71.失伝魔法-精霊化
スラレンジャー→正義
ライゼル→悪
実際合ってる
「ったく、おいとっとと起きろボケナスおたんこナス実力ナス」
何もかもを洗い流す津波で何処かへ流されていきそうになっていた三名を拾い上げる。
……まあ、この程度か。
ミサトは良い線行ってるみたいだが、流石に相手が悪かったな。
頬をぺちぺちと叩いてさっさと起きるよう促す。
「起きてるわよ……! というか何で私ばっかり叩くのよ!」
「弱いお前が悪いんだろ」
別に気を失っている訳では無いようだ。
ヤバそうな傷口だけはサックリと回復魔法で応急処置を済ませた。
回復魔法とか、ああいう直接他者に干渉する魔法はあんまり使いたくないんだがな。
「正体見破ったり! 貴様は人間ではない! 貴様の正体は――精霊だな!」
……眼下に居る赤いスライムが、こちらを指差し(?)ながら声高々に断定してくる。
妙にすばしっこいし、スライムの癖に炎使うし、本当何なんだコイツ等。
「ハァ? 俺様が精霊? なーに言ってんだテメェ」
「俺達の目は誤魔化せんぞ!」
スライムに目は無いだろうが。
「どんな生物にも、魂というものは存在する。今、お前は人間では有り得ない魂の挙動を見せた」
赤いスライム、自称スライムレッドはどうやら確信を得ているようだ。
推測ではなく、断定。
「さっき、肉体が消失していたにも関わらず魂だけ健在、そして魂の状態だけで動いていた。そんな事が可能なのは、精霊以外に存在しない!」
……肉体を失い、魂だけの状態で存在しているのは精霊だけじゃない。
幽霊、悪霊とか呼ばれているのもそうだ。
だが幽霊は肉体という殻を失っているが故に、すぐにその魂が削られ風化し、大気中を漂う魔力へと変わっていく。
その風化作用にすら耐え凌ぐ、強靭な精神力で現存し続ける幽霊。
内、人々にとって良性なのが精霊、悪性なのが悪霊と呼ばれている。
だから精霊以外、だと半分正解なのだが。このスライムが精霊=幽霊と認識しているのならば正解か。
人々にとって、精霊とは神と同意義の存在だと子供の頃から教え込まれている。
精霊教会の教義というやつらしく、ファーレンハイト領の至る所に立てられた教会でそう民衆に流布している。
なので未だに精霊という存在は神様だと信じている連中も多いのだが、魔族は例外だ。
魔族は精霊というのは肉体を失っても尚存在し続ける魂、という的確な知識によって育っており、それ故に精霊を神格化などしていない。
魔族からすればそんな精霊をやたらと持ち上げ敬う人々は「何やってんだコイツ等」とでも言うべき相手であり、そんな態度が人々の神経、主に精霊教会の信徒を激昂させ、人と魔族は幾度と無くその血を流し続けた。
ただまぁ、今はロンバルディア共和国という存在の影響か、昔ほど精霊信仰は積極的では無くなったのだが。
「……無言な所を見ると、どうやら図星なようだな」
「当てずっぽうかよ」
「そう思えるか?」
……あの態度的に、違うんだろうな。
バレてる、か。
ま、バレた所でじゃあどうするんだ、ってなるのがこの術式なんだがな。
失伝魔法-精霊化。
刻まれた術式に応じて、自らの肉体を別の物質、または魔力に変換――そして再構築を行う、他の魔法とは一線を画す神域の魔法。
師匠の手によって俺の魂に直に刻まれた、既に失われてしまった上級魔法をも超える魔法――禁呪と呼ばれる代物。
一般的に、魔法使い達の間で語られる魔法の等級は3つである。
下級魔法。これは指先に光を灯したり、焚き火を起こす為の種火にしたりといった、生活で役立ちそうではあるが、戦闘で使うには頼りない程度の威力の魔法を指す。
中級魔法。鉄砲水を発したり、小規模な竜巻を発生させたり、火炎弾を発射したり……恐らく一般的な魔法使いが使う攻撃魔法、その大部分のイメージとなるのがこの中級魔法だ。
戦闘に使うに足るだけの破壊力もあり、金属鎧の鉄板を圧し折る位の威力は十分にある。
戦いに身を置く魔法使い達は、この中級魔法をどれだけ早く、どれだけ強く、どれだけ正確に発動させられるかという技術を磨いていくのだ。
そして、上級魔法。
天雷、大寒波、地震、溶岩流……一度この魔法が発動すれば、小さな村程度であらば一発で廃村になり、戦争であらば一部隊が壊滅する。
天災を人為的に引き起こしたかと錯覚する程の高威力の魔法であり、その威力は正に天災そのもの。
防ぐのも至難であり、そして発動させるのも至難。
この上級魔法を一人で発動させられる者は、世に言う「英雄」とか――それこそ「勇者」と呼ばれ、称えられる程の実力者。
そして四体がかりとはいえ、目の前のスライム達はこの上級魔法を行使した。
速度と威力を上げる為に四体で使ったんだろうが、恐らく一体でも使えるのだろう。
それを考慮すれば……成る程。数でも上回るこのスライム達にフィーナ達が敗れるのも無理は無い話だ。
上級魔法の更に上に位置するのが禁呪と呼ばれる代物であり、上級魔法の威力とは思えない、更にその上の破壊力を持ってるのが禁呪だ――とか、時々世の魔法使い達が話しているのを聞いたりするのだが。
師匠曰く、禁呪とはそういう代物では無いらしい。
上級魔法に分類される魔法は、例えどれだけ破壊力を上げても等級は上がらず、何処まで行っても上級止まりらしい。
上級魔法とは、言うなれば禁呪の成り損ないだそうだ。
禁呪以上の魔法を操れるような傑物が世に現れず、知識が断絶、混在してしまった結果、上級魔法のすげーやつ、という認識が人々の間で広まってしまった結果が今の状態だとの事。
更にこの禁呪よりも上に位置する魔法の最奥、神の力とでも呼ぶべき"根源術"という魔法が存在するらしいが……俺はまだ、そこまで辿り着けていない。
どうやら目の前のスライムは若干回答がズレている気がしなくもないが、それでも大体の意味では当たっている。
精霊化を発動している最中は、確かに俺は精霊と呼ばれているような存在になっている。
肉体は、無い。故に肉体へダメージを与える事は出来ない。
魂は、通常見えない。見えないモノへ攻撃を当てる事は出来ないし、そもそも一般的にイメージされている攻撃方法では魂を傷付ける事は出来ない。
怪我を負っていても、一度精霊化した上で肉体を再構築すれば怪我をする前に元通り。その為回復魔法も必要ない。
魂に直接術式が刻まれている為、杖のような補助器具が一切要らず、ラグが無く詠唱も不要の為、即座に発動する隙の無さ。
しいて問題点を挙げるなら、この精霊化は属性に応じた形状を取る為、例えば炎属性の精霊化術式では精霊化した際にその肉体が炎に変換される。
なので自分の居場所がバレるという欠点があるのだが、俺にはそれが無い。
俺の精霊化は、風属性。つまり風……空気に肉体が変換される。
空気は、見えない。それ故にこの唯一の欠点すら克服している。
まぁ、むしろ一番の問題点はこの精霊化と一緒に消えられて一緒に現れてくれる優秀な装備品が何処にあるんだっていう所だったんだがな!
この服を手に入れるまでは精霊化する度に全裸になってたからな!
わざわざスライム共に正解を教えてやる義理も無いが、例え答えが分かった所でどうしようもない。
対策しようが無い、理不尽な魔法。
それが禁呪、そして根源術と呼ばれる魔法なのだ。
「で? 俺様が仮に精霊だったとしたらどうすんだよ?」
「……無論、倒すまでだ! 先程の女子であらばいざ知らず。貴様のような邪悪な者を、これ以上この地にのさばらせる訳にはいかん!!」
「いきなり邪悪呼ばわりとか随分言ってくれるじゃねえか。何か根拠でもあるのかよ?」
「……俺達は、相手の感情の輝きを見る事が出来る力がある。これは、俺達が先代からスラレンジャーの名を継いだ時から得た力だ」
突然変異みたいなお前等に先代が存在するのかよ。
一体何なんだよそのスラレンジャーって。
「先程の女子三人からは、愛と闘争心と怒りの感情を感じた。怒りは綺麗な感情とは呼べないが、義憤という怒りもある。どれも戦いに用いる魔力としては健全な輝きだ。だが! 貴様からはドス黒い感情の魔力しか感じない! そんな魔力を持った奴で内面が良い奴など見た事が無い! 貴様は吐き気を催す邪悪そのものだ!!!」
「ライゼル……あんた」
スライムレッドの発言を受け、フィーナが俺の事を半目で睨みながらポツリと呟く。
何だよ。何だよその目は。
「……じゃあお前等はその邪悪とやらに敗れる運命だったって事だな」
俺の精霊化の術式を見破ったのには驚いた。今まで誰にもバレて無かったからな。
だがそれと戦闘能力が伴っているかは別問題だ。
少なくともフィーナ達を下す実力はあるみてぇだが。
面白ぇ。少しだけ本気で相手してやるよ。
折角俺様がやる気になったんだ、そう簡単にぶっ潰れんじゃねえぞ……!




