79.買い出しと泥棒
翌朝、旅の疲れからか少し遅めの起床。遅めの朝食を取る。
今日はギルドの仕事を一日お休みしようと考えている。
長期遠征でしっかり稼げたし、一日位は休んでも良いだろう。というか、休める時に休まないといざって時に動けないし。
明日からはギルドで、疲れを翌日に残さないような軽めの仕事を請けつつ、ライゼルが言ってた約束の一ヵ月後まで過ごせば良い。
眩しい朝日を一身に受けつつギルドに向かい、買い出しに必要な金銭を引き落とし、市場へと向かう。
日持ちする食料品――缶詰を中心に買い込む。
ライゼルの奴が何処に向かうのかは分からないが、邪魔にならない程度に目一杯買い込む。
行き先を事前に教えてくれればもっと正確に買い込めるのに。教えてくれないし。
「よし。これだけ買えば良いでしょ」
買い込んだ食糧を、一度宿まで運ぶ。
足りないなら後程追加購入すれば良い。
装備は……別に修理も買い替えも必要ではないし、食料は買った、寝袋や外套なんかはまだ使えるし、うん、これで大丈夫。
何が足りないかしっかり考え、ちゃんと揃ってる事も確認した。
……今日は、休みの日にした。
街に居る時は良いが、小さな集落では望み薄。移動中の野宿なんかじゃ絶望的。
こういう場所じゃないと――甘い物は食べられない。
場所によっては輸送費なんかで価格が上がってしまうが、この街ならかなり安く食べられるはずだ。
ファーレンハイトの農耕地帯、それとロンバルディア共和国周辺。
食料、特に果物なんかが安いのは大体この近辺の何処かである。
果物は足が早く、すぐに腐って食べられなくなってしまう物が多い。
だから遠くで食べるなら急いで運ばないといけないが、そうなればやっぱり輸送費が高くなる。
なので産地直送で移動の手間が大して掛からないファーレンハイトの農耕地帯か、もしくは一度に大量に、高速で移動出来る蒸気機関車を有するロンバルディア共和国内及びその周辺。
この辺りが一番安く甘い物を食べられる、という理屈だ。
ロンバルディア共和国は国土の大半がとても寒い地域なので、普通は作物なんて育たないはずなんだけど……ライゼルから聞いた話だと、何か良く分からないけど育てる手段が存在しているらしい。
何だか理由をいくつか言ってた気がするけど、覚えていない。この辺りだと安く食べられる、そういう事らしい。
「何処にしようかな……!」
商店街が立ち並ぶ、メインストリート。
雑貨や薬なんかを扱っている店もあるが、それに混ざっていくつもの喫茶店や料亭なんかも並んでいる。
うーん……今日は何だか、パフェが食べたい気分!
となると……料亭は何か違うなー。
酒場も、ああいう場所は酒がメインだからパフェみたいなデザートはあんまり無さそう。
そう考えると、喫茶店!
「おっと」
「あっ、ごめんなさい」
「いえいえ。こっちも余所見してたっすから、おあいこっすよ」
そんな事を考えながら道を歩いていたせいか、うっかり通行人の女性とぶつかってしまう。
ぶつかった通行人も、目深に外套を着込んでおり、そのせいで視界が悪かったのかもしれない。
いけないいけない。甘味の誘惑に負けて意識が散漫してた。
ちゃんと謝った所、どうやら許して貰えたようだ。
考え事は、あそこの喫茶店に入ってからにしよう。
「――ん?」
ふと、今の所持金を確認しようとして――財布が無い事に気付く。
「無い!」
えっ? 何で? 何で無いの?
何処かで落とした? そんな馬鹿な、宿に戻った時にはちゃんとあった。
それに、宿から出てそんなに歩いてないし、落としたなら気付くはず……
――もしかして。
後ろを振り向く。
先程ぶつかった、通行人と、目が合う。
通行人の表情が変わる。そして通行人の手元には……私の財布!
「チッ」
直後、通行人が猛スピードで走り出す!
「待てえええぇぇぇぇ!! どろぼおおおおぉぉぉ!!!」
即座に追い掛ける!
絶対アイツが犯人だ!
目が合った途端逃げ出したし!
窃盗犯が、曲がり角へと逃げ込む!
そこから先は大通りから離れた、裏路地だ。
このまま撒こうって魂胆ね! そうは行かないわよ!
窃盗犯が、壁面にあった木箱を踏み台にし、塀に登り、そこから一足飛びで反対側の塀に飛び移る。
その位、私でも出来る!
窃盗犯が通ったルートを、完全に模倣して追跡を続ける。
走ってて気付いたけど、窃盗犯の足はかなり早い。
私も足はかなり早い部類だと思ってるけど、その私と追いかけっこ出来る程の健脚。
普通だったら、そのまま走り去られて追跡不可能になってたかもしれない。
――でも! 私の方が早い!
塀、壁、積み上げられた木箱、樽、レンガ……あらゆる障害物を乗り越え踏み越え飛び越え。
逃走する窃盗犯に追い縋る!
同じルートを進んでいると、少しずつ私と窃盗犯の距離が縮んでいく。
前を行く窃盗犯が、後ろを振り向いてチラリとこちらを確認する。
「私の財布返しなさあああぁぁぁい!!」
「しつこいっすね!」
窃盗犯が、鬱陶しそうに吐き捨てた。
そう言いながら、窃盗犯は外套の内から――何かを取り出す。
鈍い金属光沢が見える。
もしかして――武器!?
走るペースを維持したまま、もし攻撃されたとしても対応出来るように手甲を構える!
しかしその取り出した代物は、私ではなく明後日の方向へ向く。
一瞬、何処かに狙いを定めるような動作をし――その時、気付く。
窃盗犯が手にしていた何か――それは、拳銃のような形状をしていた。
以前、ライゼルからロンバルディアにはそんな武器が存在していると聞いており、その教わった形状と良く似ていたのだ。
高速で弾を撃ち出す、とても強くて良く飛ぶ弓矢のような物だと。
でも、凄い弓矢だっていうならその狙いは私に向けないと意味が無いはず。
何でそんな私と関係ない方向に――
炸裂音。
窃盗犯が手にした、拳銃の引き金が引かれたのだ。
確か、火薬とかいうので弾を発射するらしいけど、そんな方向に撃っても私に当たる訳が――
そこまで考えて、私の視界の範囲内で何かがキラリと輝いた。
陽の光を反射した事で鮮明に捉えた、細長いそれは……私も良く知っている物だった。
見た事がある。それも何度も。
アレは……ライゼルが良く使ってる、細長い銀糸――ミスリル銀糸だ!
「あばよーっす!」
窃盗犯が捨て台詞のような言葉を吐く。
手にした拳銃の引き金を再度引くと――今度は、炸裂音がしなかった。
直後、窃盗犯の身体が真横に不自然に加速し吹き飛ぶ!
横飛びした訳ではなく、明らかに人間の身体の動作では不可能な飛び方だ。
まるで何かに突き飛ばされたか――引っ張られたような。
拳銃から放たれた、銀糸が急激に縮まっていく!
それに伴い、窃盗犯の拳銃もその銀糸に引っ張られていく。
当然ながら拳銃は手放していないので、窃盗犯もその拳銃と一緒に明後日の方向に引っ張られていった。
その加速を利用し、窃盗犯は壁面を通り越して家屋の屋根上まで飛び移り、そのまま逃亡していく。
えっ!? 拳銃って、そんな事も出来るの!?
ライゼルはそんな事一言も言ってなかったよ!?
「逃がすかあああぁぁぁぁ!!」
だけど! それだけで逃げられると思うなよ!
敷き詰められた石畳を踏み砕く勢いで跳躍し、窃盗犯を追い掛けるべく屋根上まで飛び上がる!
屋根上に移動した窃盗犯は、周りに壁や障害物が無くなった為か、今までよりも更に加速して私から逃れようとする。
でもこっちだって障害物が無いなら、真っ直ぐ突き進むだけなのよ!
絶対とっ捕まえて、取り返してやるんだから!!
窃盗犯が使ったのはいわゆるワイヤーガン(マジカル仕様)
超特殊な装備品であり、フィーナが知らないのも無理は無いのです
ライゼルですら一瞬面食らうと思います




