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76.お金を稼ごう!

 風のように消え去ってしまったライゼルは一旦考えの外に追い出し、フィーナ達は国営機関、通称ギルドと呼ばれている職斡旋場へと向かった。

 両開きの扉は開け放たれており、早朝から深夜まで人が出入りするギルドでは、正面扉の存在感は限りなく薄い。閉じている時間帯が短いからである。

 室内は常に魔術灯によって明かりが一定に保たれており、全部のギルドがそういう訳では無いのだが、このギルドでは軽食も取る事が出来るようだ。

 小さな集落にあるギルドでは村役場と同等かそれ未満の小屋のようなギルドも存在する事を考慮すれば、このギルドは流石は都市部のギルドと言うべき規模である。


「食堂もあるようでござるな」

「やめた方が良いわよ」


 軽食を販売している事に興味を示したミサトに対し、セレナが即断で叩き切った。


「む。何故でござるか?」

「こういうギルドに併設されてる食堂とか、費用対効果が最悪だからね。不味いとか言う訳じゃないんだけど、値段と量と味が釣り合ってないのよ。同じ値段を出すなら外の食事処で食べた方が良いわよ」


 大声で喋るのは流石に気が引ける為、セレナはミサトに小声で耳打ちする。


「あんまりにも朝早くとか夜遅くとかだと、食堂が閉まっててそもそも食べられないから、そういう時に空腹を紛らわす程度に留めた方がいいよ」

「ほう、そういうものでござるか。セレナ殿は詳しいのでござるな」

「そりゃ、聖王都で散々利用してたからね。これ位常識――は、まだ貴女には経験が足りてないのよね」

「……面目無い」


 頭が悪いという訳ではなく、単純に島国という隔絶された環境で、しかも子供の頃から精神汚染によって行動を縛り付けられていたミサト。

 それに加えて故郷を離れて、異国の地で暮らしてまだ日が浅いという事を考えれば、ミサトの世間知らずは流石に責められたモノではないだろう。


「お腹が空いたなら、まだ日が高いんだから外の食堂を利用した方が良いよ」

「そうさせて貰うでござる」


 一先ず食事を取るにしても仕事に目星を付けてからの方が良いという事なので、セレナの助言に従い三人は仕事の張り出された掲示板へと向かう。

 横長の巨大なコルクボード上には鋲でいくつもの紙が張り出されており、その紙面上には仕事の内容が記載されている。

 その紙面上に視線を落とし、老若男女問わず、ギルドを利用している何人もの労働者達が目を皿にしていた。


「……この、紙に書いてあるブロンズとかシルバーというのは、一体何でござるか?」

「ああ、それは等級よ」

「等級?」

「実力や信用が積み重ねられると、ギルドカードにそういう内容が表記されるようになるのよ。こういう風にね」


 見本に、セレナは自分の持つギルドカードをミサトに提示する。

 セレナの持つギルドカードの等級は、ゴールドランクであった。


「ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ……それとミサトさんの持ってるまだ駆け出しで何も記載されてない無印を含めて五つの等級があるの。無印から順番に進んでいって、プラチナが最高位よ。こういう等級は腕前や信頼度の指針になるから、例えば依頼表に魔物の討伐、等級はシルバー、みたいな感じで書かれてたらシルバーランクの腕前が無いと危険な依頼って事になるわね」

「ほうほう……」


 自分はまだ無知だという事を痛感しているミサトは、良く噛み締めるようにしてセレナの言葉に相槌を打つ。


「腕前のランクとかなら一気に駆け足で上に駆け上がる事も出来るけど、信頼度はそうも行かないから信頼は堅実に積み重ねる必要があるわね」

「信頼とは一朝一夕で築けるモノでは無いでござるからな」

「ん!? セレナ貴女ゴールドランクなの!?」


 ミサトに提示する目的で晒したセレナのギルドカードを目撃したフィーナが、驚きの声を上げる。

 が、それを受けたセレナは至って涼しげな表情である。


「だってぇ~、愛しのライゼル様の隣に立つんですから、たかがギルドのゴールドランク位は取れないとお話にならないって言うかぁ~」


 周りの視線も気にする事なく、ぶりっ子モードに突入するセレナ。


「……というか、え? もしかしてフィーナさん、ゴールドランクじゃないんですか?」

「……私は、シルバーだよ」


 何か文句でもあるのかとばかりに、自らのギルドカードを提示するフィーナ。

 そんなフィーナのギルドカードに一瞬目を落とし、「あっそ」と興味無さそうに視線を外すセレナ。


 フィーナの持つシルバーランクのギルドカードは、ハッキリ言ってギルドを利用する者からすれば一つの目標になる程の高いランクである。

 ギルドの公表データによると、ギルドカードを発行した人物の内、ゴールドの等級を持つ者は全体の3%未満であり、プラチナに至っては例外中の例外を除き、皆無と言って良い状況である。

 全体の7~8割が無印、またはブロンズであり、ギルドの土台を支えているのはこのブロンズ以下のギルド利用者である事は疑いようが無い。

 その2割弱程度がシルバーランクであり、そこに属しているフィーナは実力でも信頼度でも相当な上位に存在しているのだ。


「御二方とも、研鑽を重ねてその地位に登り詰めたのでござるな。若輩者の拙者も精進せねばなるまい」

「ふふ~ん。そうよもっと敬いなさい」


 自らの持つギルドカードをヒラヒラと見せびらかしつつ、鼻高々にイキるセレナ。

 尚、戦闘能力だけに関して言えばライゼルが一番着目しているのはミサトなのだが、フィーナとセレナは特にその事実を知ってはいない。


「……ふむ。荷物運びや家屋の屋根の修理、子供のお守りに魔物討伐……何でもあるでござるな」

「何選ぶのも自由だけど、ミサトさんはまだ駆け出しだからあんまり出来るのは多くないと思うよ。無難なのは魔物討伐依頼位だと思うよ」

「確かに、拙者の誇れるモノなど武芸の腕のみでござるからな……」


 セレナのアドバイスを受け、素直に魔物討伐依頼を手に取るミサト。

 尚、本来無印のギルドカードを持つ者に対し魔物討伐依頼を進める事は周囲から「アイツを殺す気か」と咎められるような愚行中の愚行である。

 落し物の捜索や部屋の掃除といった仕事は、失敗しても評価が下がるだけ。

 しかし魔物討伐の失敗は、最悪命を落とす危険性があるのだ。

 咄嗟に命乞いをして通じる相手ではなく、そもそも言葉が通じない魔物相手に命乞いが通じる訳が無い。

 よって、本来このセレナの助言は悪手なのだが、既にその腕前を目の当たりにしているセレナからすれば実に妥当なアドバイスなのであった。


「ま、貴女の腕ならシルバーランクの依頼までは普通に請けても大丈夫だと思うよ」

「いや、ちゃんと段階を踏まえて進むでござる。慢心は命を落とすでござるからな」

「ふぅん……真面目なのね」

「仕事決まったなら、早くカウンターに行こうよ」

「私はもう少しゆっくり考えて決めるわ。フィーナさん、ミサトさんはまだ慣れてないだろうから一緒に行ってあげたらどうですか?」

「それもそうか。ミサト、一緒に行こうよ」

「かたじけないでござる」


 フィーナと共にカウンターへ向かい、仕事受諾の処理を進めていくミサト。

 ミサトが最初に請けた仕事内容が魔物討伐であった為、ギルド職員がかなり念を押して確認を取っていた。

 そんな問答をしているミサトとそれに付き添っているフィーナを横目に、セレナは目星を付けていた仕事の依頼表を手に取る。

 高額ではあるが、前提条件が厳しく、少なくともブロンズランクに甘んじているような人々には到底手が届かず、シルバーランクでも中々手が出せない依頼内容であった。

 それを一切の躊躇い無く手に取り、セレナもまたカウンターへと歩を進めていく。


 ライゼルの提示した期間は一ヶ月。

 その間、ライゼル一行は各々、心許なくなった懐事情を解消するべく、約一名を除いてギルドを利用しつつ金策に走るのであった。

ライゼル?

アイツがまともな手段で金を稼ぐ訳が無いんだよなぁ

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