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78.隊商護衛依頼

 ミサトとはギルドで別れ、私は一晩を宿で明かした。

 これでミサトもある程度ギルドでの活動に慣れただろうし、ここからは一ヶ月、私は私のペースでお金稼ぎに励む事にした。

 ミサトと一緒に魔物退治でも良いんだけど、そればっかりは気が滅入る。

 戦い以外にも稼ぐ手段はあるのだし、私は私なりの方法で稼ぐよ。


 翌朝。

 日が昇る前に起きて食事と身支度を済ませ、ギルドの掲示板前へと向かう。

 良い仕事は他のギルド利用者も狙っているので、争奪戦だ。

 その中にはミサトの姿もあったが、セレナの姿は無かった。もしかして昨日の内に長めの依頼でも取ってたのかな?

 ミサトは魔物討伐の仕事を請ける気だろうし、わざわざミサトと仕事を取り合う必要も無いので、私は魔物討伐ではない仕事の依頼を請ける事にした。


「――ルドルフ商会の荷馬車護衛の依頼でお間違いありませんか?」

「大丈夫です、間違いありません」

「……受理しました。カードをお返しします。次の方――」


 カウンターで依頼を確定させ、ギルドから目的地の場所まで向かう。

 今回引き受けたのは、商人の運ぶ積荷の護衛依頼である。

 ルドルフ商会というのは何でもロンバルディア共和国に本拠を構え、世界規模で……なんだっけ、チェーン展開って言うんだっけ? うろ覚えだけど。

 何かそんな事をしているらしい。私が子供の頃から名前を聞く位なのだし、相当な大企業なのだろう。

 ギルドを利用する者からすると、この隊商の護衛依頼は鉄板中の鉄板という評価を受けている。

 収入も良く、あまり危険な道も通らないので不意の魔物や盗賊との交戦も少ない。そして当然のように、三食付き。

 取れたから良しとするが、やや滑り込み気味だった。もう少し遅く来てたらこの依頼は取れなかったかもしれない。


「――これで全員か?」

「人数は合ってる、ギルドカードも確認した」

「良し、出発だ! 乗り込め!」


 隊商護衛の依頼を請けるのは初めてではないし、ルドルフ商会の依頼という面でも既に数回こなしている。

 荷馬車の空いているスペースに乗り込み、ある者は中に、ある者は積み下ろし口に腰掛け。

 徐々に朝日が大地を濡らす頃合。隊商の一団はアレルバニアの街を出発するのであった。



―――――――――――――――――――――――



 隊商の道程は、実に穏やかなものであった。

 賊も魔物も現れず、馬の休息や食事以外で馬車が止まる事も無く。


「フィーナ、交代の時間だ」

「はい、今行きます!」


 既に朝日が完全に天に昇った頃。私の監視役の番が回ってくる。

 荷馬車から身を乗り出し、周囲に気を配る。


 荷馬車は街から街へ荷物を運ぶ為の移動手段の一つであり、蒸気機関車が普及しているロンバルディア共和国では馬車という移動手段はマイナーな分類ではあるが、それ以外の国ではメジャーな手段だ。

 食料や医薬品、衣服や建材、ありとあらゆる物流を担っている。

 特に食料や医薬品なんかは命に関わる代物でもある為、その物流を途切れさせる訳には行かない。

 当然ながら、毎日晴れ模様なんて事は有り得ない訳で。護衛依頼を請けた日が雨風強い荒れた天気の時だって当然ある。

 そんな天候の時でも、馬車の外に出て周囲の警戒に当たらねばならない。

 馬車の中に居ては周囲を見渡せないのだから当然だが。

 吹き曝しの中、外套で雨風を防ぎながら周囲を警戒するのは、やはり大変な作業だ。

 曇天、雨天で視界が悪いし、外套を着てても雨は少しずつ体温を奪っていく。

 それに賊も魔物もわざわざ視界良好で見付かり易い晴れの日より、視界が悪く襲撃し易い曇りや雨の日を襲撃日に選ぶだろう。

 実際、そういう天気の時が襲撃に遭い易い。

 その為、天候が悪い時の護衛依頼は少し割増料金になってお得、かどうかは正直微妙な所だが。


「――風が気持ち良いなぁ」


 今日は、文句無しの晴天。

 外套も要らず、吹き抜けていく風が頬を突く。

 つんつん、つんつん――って。


「平和ボケした間抜け面してんなあ」


 何時の間にか、すぐ隣にライゼルが腰掛け、私の頬を人差し指で突き刺していた。

 取り敢えず脳天にチョップを喰らわせる。


「急に消えたと思ったら急に現れて。なによ、お金が無いんじゃ無かったの? アンタこの仕事の依頼請けて無いんでしょ? こんな所で油売ってて良いの?」

「ほらぁ~、俺様って天才だからさぁ! 凡人のフィーナちゃんとは違ってチマチマ稼ぐなんて事しないんだよ」

「はいはい。分かったから仕事の邪魔だからどっか行っててくんない? それとも手伝ってくれるの? 依頼請けてないんだから無給だよ?」

「手伝う訳ねーだろバーカ。待ち時間が暇だったからちょっかい掛けに来ただけだっつーの」

「帰れ!!」


 ただ邪魔しに来ただけかい!


「どうしたフィーナ。……誰だそいつは?」


 私と同じく護衛の依頼を請けた40代位の男性――確か名前は、ギースって言ったっけ?

 年季の入った目元に皺を浮かべながら、目を細める。

 私の隣に居るライゼルに対し、(いぶか)しんだような視線を向けていた。


「知り合いだけど、関係無い人なんで。今突き落とします」

「うおっ!?」


 馬車からライゼルを突き落とす。

 直後、突風と共にライゼルはその姿をその場から消した。


「何だ今の突風……? それに、さっきの男は何処行ったんだ?」

「気にしないで下さい。もうどっか行ったみたいだし、また来たら追い返しますから」


 どう考えても私に対し嫌がらせしに来ただけにしか思えないし。

 次来たら馬車で轢いてやろうかしら。



―――――――――――――――――――――――



 合計で7回位来たので全部無言で突き落として対処した。暇人か。私は暇じゃないのよ。

 この隊商は途中で荷を積み降ろししつつ、聖王都まで行くらしいのだが、流石にそこまでは行けない。

 何してるのか知らないが、1ヶ月経ったらライゼルはアレルバニアから出発するのだ。聖王都まで行ってしまうと馬車の速度では1ヶ月でアレルバニアまでは戻れない。

 なので、キリの良い所でUターンしてアレルバニアに戻らねばならない。

 聖王都からアレルバニアへ向かっている、同じルドルフ商会傘下の隊商と合流。

 今度はこっちの護衛依頼として同行しつつ、アレルバニアまで引き返す。

 途中、少し雨に降られたりもしたが、天候は概ね良好。

 安全なルートを通っている為、3回位は魔物の接敵があったものの、交戦には至らず。

 約3週間にも及ぶ馬車の旅を経て、私は再びアレルバニアへと戻ってきた。

 途中で足止めを食らう可能性も考慮して、少し早めに切り上げた。

 ギルドで依頼完了の報告を行い、ギルドカードに報酬が振り込まれた事を確認して、今日はそのまま休む事にした。

 かなりの長期遠征だった事と、天下のルドルフ商会の依頼だった事が重なり、約金貨70枚相当の稼ぎとなった。

 食費あっち持ちでこの報酬なのだから、人気なのも頷ける。

 確かに魔物や盗賊と戦うっていう、命懸けの場面になる可能性も否定出来ないけど、ルドルフ商会は安全第一で危ないルートは決して選択しないから、交戦の可能性も低い。

 今回の仕事を取れたのは、運が良かったのだろう。


 さて、もうライゼルが言ってた1ヶ月までもう1週間も無い。

 消耗した備品をこの街で買い揃えて、後の数日は、すぐに終わるような簡単な仕事だけやっていれば良いだろう。

 日の高い内から安宿を探してチェックインし、食事を済ませてから個室で軽く装備のチェックを済ませ、その後は着の身着のままで寝床に身を投げる。

 長旅で疲れが溜まっていた為か、まだ日中であるにも関わらず、私の意識はまどろみの中に沈んでいき、気付けば深い眠りに落ちるのであった。

ルドルフ商会は前作で登場した企業なので説明は割愛

なんかやべー女の後押しを受けて世界の大企業になっちゃった的な店舗だとだけ

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