58.ライゼルの戦い
フィーナとセレナに手出し無用と静観するよう伝えるライゼル。
感情を見せない、というより欠落しているようにも見えるミサト。
異様な魔力を有する刀によって精神汚染に陥り、自我を見失っている為、言葉は通じず獣同然。
しかし戦闘能力自体は遜色無い所か、武器という下駄を履いているせいで身体能力以上のスペックを発揮しているミサトは、獣よりも始末に終えない存在であった。
ライゼルとミサトは百メートル程の距離を離した状態で向き合う。
それなりの距離にも思えるが、ライゼルからすれば銃弾が届くような距離は通常の人でいうインファイト同然の距離であり、これ程の距離ともなれば何時でも相手に頭突きが出来る程の距離でメンチを切っているも同然であった。
三人で掛かれば、確実かつ安全に倒せる相手だとライゼルは判断したが、その方法をライゼルは取らない。
何故なら、目の前の相手は自分が望む相手だから。強者との戦いこそが、ライゼルが世界を巡る目的の一つなのだ、これは譲れない。
一切、誰にも邪魔はさせない。
もっとも、邪魔を入れられるような者など、居ないだろうが。
最初に動き出したのはライゼルであった。
先程同様の、衝撃波を伴う直線的な突進攻撃。
言ってしまえば余りにも簡単だが、その速度と破壊力が異常なのだ。
ライゼルという男の体重を有する砲弾とでも言うべきそれは、壁など容易く突き破り、受け止めようとした盾や鎧など構えた人物諸共突き貫き、吹き飛ばす一撃。
避けようにも、銃弾を見て避けろと言っているも同意義の速度の前では、反応してから避ける事も常人では不可能だろう。
「緋炎刃」
魔力を纏った剣技、魔剣とでも言うべき技の発動を行うミサト。
刀身から火の粉を散らしながら、緋色の三日月のような飛ぶ斬撃を放つ。
その斬撃は真っ直ぐに、正面からライゼル目掛け飛来する。
ライゼルのこの突進攻撃は、その速度故に急制動が効かない。
急には止まれない、急には向きを変えられない。生きる銃弾とでも言うべき突進攻撃故に、これを放った後は途中で何かあっても突っ込むしか無いのだ。
このように、直線状に攻撃魔法が飛んで来たとしても、突っ込むしか無いのである。
「うざってぇ!!」
だから、ライゼルは突っ込む。
飛来した炎を宿す斬撃と、ライゼルの構えた短剣の切っ先が衝突する!
拮抗する様子も見せず、魔力の刃は真っ二つに圧し折れ、ライゼルは突進する。
しかし、圧し折れた魔力の刃は衝撃波の勢いには打ち勝ち、ライゼルの腕や足を僅かに掠め、その切れ味をライゼルの身体へと刻み込み、散っていった。
僅かにダメージを受けつつも、ライゼルはミサト目掛け突き進む!
「木葉舞」
――先程の再現。
再びライゼルの突進はかわされ、その攻撃は空を切った。
暴れる雄牛をいなす闘牛士の如く。ミサトは余計な体力を使わず、ライゼルの攻撃をあしらう。
しかしそれでいて、ライゼルは微々たるものだがダメージを負い、ミサトは一切傷を負っていない。
先程の攻防に関して言えば、ライゼルよりもミサトの方が上を行っていた。
「完全に見切ってやがるなこの女……いや、女か? まぁどっちでも良いさ、こんな直線的な攻撃じゃ倒せる相手じゃねえってなら次の手だ」
突進の勢いで再び原生林の一部を削りつつ、空中で制止するライゼル。
精神汚染によって、ミサトの精神は奥深くへ封じ込められ、今実際に剣を振るっているのは手にした刀に宿った意思という名の魔力だ。
肉体はミサトという少女の物であっても、今それを動かしているのは彼女の意思ではない。
ライゼルは、次の手を取る。
かわされるというのであらば、回避すら不可能な攻撃で制圧してしまえば良い。
点での撃破ではなく、面での一掃。
ミスリル銀糸程度の攻撃では防がれるというのなら、防ぎようが無い圧倒的な一撃。
「……吼えろ、生死隔てなく引き裂――」
――ミサトの顔が、ライゼルの目に飛び込む。
一秒足らずの、ほんの一瞬の詠唱の隙間でミサトは一気に空中のライゼルの所まで飛び込んできたのだ。
魔力で強化された肉体は、最早生物の範疇を越え。詠唱による魔法攻撃を妨害するべく、驚異的な速度でライゼルへ迫る!
既に、ミサトの手にした刀の刃が届く射程内にライゼルは囚われていた。
刃の煌きがライゼルの喉元へ迫り――
「――けェ!!」
詠唱を、切り替える。
ライゼルが使用するべく詠唱を行っていたのは、ライゼルの運用出来る魔法の中でも最大級の殲滅力を有する攻撃魔法。
流石に無詠唱で使えるような代物ではなく、詠唱による相応の魔力練り上げ時間が必要とされる。
故に、詠唱中は隙を晒す。
それをミサトが見逃すはずが無く、その隙を致命傷にするべく一瞬で迫る。
だが、それもライゼルの計算の内。
この魔法は囮で、詠唱を途中で切り替えるという手段により、殲滅魔法を魔法剣へと転用する。
詠唱中断ではなく、詠唱切り替え。
これにより、無詠唱ではなく詠唱を込めた魔法剣となり、通常の攻撃よりも遥かに威力が向上するのだ。
ミサトとライゼルの刃が、衝突する!
短い金属音と衝撃波を伴い、双方の身体が吹き飛ばされた。
「こういう間合いでの戦いは――!」
衝撃によって吹き飛ばされる勢いに、無理に逆らわず体勢を立て直すミサト。
そのまま地面へと着地するべく――
「姉弟子様と死ぬ程やりあって対策済みなんだよ!」
直後、ミサトの着地するべき背後の地面から届く声。
眼前に居たはずのライゼルの姿が消え、何処から現れたと聞きたくなる程の、まるで瞬間移動の如くミサトの背後に出現した。
咄嗟に身を捩り、刀を振り抜くミサト。
しかし未だ空中に居るせいで、足の踏ん張りが効かないが故にその剣は軽い。
降り抜いた刀は、容易くライゼルの短剣で受け止められ――
「避けてみろ。衝波激突剣!」
ゼロ距離で放たれる、突進攻撃!
回避動作をしようにも、空中で、しかも無理に攻撃するべく体勢を崩した事により回避は不可能。
ミサトは、ライゼルの攻撃を見事にいなしていたが、受け止めていた訳ではない。
それはつまり、防げる破壊力ではないと判断したが故の行動。
当たればただでは済まないからこそ、回避という選択を取ったのだ。
「そのまま圧し折れやがれ!!」
銃弾の如く、一瞬でトップスピードに達する程の瞬間的な加速で放ったライゼルの一撃!
ライゼルの神経を逆撫でしたせいで、突進の加速度は通常よりも遥かに早く、その衝撃はミサトの体勢を崩し、ミサトの持つ刀、その一点に破壊力が集中する!
ライゼルは、最初から武器破壊を狙っていたのだ。
ミサトはただの被害者であり、彼女自身には何の罪も無い。
救う、などという判断をするようなライゼルではないが、それでも何の罪も無い人を殺して平然としていられるような、そんな神経をライゼルは持ち合わせていなかった。
精神汚染の原因は、ミサトの持つ刀。
原因を排除すれば、暴走は止まる。
無論、精神汚染の度合いによっては、もう回復不可能な状態になっている事も考えられる。
だがそれでも、最大の攻撃力となる武器を奪ってしまえば、容易く組み伏せられる。
武器さえ破壊すれば、その後どうなるかはミサト本人の問題。
ライゼルの突進攻撃の直撃を刀に受け、その衝撃が伝わり、何本もの原生林を巻き込みつつ吹き飛ばされるミサト!
通常の人間であらば死んでいて当然だが、魔力によって肉体が強化されている現状であらば死にはしないだろう。
土埃と枯葉を巻き上げ、ミサトは原生林の中へとその身体を吹き飛ばされ、叩き付けられ――
やがて、静まりかえるのであった。
あつい。




