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45.危難

「――あれ? ライゼル様は?」

「……居ない。何処行ったあの馬鹿」

「――それでねー、闘技場都市で旗揚げして傭兵家業から一つ上のランクにでも行こうかなーって考えてる訳よ」

「ほら、闘技場都市って強さも大事らしいけど、人気の出る戦いってのも重要らしいじゃん?」

「だったらあたし等でも行けるんじゃね? って感じでー」


 こっそりフィーナとセレナの側を離れ、後部車両を散策する。

 俺様レベルにもなると、存在感を出したり気配を消したりなんかはお手の物である。存在感が空気って奴だ。

 他の車両には特に目を引くというか野郎ばっかだったのでガンスルーしてきたが、最後尾のボックス席に女性だけの一団が陣取っているのを発見。

 蒸気機関車での長旅で少々暇を持て余していたようで、声を掛けてみた所相手はまんざらでも無さそうな様子である。

 これは、もしかして行けちゃうパターン?


「俺様生憎闘技場都市には行った事は無いんだけどさぁ~、強い奴を見る目だけは確かなつもりなんだよねぇ~。ここの子達はみーんな強そうに見えるし、きっと有名になるぜぇ~! 俺様、今の内にサインでも貰っちゃおうかなぁ~! でっひゃっひゃっひゃ!」

「えー! どうしよう? サインなんて練習してないよー」

「今の内に練習とかしといた方が良いんじゃね?」

「俺様で練習しとくのも良いかもしれないぜぇ~! 有名になってからサインが書けませんとかちょいと恥ずかしいしさぁ~」

「えー? どうしようかなー?」


 感触も悪くない。

 よーしそろそろ切り出すか。


「一度ソルスチル街で降りるんだろ? ソルスチル駅に着いたら、俺様と一緒にアバンチュールな一時を――」

「はいそこまでー」

「痛ててて!?」


 耳に引き裂かれるかのような痛みが走る。

 後ろを振り向けば、そこにはやはりフィーナの姿が。


「ウチのライゼルがご迷惑お掛けしました、責任もって回収するのでご容赦下さい」


 先程まで話し込んでいた花畑の面々に頭をペコペコ下げ始めるフィーナ。

 何だよそれ、まるで俺が悪い事してるみてえじゃねえか。

 可愛らしい女性陣と俺が話してる事の一体何処が悪いってんだよ。


「何時俺様がお前のモノになったんだよ」

「首輪付けられないだけ感謝しなさい」

「俺は犬か」


 犬はお前だろ。

 しかも駄犬の部類。


「ライゼル様、私が居るなら他の女なんて必要無いんじゃないですか?」


 フィーナの背後から妙な束縛感を感じる。

 後ろに目を向ければ、仁王立ちでその場にたたずむセレナの姿が。

 笑顔を浮かべてはいるのだが、俺にはどうもその表情と内心が一致しているようには到底思えない。

 フィーナはすぐに感情が顔や態度に出るので分かり易いのだが、セレナは単純思考をしていない分、底の見えない気迫というか圧迫感というか、何かそんな雰囲気を感じる。


「犬より尚悪いわよ、犬は首輪を勝手に外して逃げたしたりしないし」

「――ん?」


 フィーナが終わった事に何時までもグチグチと文句を垂れている最中。

 客車内の空気が変わった事に気付き、前方車両へと繋がる扉へと目を向けた。

 

 前方車両から、三人の男が現れる。

 二人が抜き身の剣を、一人が杖を所持しており、目元以外の全身を布で覆い隠している。

 僅かに覗く目元からは明確な敵意が感じ取れる。


「全員壁に手を付いて大人しくしろ! この車両は我々砂狼(さろう)(きば)が占拠した! 抵抗する者は容赦無く殺す!」


 その敵意が、明確な言葉として放たれる。

 明言された事で、車両内の乗客の態度が極端に二分化された。

 一つは怯え、動揺する人々。これは戦う術を持たない人達だろう。

 もう一つは無言で自らの武器に手を伸ばす人達。こちらはいざとなれば即座に交戦、反撃に転じる気に満ち溢れていた。

 先程、俺が話していた女性達もこの後者であり、目配せして反撃に転じようという空気が感じられる。


「――どうしますか、ライゼル様」


 気持ちを切り替え、俺の耳元で方針を訊ねるセレナ。

 どうする、の部分は今回の場合だと先制攻撃を仕掛けるかどうかという話だろう。

 セレナも後者パターンか、フィーナはまだ状況が飲み込めていないようで少々混乱してるが、落ち着けば間違いなく抵抗しようとするだろう。

 フィーナは目の前で罪の無い人が傷付けられたり苦しめられるのを放っておけない性格してるからな、凄く分かり易い。

 俺様の周りって気の強い女ばっかだなあ。もうちょっとこう、おしとやかな感じの女性はいないものか。

 にしてもまーた砂狼(さろう)(きば)か。何か最近良く遭うねえ、ストーカーか何かか?


 と、下らない事を考えてしまったが。そろそろ真面目に考えるとしよう。

 この状況で先制攻撃を仕掛けるのは正直不味い。

 敵がたった三人だけとは考え難いし、前方車両の状況が掴めない。


「我々から定時連絡が無い場合は直ちにこの車両を爆破する手筈になっている、無駄な抵抗はするなよ」


 こちらの抵抗する気配を感じ取ったのか、抜き身の剣を持っていた男の一人が大声で宣言した。

 その発言により、抵抗を試みていた面々に動揺が走る。

 目の前の敵を倒すだけでは終わらないのであらば、この三人だけを倒しても意味が無いからだ。


「……大人しく従っておけ」

「わかりました」


 小声でセレナに指示を出し、抵抗しない事を選択する。

 そもそも、この男達の口振りからして乗客には利用価値があると考えている節がある。

 乗客達を何らかの駒として使う予定が無いのであらば、余計な反乱の種を摘む為にさっさと殺してしまった方が早い。

 そうしないという事は、可能なら殺さずに無力化したいという事なのだろう。

 そして使い道というのはこの状況から察するに十中八九人質だろう。

 今この状況で変に抵抗すると、奴等の言う爆破とやらが成されてしまうかもしれない。

 爆弾とやらがただのハッタリの可能性もあるが、今この状況でそれの真偽を確かめる術は無い。

 ハッタリだと決め付けてこの車両を爆破とかされたら、どうなるか分かったもんじゃないしな。



 男達三人は手分けして乗客達の身体検査を行い、武器を隠し持っていないか調べて行く。

 持っていた武器を全て取り上げられ、一箇所に固めて放り投げられた。

 俺の持っていた短剣も接収されてしまった。それだけで済ませるとかガバガバな検査だなオイ。俺の武器はその短剣だけじゃ無いんですけどねえ。

 身体検査の際、女の身体を触る時間が妙に長かった気がする。うらやまじゃなくてけしからん。

 その後、人質として二人一組で後ろ手に縛り上げられた。

 しかし……力量を見極める目はある程度あるみたいだな。

 俺だけじゃなくてフィーナもセレナも、客車内の中でも戦闘能力の無い、足手纏いをくっ付けられてる。

 武器を取り上げ、その上で更に反抗の目を潰す為に、比較的有力だと思われる連中に必ず邪魔な人質を一緒に縛り上げる事で身動きを封じている。

 この状態での抵抗は難しいだろう、殺さないように脅威を無力化する為の手段としては中々のものだ。


「――こちらデルタ、今の所異常は無い。そっちはどうだ?」


 杖を持っている奴は通信手段を持っており、それで他の車両の誰かと通信しているようだ。

 犯人グループが複数この車両に乗り込んでるのはやっぱり間違い無さそうだ。

 短剣を取り上げられ、人質多数。

 武装した三人の男、狭い室内……か。



 ――こんな程度で俺を止められると思ったら、大間違いだっつーの。

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