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68.ロゴモフ山道

書いてて楽しい

 ライゼル達の乗り込んだ車両は、目的地となるロゴモフ山道、その途中まで延びた路線までほぼノンストップで走行を続けた。

 道中それ以外の駅には補給以外で一切停車せず、乗客や貨物の積み下ろしによる停車時間が無かった為か、翌日の朝には目的地へと到着した。


 ロンバルディアとファーレンハイト、二国を分かつ天然の国境となるファーロン山脈。

 その山頂から注ぐ雨水や雪解け水によって成形された、澄んだ川の流れが線路の真横を流れ去っていく。

 ロゴモフ山道は大小様々なファーロン山脈の中でも比較的高度の低い場所に位置しており、かつてはロンバルディアの地へ赴く際には必ず通る主要の道の一つであった。

 しかしながら、遠回りではあるがファーレンハイト領の末端に鉄道網が延びた事で、このロゴモフ山道は主要の道の座から一歩退く事になった。

 だが使われていない訳ではなく、ロンバルディア領に入る際の直線距離でいえばこのロゴモフ山道が最短距離である事実は何も変わっていない。

 大量の荷物を運ぶ必要がある商人であらば話は別だが、身軽な旅人や傭兵であらば、遠回りして乗車賃を払って蒸気機関車を利用するよりも早くロンバルディア領に入る事が出来る。

 それ故に数百年単位で使われ続けている、歴史ある街道。それがこのロゴモフ山道である。


「――ロンバルディア側から一つ目の吊り橋を渡った先で交戦したという報告ですので、恐らくそこで鉢合わせになる可能性が高いと思われます。では、御武運をお祈りしております」


 事務的な口調で話すキルシュに見送られ、ライゼル達はロゴモフ山道、その入り口へと足を踏み入れる。

 尚、イブラヘイムは何時の間にか車両からいなくなっていた。

 キルシュの話によると、イブラヘイムは飛行船という空飛ぶ研究施設を個人で保有しているらしく、そこに帰ってしまったそうだ。

 飛行船は上空を飛行している為、地上ではその飛行音を聞く事は出来ず、恐らくその為気付かなかったという事らしい。

 どうやって飛んでる飛行船に乗ったのか、という疑問は置いておく。


「……たかがスライムに遅れを取るっていうのもおかしな話ですよね」


 襲撃犯であるスライムを探すべく、一先ず目撃証言のある吊り橋を目指して山道を進んでいくライゼル一行。

 その道中、未だに不可解な疑問をセレナが口にする。


「ねー。攻撃魔法が使えないならまだ分かるんだけどね」

「セレナさんセレナさん。強化魔法しか使えない小娘が何か言ってますよ」

「うっさいわね! 敵なんか殴って倒せばそれで良いでしょ!」

「その殴るのが通用しないのがスライムなんですけどね」


 魔法の才能が無い――という訳ではないが、野生の感覚で魔法を使うフィーナは一般的にイメージされる攻撃魔法を使えない。

 そんな彼女の泣き所をライゼルに突かれた為、語気を強めるフィーナ。

 フィーナが使う魔法は、単純に自分の能力を引き上げる肉体強化のみ。

 なので、大衆に雑魚呼ばわりされているスライムといざ直接対面するとフィーナは中々しんどい思いをする事になる。


「うーむ……しかし斬っても傷を与えられない敵とは厄介な……」

「ミサトさんは剣だけじゃなくて魔法も使えるんですから、出会っても何とかなりますよ」


 尚、今回ライゼルが引き受けた(強制された)スライム退治の仕事。

 面倒臭がりのライゼルはフィーナ達に押し付ける事にしていた。

 イブラヘイムからライゼルへ、ライゼルからフィーナ達へ。厄介事の押し付け合いである。

 ライゼルは、強者との戦いを求めている。

 そしてスライムというのはライゼルからすれば最早雑魚とすら呼べない代物で、視界に入った瞬間弾け飛ぶ程度の魔物でしかない。

 そんな相手にライゼルの戦闘意欲が刺激される訳も無く、早々に面倒臭いとフィーナ達に押し付けたのだ。

 無論、ちゃんと問題事を片付けられたならばキルシュから払われる報酬は渡すという約束である。

 セレナやミサトは別にタダ働きでも構わないようだが、フィーナがキレた為山分けという事になった。


 スライムと遭遇したと言われた、一つ目の吊り橋を渡る。

 山間部を繋げる吊り橋であり、ロゴモフ山道にはこういった吊り橋が数箇所存在している。

 ロンバルディア側から見てその一つ目を、渡り終えた。


「この先でスライムが出たんだよね?」

「この辺りで出るスライムを探せって事だよね」

「……そういえば、まだ聞いてなかったんでござるが。スライムというのはどういう外見をしてるのでござるか?」

「んー、何か動く水の塊みたいな感じ。そんなのを見付けたら、それがスライムだよ」

「了解でござる」


 散開して探索、もしスライムを発見したら連絡を取り合うという方法でスライムを探し出すフィーナ、セレナ、ミサト。

 その間、ライゼルは時計と睨めっこしつつ待機している。

 時折、戦闘音が静かな山間に響く。魔物と遭遇したのだろう。

 数時間程探索を行うが――結果はなしのつぶて。

 一度、ライゼルの居る場所まで三人は戻って来る。


「魔物はちょいちょい出てくるけど、スライムとは一回も出会わなかったよ?」

「私も空からある程度見て回りましたけど、居ませんね」

「拙者もスライムと呼ばれている魔物とは出会わなかったでござるよ」


 首を傾げる三人を流し見つつ、独り言を呟くようにライゼルは言及する。


「吊り橋の先、としか言ってないだろ。山の上じゃなくて多分、下に降りるんじゃねーの? 作業員が襲われたんだろ? ここに鉄道が通れるだけの橋を掛けるとなると吊り橋と違って柱を立てないと駄目だ、なら下に降りて作業をしている最中に襲われた、って考えても不思議じゃねえだろ」


 吊り橋の下には川が流れており、そこへ降りる道は獣道を除いて無い――のだが、良く見ると一部の茂みが切り開かれている。

 恐らく元々は獣道だったであろう場所を見付け、そこを人が通れるように整備した、といった感じの荒い道だ。

 通常の旅人であらば、わざわざこんな道を通って下に降りず、吊り橋を渡っていけば良いだけなので、この道を作ったのが線路敷設の作業員だという可能性は高い。


 切り開かれた道の先を通り、細い道を蛇行しつつ河川の近くまで降りていく。

 冷たい水の流れに沿うように、河川の周辺を探索する。

 周囲には木々が繁殖しており、生物が繁殖するには適した環境が広がっている。

 しばし先へ進むと、ライゼルの推測が当たっていたと確信に至る痕跡を発見する。


「……戦闘痕でござるな」

「この辺りで戦闘があったって事ね」

「じゃあ、この辺りを探索すればスライムを見付けられそうね」


 ようやくスライムと遭遇したと思われる地点を発見し、そこを中心に捜索を進める。

 やがて、ライゼル達はその場所へと辿り着く。


 木々に囲まれた、滾々と湧き上がる水が湛えられた場所。

 生水ではなく湧き水である為、そのまま飲めそうな程に清潔で澄んでいる。


「あ、スライムだ」


 いの一番に発見したフィーナが口を開く。

 水辺に蠢く、魔物。

 目も口も無く、その見た目は透明度の低い水の塊とでも言うべき代物であり、ズリズリと緩慢な動作で地面を這うように移動している。

 スライムの大きさは個体差が非常に大きく、小さい個体であらば30センチ程度、大きい個体であらば3メートル超えも確認されている。

 今回、フィーナが発見したスライムは小さい、ライゼル達の膝下程度の大きさしか無い個体であった。


「あれがスライムでござるか。本当に水の塊みたいな個体でござるな」

「前にフィーナから聞いてると思うけど、物理攻撃はまず効かないって考えてね。炎属性の魔法で攻めるのが基本よ」


 セレナは杖を構える。

 杖に刻まれた魔法陣が発光する。魔法行使の際に発生する魔力伝導による発光だ。

 狙いは、水辺に居るスライムである。

 自分が狙われている事に気付いたのか、スライムはその身を震わせてズリズリと移動を開始する。

 しかしその動きは緩慢だ。人間の3歳児の全力疾走の方が余程早い。

 不意打ちでなければ、個体が小さければ、逃げるのは容易く。弱点での攻撃手段が用意出来るのであらば倒すのも容易い。それがスライムである。

 そんな旅をする者であらば常識レベルで知られているセオリー通り。

 準備が整った炎の弾が、スライムへ向けて放たれる。

 モゾモゾと、必死に回避しようとするスライム。だがその回避速度は余りにも遅すぎる。

 その小さなスライムはセレナの発動する炎の弾によって飲まれ、焼き尽くされ――



「ファイヤーボール!!」



 ――放たれた炎の弾が、真横から飛来する炎の弾と接触する!

 誘爆し、炎の弾が空中で爆発を引き起こした!

 その隙に、小さなスライムは茂みの中へと逃げ切る事に成功し、その姿を眩ました。


無辜(むこ)の民の嘆く声! この俺の目が黒い内は決して見逃さん!!」


 恐らく、先程の炎の弾を飛ばした者の声だろう。

 声のした方向へ向け、ライゼル達は一斉に視線を向ける。


「誰!?」


 逆光の注ぐ、やや見辛い崖上へと目を凝らす。


 それは、一匹のスライムであった。

 やや距離が離れており、大きさがどの程度かは把握し辛いが、それでもそこそこの大きさの個体ではあるようだ。


「トウッ!!」


 そのスライムは気合の入った声と共に勢い良く崖上から跳躍し、空中で見事な宙返り(?)をしつつ、ライゼル達の居る開けた場所へとビシャアンッ! と着地(?)する。

 モゾモゾと着地(?)の際に散らばった自らの破片が集まり、元の形へと戻っていく。

 何だか崖上に居た時より少し小さくなっている気がしなくもないが、恐らく気のせいだろう。

 ライゼルの前に現れたスライムは、大きさこそライゼル達の背丈と然程差が無い大きさだが、他のスライムと少し違う所がある。

 透明度の低い水――ではなく、赤い体色をしているのだ。


「猛る炎が闇を焼き尽くす! スライムレッド!」


 ――目の前の赤いスライムが、名乗り口上を高らかに叫ぶ!


「母なる海が悪を飲み込む! スライムブルー!」


 一体何処から現れたのか。突如赤いスライムの隣に青いスライムが出現する!


「巡る風が涙を切り裂く! スライムグリーン!」


 直後、今度は緑色のスライムが!


「聖なる雷光が悲劇を貫く! スライムイエロー!」


 間髪入れず、黄色いスライムが!


「慈愛の心が憎悪を浄化する! スライムピンク!」


 更にダメ押しとばかりに、桃色のスライムが出現する!


「嘆きの涙ある所、我等有り! 弱きを助け悪を挫く! 我等正義の五つ星!」


 シュババッ! という効果音でも聞こえそうな勢いで、目の前の五色のスライムが蠢く!

 しかし水の塊のような風貌は目の前のどのスライムも同じなので、何かグニャグニャ動いてる、という印象しか抱かない。


「助けを求める声に答えるべく! 今ここに見参!」


 五色のスライムが、完全に同一の形状を取り、声を合わせる。



「「「「「スライム戦隊! スラレンジャー!!!」」」」」


 ちゅどーん!

 というなんともいえないサウンドエフェクトと共にスラレンジャーの背後から5色の爆焔が巻き起こる!



 何が起きているのか、状況を飲み込めていないライゼル達。

 ライゼルを含む全員が真顔で、目の前のスライムを呆然と見詰めるのであった。

罪無き子供に迫る魔の手ッッッ!

悲劇の連鎖を断ち切るべくッ! 我等のヒーローが立ち上がるッッッ!!

義憤を胸に、悪を討つッッッ!!

そうッッッ! 彼等の名は! スライム戦隊ッ! スラレンジャーッッッ!!!


次回ッ! スライム戦隊スラレンジャー第1話!

「反撃の狼煙!」


負けるなスラレンジャー!! スライム達の未来は、君達の手に委ねられたッッッ!!!

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