ殿と共に、魔物の討伐依頼を引き受けた初日。
持っていった方が良いという事だったので、ジャイアントキラーワスプという魔物の頭をギルドに持っていった。
「これは……一体、どうされたのですか?」
「襲ってきたので返り討ちにしたのでござるが、フィーナ殿が持って行った方が良いという事なので持ってきたでござるよ」
目を白黒させながら、瞬きの回数が増える女性の職員。
「……ですが、この魔物の討伐依頼を貴女は請けていませんので、報酬の件でしたらお支払い出来ませんよ?」
「やはりそうでござるか」
この位の魔物を倒せるんだよ! という証明になるからと、フィーナ殿に言われたので持ってきたのでござるが。
果たして効果はあったのでござろうか?
とはいえ、このシルバーランクという魔物と戦う気はまだ無いのでござるが。
拙者は、まだこの大陸の魔物との戦闘経験が余りにも少ない。
ジパングでは見た事が無い生物、魔物の数々。
思わぬ攻撃によって、窮地に陥る可能性が無いとも言い切れない。
かつて、拙者がその手に刀を持った時。父から何度も教わった言葉。
――戦場では、油断、慢心した者から死んでいく。
拙者はまだ、ライゼル殿に対して恩らしい恩を返せていない。
ムラマサから拙者を、命を救ってくれた礼。
それを返さぬまま死ぬなど、決して許されないのだから。
故に、危ない橋は渡らない。一足飛びはせず、堅実に前に進んでいく。
今の所、群れてきたジャイアントキラーワスプという魔物以外では、危機らしい危機を感じてはいないが。
……否、そういえば「あれは例外」と言われたスライムとやらも居たか。
例外とはいえど、確かに危険も存在している事はあのスライムが教訓として教えてくれた。
堅実に。堅実にでござる。
「――どうやら、戦闘面での腕前は確かなようですね。一先ず、ギルドカードの戦闘能力の評価欄をブロンズに上げておきます」
「良いのでござるか? それがし、今日が初めての依頼だったのでござるが」
「特例という訳では無いので問題ありません。腕利きがすぐに戦闘評価を上げるのは珍しい事ではありませんから」
女性職員の話によると、ギルドカードの評価はいくつかの項目に分かれているらしく、こと戦闘能力の評価欄はすぐに上がるのは特に珍しくはないそうだ。
剣一本で立身する腕前を最初から持っていても、一定期間を過ぎるまでずっと無印のまま――というのは、人材の埋没に繋がってかえって良くないらしい。
特に魔物討伐の依頼は、農作物や物的・人的被害の発生する深刻な問題が関わっているので、実力の伴った人物はどんどんそれ相応の依頼を請けて欲しいとの事。
その為、初日ではあるが拙者は無印からブロンズとやらに昇格したようだ。
しかしながら、技量面での評価は早々に上がる事はあっても、信頼度という評価に関してだけは決して早熟は有り得ないそうだ。
信頼とは、地道に一つ一つ積み重ねていくモノであるから、これに関しては当然でござるな。
「死なない程度に、活躍を期待しております。そのジャイアントキラーワスプを本当に自分一人で倒したというのであらば、間違いなくシルバーランクの腕前、それも上位なのは確定なのですが。生憎、貴女一人で倒したという証拠もありませんので。軽率に上げる訳には行きません」
「それも仕方ないでござるな」
本日の討伐依頼分の報酬を受け取る。
払い戻し方法をギルドの職員に教わり、その指示に従って路銀を確保する。
これで、今日の食事と寝床にありつける。
ジャイアントキラーワスプの頭は、燃やしておいた。
少し火力を間違えて爆発させてしまい、衛兵に包囲されてしまったので、弁明しておいた。
手数を掛けさせてしまい、申し訳ない。
次からは、もう少し火力を考えねば。
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翌朝。
掲示板に視線を落とし、魔物の討伐依頼が無いか、目を皿にして探す。
昨日、ワイルドウルフという魔物を数多く倒した為か、同じ依頼は貼り出されていなかった。
仮にあったとしても、遠出して探し出して討伐となると、時間が掛かり過ぎる。
ここでの活動目的は、金策であるという事を忘れてはならない。
右も左も分からない……という程では無くなったはずだが。それでも、まだまだこの土地では駆け出し。
無理をする気は無いが、頑張らねばならない事は間違い無い。
目に留まった、討伐依頼の一つを手に取る。
それをギルドのカウンターへと持って行き、昨日同様に依頼を請ける。
「この依頼を請けたいのでござるが、相手はここで見繕って貰えるのでござろうか? それとも、拙者が探さねばならないのでござるか?」
「貴女はお一人ですか? でしたら、こちらで条件を絞って探す事も出来ますよ」
依頼内容を確認したギルドの男性職員は、柔和な笑みを浮かべてそう答える。
「ならば、お手を煩わせてしまうが相手を探して貰えるだろうか?」
「かしこまりました。では、番号札をお渡ししますので、ギルド内でしばしお待ち下さい」
丁寧な対応に感心しつつ、手渡された番号札を受け取る。
薄い木板に、焼印で数字が打刻されている。
番号を呼ばれるまでこのギルド内に居ろという事なので、しばし席に腰を降ろして周囲を見渡す。
当然ではあるが、拙者同様明らかに戦闘が本分という者も幾人か居たが、それ以外の非戦闘員であろう人物も多数存在していた。
まだ歳が10に満たないのではないかという子供から、腰の曲がった老婆まで。
これだけの年齢層が仕事を取り合うのならば、早朝から動かねば良い仕事が無くなってしまうというのも実に納得だ。
「38番のお客様、3番カウンターまでお越し下さい」
手持ちの札と同じ番号が呼ばれたので、3番のカウンターまで向かう。
このままこのギルドでゆっくりして、人の流れや特徴なんかを見るのも良さそうではあるが、それでは金にならないので致し方あるまい。
「お待たせしました。フリーの二人組みが見付かりましたので、折り合いが付くようでしたら再度この依頼をお持ち下さい」
ギルドの職員にそう言われ、指し示された方向に目線を向ける。
元気そうな、若い男性の声が飛ぶ。
「は、始めまして!」
そこに居たのは、恐らく15歳前後程度の二人の男女であった。
二人とも黒目にブロンドの頭髪で共通しており、違いといえば精々、男の方がツンツン、女の方がサラサラとした髪質だという程度だ。
男の方は動物の皮を使った軽装で急所を固めた程度の、比較的身軽そうな戦士然とした佇まい。
顔にはまだ幼さが残っており、緊張しているのか少し表情が強張っていた。
もう一人は、隣の少年より年下だろうか。
ふんわりと空気を含んだ黒いローブと外套で身を包んでおり、片手にはなにやらぬいぐるみが抱えられていた。
何故、ぬいぐるみ? 拙者は魔物討伐の依頼を請けたはずなのだが。
それとも、あれか。この男の連れ添いであって、この少女の方は戦闘を生業にしている訳では無いという事か?
良く見ると、二人の顔の特徴が何処と無く似ているような気がする。
手を繋いでいる所を見ると……兄妹か何かだろうか?
「これはどうも御丁寧に。拙者の名は、ミサト・リエゾン。ミサトと呼び捨てで呼んでくれて構わないでござるよ」
「ミサトさん、ですか。僕は、ライザックって言います。こっちは、妹のルーシカです」
「よ、よろしくお願いします!」
ライザックと名乗った少年の説明によると、どうやら予測通りこの二人は兄妹であったようだ。
妹であるルーシカが綺麗な角度でお辞儀をすると、頭部にフードがぽすっ、と被さった。
被さってしまったフードをぬいぐるみを抱えたままの片手で取り去るルーシカ。
「立ち話も何でござるから、何処かの席に座って話すのはどうでござるか?」
「それもそうですね。なら、そこの席にしませんか?」
ライザックの提案に乗り、先程待ち時間を潰していたテーブル席へと足を向ける。
……二人、のはずでござるが。
という事は、こっちの小さな少女も実は戦闘を生業にしているって事でござるか?
これ以上はただの憶測でござるから、詳しい事はそこの席で話して確かめるとするか。




